【事例】
Aさんは、経営管理の資格で日本に在留する外国人です。
ある日、奥さんのBさん(外国籍)とけんかになった際に、「誰が、稼いできていると思っているんだ」と怒鳴りながら、Bさんに包丁(刃体の長さ16センチ)を向け、腕にけが(全治7日程度)をさせてしまいました。この際、Aさんとしては、Bさんに反省してもらいたいという思いから刃を向けており、殺すつもりはなかったとのことでした。
なお、Aさんに前科前歴はありません。
この場合に、Aさんは、どのような刑事処分を受けるのか、退去強制になるのかについて解説していきます。
このページの目次
(1)どのような刑事処分を受けるのか
人をけがさせた場合、通常は傷害罪が成立するのですが、今回の事件のように、包丁などの刃物を使って人をけがさせた場合は異なります。暴力行為等処罰に関する法律1条の2によれば、「刀剣類を用いて人の身体を傷害した」場合には加重傷害罪が成立することが規定されています。
この加重傷害罪の法定刑は1年以上5年以下の懲役刑であり、通常の傷害罪とは異なり、罰金刑が予定されていません。そのため、軽くとも、執行猶予付きの懲役刑となります。
この暴処法違反の刑の重さは、①どのくらいのけがをさせたのか、②用いられた刃物はどのくらい危険だったのか、③前科前歴はあるのかなどによって判断されます。
①については、けがの程度が重ければ重いほど、重く見られます。
②については、用いられた刃物が大きいなど危険な場合、重く見られます。
③については、前科前歴があれば、重く見られます。
なお、被害者が家族ではない場合には、示談をすれば不起訴で終わったり、刑罰を軽くすることも考えられます。しかし、家族である場合被害者へ被害弁償をしたとしても、実質的には、加害者の金のままであるということが考えられるので、今回の事件のような場合には示談を行ったかどうかについては、決定打にはなりません。
今回の事件の場合、Bさんのけがの程度は、全治7日と重くはないこと、包丁を用いており危険性がかなり高いとまでは言えないこと、Aさんには前科前歴がないことから、執行猶予付きの有罪判決となることが見込まれます。
暴力行為等処罰法違反事件についての解説はこちら。
(2)退去強制処分になるのか
「経営管理」の在留資格の人が退去強制になるかについては、入管法24条4号の2に根拠があります。
この規定は、暴力行為等処罰に関する法律1条の2の罪が掲げられていますので、執行猶予付きでも懲役刑になった場合には、退去強制処分の対象となります。
そのため、仮に、日本に残りたいという場合には、在留特別許可を求める必要があります。
(3)弁護士としてできること
このような刑罰や退去強制処分が予想されることから、弁護士としては、①再犯防止のために、別居するなどの再発防止措置をとり不起訴を目指すこと、②在留特別許可を得られるよう活動することができます。
①については、AさんとBさんでいったん別居するなどして、再度暴力をふるうことがないような環境を整え、不起訴を目指していくことが考えられます。
②については、仮に、この件で有罪になったとしても、在留特別許可を得ることができるよう活動することで、日本に在留できるよう目指すことが考えられます。
このような活動ができますので、DV事件や暴力行為等処罰に関する法律違反の事件を起こしてしまった場合には、早めに弁護士に相談することをお勧めします。
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