日本人の配偶者という在留資格で日本に滞在しているAさんは、ある日通行人とトラブルになり、ついカッとなって手を出してしまいました。
これにより被害者は全治2週間程度のけがをしてしまい、Aさんは駆け付けた警察官に逮捕されてしまいました。
以上を前提として
①Aさんが受ける刑事罰はどのようなものになるか
②①の刑事罰によってAさんは退去強制となることがあるか
以上の点について解説していきたいと思います。
このページの目次
⑴ 傷害罪の刑事罰
傷害罪は刑法204条に定めがある罪で、その法定刑は15年以下の懲役又は50万円以下の罰金となっています。
15年以下と極めて重い罪になっていますが、これはけがの程度によって法定刑の区分がないからです。全治2週間のけがであれば、懲役15年というような判決を受けることは
通常考えられません。
傷害罪の具体的な刑罰を決める際には、①けがの程度はどのくらいであるか②けがをさせるに至った経緯はどのようなものか③被害回復がなされているか④何回目の検挙であるかが大きな考慮要素となります。
①まずけがの程度ですが、これは単純に重いけがをさせればさせるほど刑が重くなるということになります。ただ、全治1週間とと4週間で比較すると4週間のほうが4倍悪いという単純なものではありません。
②事件を起こした経緯ですが、通常は何らかのトラブルがあったことが原因だと思われますが、被害者側に落ち度があった場合には、刑を軽くする事情となります。
③傷害罪は、人にけがをさせた罪ですので、治療費が発生します。この治療費の支払いや、慰謝料が支払われているかなどは重要です。
④最後に、傷害のような事件の場合これが大きな問題となってくるのですが、何回目の検挙であるかも重要です。いくらけがの程度が軽く、被害回復がなされていたとしても、何度も何度も
検挙されているような状況では、処分を軽減することにも限度が生じます。一般的な感覚の通りですが、通常は1回目より2回目が、2回目より3回目が、3回目より4回目が重い処分となります。
また、前回と今回の間隔(何年程度空いているか)も重要です。これがあまりに近いということになると、常習性が疑われて、より重い処分となります。
そこでAさんの刑事罰ですが、1回目の検挙であれば被害回復を行っていれば起訴猶予となる可能性も十分あります。ただ、2回目であれば罰金、3回目であれば執行猶予付きの判決という形でどんどん重くなってきます。また、たとえ全治3日のような借る怪我であっても、執行猶予付き判決中や猶予期間満了後すぐにやってしまうと、刑務所に行く実刑判決となる可能性が相当高いと言えます。
⑵ 退去強制となるか
それでは、Aさんの刑事処分により退去強制となるかについて検討します。
退去強制事由については入管法24条に定めがあります。ただ、Aさんは日本人の配偶者資格ですので、在留資格としては別表第2の資格となります。
同条4の2には「別表第一の上欄の在留資格をもつて在留する者で、刑法第二編第十二章、第十六章から第十九章まで、第二十三章、第二十六章、第二十七章、第三十一章、第三十三章、第三十六章、第三十七章若しくは第三十九章の罪、暴力行為等処罰に関する法律第一条、第一条ノ二若しくは第一条ノ三(刑法第二百二十二条又は第二百六十一条に係る部分を除く。)の罪、盗犯等の防止及び処分に関する法律の罪、特殊開錠用具の所持の禁止等に関する法律第十五条若しくは第十六条の罪又は自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第二条若しくは第六条第一項の罪により懲役又は禁錮に処せられたもの」という定めがあり、この条文に該当する場合には仮に執行猶予判決であったとしても退去強制となるように思われます。
しかし、先ほど述べた通り、Aさんは別表第2の資格ですから、この条文には該当しません。ですので、執行猶予判決の場合にまで退去強制となるというものではありません。
ただ、4号リにある「リ ニからチまでに掲げる者のほか、昭和二十六年十一月一日以後に無期又は一年を超える懲役若しくは禁錮に処せられた者。ただし、刑の全部の執行猶予の言渡しを受けた者及び刑の一部の執行猶予の言渡しを受けた者であつてその刑のうち執行が猶予されなかつた部分の期間が一年以下のものを除く。」については適用がありますから、1年以上の実刑判決を受けた場合には退去強制事由に該当します。
先ほども述べたところですが、傷害だからといって実刑判決とならないというものではありません。何度も繰り返していた場合にはいずれ実刑判決となってしまいます。このようになれば退去強制事由に該当してしまっていますし、何度も繰り返し刑事罰を受けていますから在留特別許可を得ることもできないと思われます。
⑶ 弁護活動
傷害だからと言って軽い犯罪だと考えてはいけません。実刑判決を受けることもある重大な犯罪です。
また、一瞬の苛立ちからついでやっていたとしても、何度検挙されても繰り返すという方も多数おられます。
ですから、傷害で検挙されたり、ご家族が傷害で検挙されたような場合には速やかに弁護士にご相談ください。
被害者への被害弁償はもちろん必要ですが、それだけではなく将来の在留資格更新を行ったり退去強制とならないようにするためにも、専門の弁護士にご依頼ください。
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