【事例】
Aさんは「技術・人文知識・国際業務」の在留資格で日本に在留している外国人です。
Aさんは日本で働いていたところ,日本での仕事を続けたいと思うようになり,何とかして在留資格を延長できないかと思うようになりました。そこで,在留資格を伸ばしたい外国人と独身の日本人とを在留期間延長のために一時的に結婚させるサービスを提供する会社甲を通じて,偽装結婚をすることを思いつくようになりました。
甲社に登録したところ,日本人のBさんを紹介され,Bさんと結婚する気が無いにもかかわらず,交際期間0日で,Bさんと会うことも無く,Bさんとの婚姻届けを役所に提出しました。Bさんと結婚した後は特に,Bさんと同居しているなどはしていませんでしたが,Bさんと結婚していることを理由として,在留資格を日本人配偶者とするよう変更を申請しました。しかし,AさんはBさんとの関係などについてうまく答えられなかったことから,偽装結婚が疑われ,調べたところ,偽装結婚であることが判明したため,Aさんは逮捕されてしまいました。
このような事件の場合,①どのような刑事処分を受けるのか,②退去強制処分となるのかについて解説していきます。
(1)偽装結婚を行った場合の刑事罰
偽装結婚を行い,婚姻届けを役所に提出し,受理された場合には,刑法157条1項の公正証書原本不実記載罪が問題となります。
公正証書原本不実記載罪は,「公務員に対し虚偽の申し立てをして,登記簿,戸籍簿その他の権利若しくは義務に関する公正証書の原本に不実の記載をさせ,又は権利若しくは義務に関する公正証書の原本として用いられる電磁的記録に不実の記載をさせた」場合に成立するとされます。偽装結婚というのは,役所の職員に対して,婚姻届を提出し,戸籍簿に結婚の事実を記載させるため,この公正証書原本不実記載罪に当たる罪になるとされます。
また,この偽装結婚の結果できた戸籍を示して在留資格の変更の申し立てをした場合,内容虚偽の公文書を誰かに見せることになるので,虚偽の公文書を「行使」したといえ,刑法158条1項の虚偽公文書行使罪も問題になります。
この公正証書原本不実記載罪と虚偽公文書行使罪の法定刑については,どちらも5年以下の懲役又は50万円以下の罰金が予定されています。
これら罪で有罪になった場合,量刑相場はだいたい決まっており,前科のない外国人であったとしても執行猶予付きの懲役刑の有罪判決となることが予想されます。そのため,今回のAさんについても執行猶予付きの懲役刑の有罪判決を受けることが予想されます。
(2)退去強制事由となるか
技人国の在留資格の外国人が偽装結婚を行い,公正証書原本不実記載罪と虚偽公文書行使罪に当たる行為を行った場合には,退去強制事由になります。
このことは,入管法24条4号の2に根拠規定があります。入管法24条4号の2によれば,技人国などの在留資格で日本に在留する外国人が刑法第17章の公文書偽造関係の罪で有罪となり,懲役刑の判決を受けた場合(執行猶予付きの有罪判決を含む)には退去強制事由となることが規定されています。
そのため,今回のAさんのように偽装結婚を行い,執行猶予付きの懲役刑となった場合には,退去強制処分を受ける可能性があります。
また,刑事罰を受けなかったとして偽装結婚を利用して日本人配偶者のビザを取得した場合,「偽りの方法」によって査証(ビザ)等を受けたことになり,それ自体が退去強制事由となってしまいます。
(3)弁護士として何ができるのか
このような処分が予想されることから,弁護士としては,①(本当は結婚する気が合った等の事情がある場合,)結婚する気があったため,虚偽の申し立てではないということを主張して,不起訴や無罪を目指すことや,②特別在留許可の申し立てを行うなどして,日本に在留できるよう働きかけることが考えられます。
特に①のように,刑事事件で争っていくというような事情がある場合,どのように否認するのか,どのように取調べに対応するのかが重要になってきますので,迅速に弁護士に相談することをお勧めします。
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