このページの目次
【事例】
Aさんは、日本に永住資格で在留する外国人です。Aさんは、海外旅行に行くことが多いことから、日本のパスポートを所持しています。
ある日、友人のBさん(Aさんと同じ国の出身、見た目は似ていない)から、「明日からアメリカに旅行に行きたいが、パスポートをなくしてしまった。だから、パスポートを貸してほしい。」と言われ、パスポートを貸してしまいました。
数日後、Bさんが、アメリカにコカイン1キロを密輸しようとして逮捕されたとの報道があり、その際にAさんのパスポートを提示したとのニュースがあり、間もなく、Aさんは旅券法違反、コカインの密輸出の疑いで逮捕されてしまいました。
Aさんのコカイン密輸出については、AさんとBさんとの間でコカインに関するメール等のやり取りがなかったことから、不起訴になりましたが、Aさんは旅券法違反で起訴されてしまいました。
なお、Aさんに前科はありません。
このような事例の場合に、①Aさんはどのような刑事処分を受けるのか、②退去強制処分を受けるのかについて解説していきます。
(1)旅券法違反に対する刑事処分
旅券法23条1項3号によれば、「行使の目的をもって、自己名義の旅券又は渡航書を他人に譲渡し、又は貸与した」場合に、5年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金が予定されています。
なので、今回のAさんのように他人に旅券を貸与する行為は刑事罰の対象になります。
旅券法違反単独の事件というのは、文書偽造罪との関係で問題になった事例が多く、量刑傾向をつかむのは難しいのですが、他人にパスポートを貸す行為については、執行猶予付きの懲役刑になる傾向があるようです。
なぜなら、他人にパスポートを貸す行為というのは、密入国やパスポートの偽造などの危険が大きいものであり、パスポートの信頼を揺るがしかねない物だからです。
旅券法違反の量刑については、①パスポートを貸した目的、②パスポートを貸すことになった経緯、③営利目的でやっていないかどうかによって判断されます。
①については、パスポートを貸す目的が、密入国を助ける目的だったり、文書偽造の目的であったりする場合には、重く見られます。
②については、パスポートを貸すことになった経緯として脅されて課したなどの酌むべき事情がある場合には有利に見られます。
③については、営利目的で反復継続して貸しているような事情がある場合には重く見られます。
今回のAさんの場合、パスポートを貸す目的が海外旅行に行く友人を助けるため、友人から貸してほしいと頼まれたために課していること、営利目的で行っていないという事情を考慮してAさんの量刑を判断することになります。
外国人の刑事事件についてはこちらでも解説があります。
(2)退去強制処分を受けるのか?
入管法24条4号ニによれば、「旅券法23条第1項から3項までの罪により刑に処せられた者」については、退去強制処分の対象になることが規定されています。
そのため、今回のAさんについては、旅券法23条1項の犯罪を犯して、刑に処せられると考えられることから、退去強制処分の対象となります。
(3)弁護士にできること
このような処分が予想されることから、弁護士にできることとしては、①Aさんに有利な事情を提出して刑事裁判でなるだけ有利に判断してもらうこと、②在留特別許可を得るようにして、なるだけ日本に残れるよう求めることができます。
以上のような活動を行うことができますので、他人にパスポートを貸してしまった場合には、早めに弁護士に相談することをお勧めします。
お問い合わせはこちらからどうぞ。