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永住者が偽造クレジットカード事件に関与した場合の刑事罰と入管法上のリスク
永住権を持つ外国人が偽造クレジットカードの密輸に関与した場合、日本の法律でどのような刑事罰を受ける可能性があるのか、また入管法上のリスクとして退去強制(強制送還)があり得るのかについて解説します。具体的な事例として、永住者であるAさんが母国から帰国する際に偽造クレジットカードの原料(いわゆる「生カード」)を大量に持ち込もうとして逮捕されたケースを参考に説明します。
偽造クレジットカードを輸入した場合の刑事処分
まず、クレジットカードの原料となるプラスチック製の生カード(カード情報を書き込む前のブランクカード)は、日本の関税法で輸入が禁止されています。関税法第69条の11第1項6号は、偽造通貨や偽造有価証券と並んで、「不正に作られた支払用カード(預貯金の引出用のカード)を構成する電磁的記録をその構成部分とするカード(その原料となるべきカードを含む)」を輸入禁止品に指定しています。
この規定に違反して禁止品を密輸入した場合、関税法第109条1項により10年以下の懲役または3,000万円以下の罰金(またはその併科)という重い刑罰が科せられます。
量刑を左右するポイント
偽造クレジットカードの原料を密輸した場合の刑事処分の重さは、以下のような事情によって判断されます。
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持ち込んだ枚数: 持ち込んだ生カードの枚数が多いほど犯行は重大と見做され、刑が重くなる傾向があります。
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認識の程度: 密輸した物が偽造カード用だと知っていたか、その認識の深さも量刑に影響します。故意が明確であるほど不利になります。
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完成品か否か: 偽造カードそのもの(カード情報が記録された完成品)を持ち込んだ場合と、情報を書き込む前の生カードを持ち込んだ場合とでは、後者の方がいくらか情状が考慮され得ます。
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前科の有無: 過去に同種またはその他の犯罪歴がない初犯であれば、量刑上有利な事情となります。
今回のAさんの事例では、生カードを3,000枚と極めて多数持ち込もうとした点や、カード会社勤務の友人から「クレジットカードの原料」と聞かされて依頼を引き受けている点から、悪質性が高いと判断される可能性があります。一方で有利な事情としては、完成品の偽造カードそのものではなく原料の持込であったこと、そして前科がない初犯である点が挙げられます。
判例や傾向を見ると、1,000枚を超える規模で生カードを密輸した場合は執行猶予の付かない1年以上の実刑判決も視野に入ってきます。
数千枚規模の生カード密輸事件で実刑判決が言い渡された例もあり、今回のAさんも裁判では実刑かどうかが争われるか可能性が高いと言えるでしょう。
永住者に対する入管法上のリスク(退去強制処分)
次に、刑事罰を受けた場合の入管法上のリスクについてです。外国人の永住者であっても、一定の重大な犯罪で有罪判決を受けた場合には退去強制(日本からの強制送還)の対象となり得ます。入管法第24条第4号のリ(4号ニ~チに該当する場合を除く)では、「昭和26年11月1日以降に無期または1年を超える懲役若しくは禁錮に処せられた者」は退去強制事由に該当すると規定されています。今回のAさんのケースでは、上述のとおり1年以上の実刑判決が見込まれるため、この規定に該当し強制送還は避けがたい状況と言えます。
※ただし入管法の規定上、「1年を超える刑」が対象であり、刑がちょうど1年であった場合や刑の全部執行猶予が付いた場合などは直ちに退去強制とはなりません。
Aさんの場合、情状からして執行猶予なしの実刑となるか、執行猶予となるか、刑事裁判でも激しく争われることが予想されます。刑事裁判での判決内容が、入管法上のリスクと直結することになるため、刑事裁判の時点で適切な弁護活動を実践するのが好ましいでしょう。
弁護士による対応策と早期相談の重要性
このような事態に陥った場合、刑事弁護人として取れる対応策はいくつか考えられます。
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無罪主張(故意の否定) – 持ち込んだ生カードが違法なものとは知らなかった等、犯意がなかったことを主張して無罪を争う方法です。しかし、本件では友人から「クレジットカードの原料」と説明を受けており違法性の認識を完全に否定するのは難しく、現実的には無罪を勝ち取るのは困難でしょう。
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在留特別許可の申請 – 実刑判決が言い渡された場合でも、日本に生活基盤があり引き続き在留を希望するのであれば、法務大臣の裁量による在留特別許可の取得を目指すことになります。刑事裁判の段階から将来的な在留特別許可を見据えて情状を積み重ねるなどの弁護活動が必要であり、家族関係や更生の可能性を示して退去強制を免れるよう働きかけます。
いずれにせよ、家族や知人が偽造クレジットカードの密輸に関与して逮捕されてしまった場合、早急に刑事事件と入管手続双方に精通した弁護士に相談することを強くお勧めします。適切な弁護活動によって、刑事処分の減軽や在留継続の可能性を探ることができるからです。
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