Archive for the ‘外国人と刑事事件’ Category
永住者の外国人が傷害事件を起こしてしまうとどうなるのか
【事例】
Aさんは,永住資格を有するB国出身者です。
Aさんは,地元の花火大会でビールを飲み,酒に酔い,女性をナンパしていたところ,近くで見ていた男性Vから「嫌がってるだろ」と止められたため,「俺が女おとすのに何か文句あるのか」と怒り,男性を1度殴り,全治2週間のけがを与えてしまいました。
なお,Aさんには前科はありません。
このとき,
①Aさんが受ける刑事罰はどのようなものになるのか
②①の刑事罰により退去強制処分になるのか
以上の点について解説していきます。
(1)傷害罪の刑事罰
AさんはVを殴りけがをさせているため,刑法204条の「傷害」行為に該当します。
刑法204条の傷害罪の法定刑は,15年以下の懲役刑又は50万円以下の罰金です。
傷害罪の具体的な刑罰の重さを決める際には,①傷害の態様,②傷害行為によって生じた傷害の程度,③示談の有無などによって判断されます。
①については,殴った回数が多いなどの事情があれば,刑が重くなります。
②については,傷害行為によって発生したけがの程度が重ければ重いほど刑が重くなります。
③については,示談を行うなどして被害回復を行えば,罪を軽くする事情になります。
今回のAさんの事例ですと,殴った回数も一度と多数回殴っているというものではなく,傷害の程度も全治2週間のけがと比較的軽いけがです。
示談などの被害弁償については行っているか不明ですが,弁護士と契約して被害弁償を行うことができれば,Aさんにとって有利な事情になります。
そのため,Aさんの事件については,被害弁償が済んだ場合,不起訴で終わる可能性が高くなり,被害弁償が済んでいなくとも罰金で終わる可能性の高い事件であるということができます。
(2)退去強制になるのか
それでは,Aさんがこのような事件により退去強制になるのか検討していきます。
永住者の退去強制で主に問題になる条文は,入管法24条4号リの規定です。
入管法24条4号リには,「昭和26年11月1日以後に無期又は1年を超える懲役若しくは禁錮に処された者。ただし,刑の全部の執行猶予の言渡しを受けた者及び刑の一部の執行猶予の言渡しを受けた者であってそのうち執行が猶予されなかった部分の期間が一年以下のものを除く。」と規定されています。
これに該当する場合には,永住者であっても退去強制の対象になります。
しかし,今回の事件は,Aさんにとって,初犯であることから,悪くて執行猶予,罰金になることが予定される事件です。なので,すぐに退去強制になるという可能性は低いです。
在留期間更新の際には,前科が存在することについては不利益にみられるため,前科があることによって,在留期間更新の申請の際に困るということが考えられます。
(3)弁護活動
そのため,弁護活動としては,①Aさんと被害者との間で示談を行うこと,②Aさんの犯行態様が悪質ではなく,犯罪の結果も重大なものではないことから,不起訴処分を求めるということが考えられます。
①の弁護活動をしてもらいたい場合,弁護士をつけるとスムーズですし,相手も示談をする方向で態度を変えることがあります。
②の弁護活動をしてもらう場合でも,取調べに当たってのアドバイスを弁護士から受けることによって,取調べに適切に対処することができるようになり,より重い刑罰が下されることを阻止することができます。
また,このように,不起訴を得ると,永住権などの在留資格への悪影響も防止できますので,軽微な事件であっても弁護士をつけることをお勧めします。
永住者の方で刑事事件を起こしてしまい不安があるという方,ご心配な方は弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。
こちらからお問い合わせいただけます。
留学生が交通事故を起こすと退去強制となるか
日本の大学に「留学」の在留資格で留学しているAさんは、適法な運転免許証を所持し、自家用車を保有していました。
ある日、Aさんは、自動車で帰宅中、周りの景色に気を取られてしまったことが原因で、信号待ちをしている前の車にぶつかってしまいました。
前方の車には運転手が1名乗車しており、運転手が怪我をしてしまいました。Aさんはすぐに110番と119番をし、駆け付けた警察官により捜査が行われました。
このとき
①Aさんが受ける刑事罰はどのようなものになるか
②①の刑事罰により退去強制になることはあるのか
③Aさんとしてできることはあるのか
以上の点について解説していきたいと思います。
⑴過失運転致傷の刑事罰
Aさんは、わき見をしてしまったことにより前方不注視となり、交通事故を起こしてしまいました。
車で交通事故を起こしたことにより、乗員(これはぶつかられた車の乗員だけではなく、ぶつかった、つまり自分が運転している車の乗員も含みます)や歩行者等に怪我をさせてしまったような場合には、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律5条の過失運転致傷罪が成立します。
なお、今回のAさんはすぐに110番等をしていますので問題ありませんが、事故を起こしてしまったのに現場から逃走したような場合にはより重いひき逃げの罪が成立しますし、お酒を飲んで事故を起こしたような場合には
危険運転致傷罪というより重い罪が成立する場合もあります。
Aさんの話に戻すと、不注意という過失により交通事故を起こし、怪我をさせてしまったAさんにはどのような刑罰が与えられるのでしょうか。
法律上定められている法定刑は「七年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する(以下略)」とされています。
一般的に交通事故の場合には①相手の方の怪我の程度②事故を起こした側の過失の程度③被害者の側の過失の程度④運転者の属性などを考慮して処分が決められています。
①については、、怪我の程度が重ければ重いほど、後遺症が残ればその影響が大きいほど罪が重くなります。
②については、飲酒や赤信号無視、スピード違反等、それ自体が犯罪になるようなで行為がきっかけで事故を起こしたような場合には罪が重くなります
③については、被害者が赤信号を無視している場合や、道路上で寝ている場合、横断禁止道路を横断している場合などに、運転者の罪が軽くなります。
④については、タクシーやバスの運転手、トラックドライバーなど職業として運転をしている方は、罪が重くなる傾向にあります。
Aさんの事故について考えると、Aさんは特に仕事などで運転していませんし、わき見というそれ自体が犯罪になるようなものではないことが原因で事故を起こしていますから、特に刑を重くすべき事情はありません。
反対に、被害者の方も、信号待ちをしていただけですから、被害者には過失がなく、Aさんの罪を軽くする理由もありません。
そのため、Aさんの処分は①の怪我の程度によっておおよその処分が決まってくると考えられます。
これについて明確に決まりがあるわけではありませんが、全治3日や1週間程度の怪我であれば起訴猶予処分(刑事罰を受けない)、全治3週間~1ヶ月以内程度であれば罰金、1ヶ月を越えるような重い怪我等であれば裁判を受け禁錮刑(ただし執行猶予付き)となることが予想されます。
⑵退去強制事由となるか
刑事事件と退去強制が関わる条項は、いくつかありますが、代表的なものは入管法24条の
4号チ 薬物事件で有罪判決を受けた者
4号リ 1年以上の実刑判決を受けた者
4号の2 窃盗などの事件で有罪判決を受けた者(別表第1の資格に限る)
となっています。
今回の事件であれば、交通事故は薬物事件でもありませんし、怪我の程度が軽ければ執行猶予付き判決になりますので4号リにも該当しません。
また、4号の2に該当するようなこともありません。
そのため、交通事故で有罪判決を受けたとしても、直ちに退去強制となることはなさそうです。
しかし、仮に退去強制とならなくても、在留資格の更新を受けられるかどうかは別問題です。
在留資格の更新時には素行が善良であることが求められていますが、有罪判決を受けた場合には素行善良の要件に問題が生じ、在留資格の更新がされない場合があります。
このような場合、在留資格が更新できず、期限が到来してしまうと、オーバーステイ状態となり、退去強制事由に該当してしまいます。
⑶Aさんはどうすればよいか
自分が交通事故を起こしてしまった場合、逮捕されたような場合には最初は家族や友人と面会することができません。
逮捕されてから2日程度は、弁護士以外が面会できない状況になりますので、家族としても状況の把握などが困難です。
逮捕されてしまった場合には,直ちに弁護士を派遣しなければなりません。
また、仮に釈放されたとしても、捜査が継続して、場合によっては刑事罰を受けてしまうことは上述の通りです。
逮捕された場合には警察からの連絡を受けてすぐに、在宅事件の場合でもできる限り早く、弁護士に相談し、被害者の方への謝罪や入管への対応などを検討する必要があります。
在留資格の不更新の決定が出てしまってからとなると、在留特別許可を得る方法以外が困難となり、取りうる手段が減ってしまいます。
まだ処分が出る前、色々な対策を講じることができる時期に、弁護士にご相談ください。
窃盗前科が永住許可申請に影響を与えるかどうか
日本人の配偶者という在留資格で日本に滞在しているAさんは、ある日スーパーで買い物をしている際、魔が差してしまい、スーパーの商品を数点万引きしてしまいました。
Aさんの行為はスーパーの店員により確認されており、店を出たところですぐに捕まってしまいました。
以上を前提として
①Aさんが受ける刑事罰はどのようなものになるか
②①の刑事罰によってAさんが永住権の申請をした際に問題にならないか
以上の点について解説していきたいと思います。
⑴窃盗罪の刑事罰
窃盗罪は刑法235条に定めがある罪で、その法定刑は10年以下の懲役又は50万円以下の罰金となっています。
10年以下と極めて重い罪になっていますが、これは被害額によって法定刑の区分がないからです。1000円から1万円位の万引きであれば、10年の懲役等を受けることは通常
考えられません。
窃盗罪の具体的な刑罰を決める際には、①被害額がいくらであるか②どのような目的で盗んだか③被害回復がなされているか④何回目の検挙であるかが大きな考慮要素となります。
①まず被害額ですが、これは単純に多ければ多いほど重くなるということになります。ただ、1000円と1万円で比較すると1万円のほうが10倍悪いという単純なものではありません。
②目的ですが、自分で使用する目的などが通常だと思われますが、転売目的や組織的な窃盗だと重く見られます。
③窃盗罪は財産に関する犯罪です。ですので、財産的な補填が被害者になされているかどうかも重要です。
④最後に、万引きのような事件の場合これが大きな問題となってくるのですが、何回目の検挙であるかも重要です。いくら被害額が少なく、被害回復がなされていたとしても、何度も何度も
検挙されているような状況では、処分を軽減することにも限度が生じます。一般的な感覚の通りですが、通常は1回目より2回目が、2回目より3回目が、3回目より4回目が重い処分となります。
また、前回と今回の間隔(何年程度空いているか)も重要です。これがあまりに近いということになると、常習性が疑われて、より重い処分となります。
そこでAさんの刑事罰ですが、1回目の検挙であれば被害回復を行っていれば起訴猶予となる可能性も十分あります。ただ、2回目であれば罰金、3回目であれば執行猶予付きの判決という形でどんどん重くなってきます。また、たとえ100円の万引きであっても、執行猶予付き判決中や猶予期間満了後すぐにやってしまうと、刑務所に行く実刑判決となる可能性が相当高いと言えます。今回は、一例として罰金になったことを想定して検討していきます。
⑵永住権を取得する際に影響が出るか
現在Aさんは「日本人の配偶者」という資格で在留しています。
この後、Aさんが「永住者」資格へ資格の変更を考えるとした場合、今回の罰金前科は何らかの影響が出るのでしょうか。
永住者については、入管法22条に定めがあり、要件は
①各号のいずれにも適合すること
1号 素行が善良であること
2号 独立の生計を営むに足りる技能を有すること
②その者の永住が日本国の利益に合すること
とされています。
しかし、「その者が日本人、永住許可を受けている者又は特別永住者の配偶者又は子である場合においては、次の各号に適合することを要しない」(入管法22条2項但書)とされています。このような場合には、上記の要件のうち①の要件は不要ということになります。
今回のケースでAさんは「日本人の配偶者」ということですから、この但書が適用されることになります。よってAさんが永住者の在留資格を得られるかどうかは、この②の要件を満たすことができるかどうかということにかかっています。
では、この「日本国の利益に合すること」(国益適合要件)を満たすといえるのはどのような場合でしょうか。
この点について、入管の審査要領においては
a 原則として引き続き10年以上日本に在留し、この期間のうち技能実習等を除く就労資格又は別表第2の資格を以て直近において引き続き5年以上っ在留していること
b 公的義務(納税、入管法上の手続きなど)を適正に履行していることを含め、法令を遵守していること
c 現に有している在留資格について、規定されている最長の在留期間をもって在留していること(例外有)
d 公衆衛生上の観点から有害となるおそれがないこと
e 著しく公益を害するおそれがないと認められること
f 在留特別許可又は上陸特別許可を受けた者の場合には一定の条件を満たすこと
g 原則として公共の負担となっていないこと
をポイントに審査されてることとなっています(永住許可に関するガイドラインはこちら)。
今回のように刑罰を受けている場合には、eの要素が問題となります。
「日本国の法令に違反して、懲役・禁錮若しくは罰金に処せられたことがあること」は、eの要件を満たさない可能性が高いと言えます。但し、罰金については「その執行を終わり(中略)5年を経過し(中略)たときは、これに該当しない者」と考えられます(刑法34条の2)。
Aさんは日本人の配偶者であるため、「素行善良」の要件は問題となりません。しかし、国益適合要件は問題となりますので、前科の有無はこの場面で問題となります。
ただ、このeの要素を考慮する際には、罰金刑があるからといって一律に永住権を付与しないわけではなく、罰金刑を受けた原因やその金額などによって判断をされる傾向にあるようです。
今回のような窃盗の場合には、これがあるだけで直ちに永住権が付与されないと言われるまでのものとは考えられませんが、他の要素の兼ね合いで不許可となることも想定されます。
仮に永住申請が不許可となってしまった場合には、刑法34条の2に従い、罰金を納付した日から5年を経過したタイミングで、再び永住申請をしていただく必要があります。
永住許可と前科についてご心配なことがある方は弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所までご相談ください。
「永住者の配偶者等」のビザで傷害事件を起こしてしまった場合
Aさんは,永住資格を持つBさんと,永住資格を持つCさんとの間に生まれた子であることから,永住者の配偶者等の在留資格で日本に在留していました。
大学を卒業するあたりで永住資格への変更をしようと考えている状況にあります。
Aさんが大学に行く途中,迷惑系ユーチューバーVに絡まれ,「○○大学の学生に,学歴コンプレックスについてきています,××大学に入れなかったことをどう思いますか?」と言われながらカメラを向けられたことから,「撮るんじゃない」と言い,カメラを持つ手を一回払いのけたところ,Vの腕を怪我させてしまいました(全治1週間のけが)。
以上を前提として,
①Aさんが受ける刑事罰はどのような物か,
②①の刑事罰によってAさんには在留資格に関してどのような不利益が生じるか
以上の点について解説していきたいと思います。
傷害罪の刑事罰
Aさんが,Vの腕を払いのけ,ケガさせたとすると,人の身体を傷害したとして,傷害罪が成立します。
刑法204条には,傷害罪の法定刑として,15年以下の懲役,又は50万円以下の罰金が規定されています。
傷害罪の具体的な刑罰を決める際には,①けがの程度,②執拗な態様のものであったのか,③そのような行為に出るやむを得ないような事情があるのか,④示談が成立したかということが大きな考慮要素となります。
①けがの程度については,ケガが大きければ大きいほど,重く見られます。
②障害行為に及ぶ態様が執拗であれば執拗であるほど重く見られます。
③正当防衛状況などではないにしても,何かを守る目的があるとか,何らかの暴行に及ぶことがやむを得ないと見られるような状況であると判断される場合,軽く見られます。
④示談が成立し,被害届の取下げ等が行われた場合には,軽く見られます。
今回のAさんの事例ですと,ケガの程度も全治1週間と軽く,態様も一回腕を払いのけるもので執拗なものではありません。また,動画の撮影をやめさせるために行っていることから,なんらかの暴行に及ぶことはやむを得ないと言えるような状況にあります。
示談は成立していない状況ですが,示談をすることも考えられます。
このような事情があることから,仮に起訴されるとしても,傷害罪の中でも軽い部類に属する事件として扱われ,罰金での起訴が予想されるという状況にあると考えられます。
そのため,示談などが成立することにより,不起訴をねらったり,行為態様が悪いとはいえないことを主張して,起訴猶予による不起訴をねらうことも考えられます。
在留資格への影響はあるか
まず,退去強制になる可能性ですが,永住者の配偶者等の在留資格は,入管法24条4号の2の対象でないこと,入管法24条4号リの1年以上の実刑になる可能性が低いことから,退去強制となる可能性は低いです。
永住者の配偶者の資格から,永住者への切り替えをする場合,入管法22条2項但書により,素行不良要件はありません。しかし,現実的には,刑罰を受けたことは無いかが考慮されるため,永住者への切り替えには,支障が生じます。
そのため,傷害罪による前科は無い方が望ましいです。
弁護活動
傷害罪によって前科が付いてしまった場合,後々の手続き上も不利益が予定されていることから,弁護士としては,退去強制のおそれを除去するために,不起訴をねらっていくことが求められます。
不起訴をねらう弁護活動として出来ることとしては,①示談を成立させて,起訴猶予による不起訴をねらう,②事件が軽微であることを主張して不起訴をねらうことが考えられます。
①の示談を成立させるというのは,個人で行うのは困難ですので,弁護士に依頼しなければなりません。弁護士が代理人となって事件の相手方を示談交渉を行います。
これによって,不起訴をねらい,入管との関係でも不利益にならないよう手助けを行うことができます。
②仮に示談交渉がうまくいかず,不成立に終わってしまったとしても,前科が無い,暴行に及ぶ何らかのやむを得ないような事情がある等といった点から,事案が軽微であり,起訴する必要が無いことを主張して,検察官と交渉し,不起訴処分を得られる可能性があります。
但し,このように,示談をせずに不起訴処分を得ることを目指すとしても,取調べにおけるアドバイスや,検察官との交渉をする必要があることから,弁護士をつけ,アドバイスや,交渉を行ってもらうべきです。
外国人の方で刑事事件でお困りの方,家族や友人が逮捕・勾留されてしまったという方は,速やかにご相談ください。
窃盗前科が帰化申請に影響するか
経営・管理の在留資格で日本に滞在しているAさんは、ある日スーパーで買い物をしている際、魔が差してしまい、スーパーの商品を数点万引きしてしまいました。
Aさんの行為はスーパーの店員により確認されており、店を出たところですぐに捕まってしまいました。
以上を前提として
①Aさんが受ける刑事罰はどのようなものになるか
②①の刑事罰によってAさんの帰化申請には影響があるのか
以上の点について解説していきたいと思います。
窃盗罪の刑事罰
窃盗罪は刑法235条に定めがある罪で、その法定刑は10年以下の懲役又は50万円以下の罰金となっています。
10年以下と極めて重い罪になっていますが、これは被害額によって法定刑の区分がないからです。1000円から1万円位の万引きであれば、10年の懲役等を受けることは通常考えられません。
窃盗罪の具体的な刑罰を決める際には、①被害額がいくらであるか②どのような目的で盗んだか③被害回復がなされているか④何回目の検挙であるかが大きな考慮要素となります。
①まず被害額ですが、これは単純に多ければ多いほど重くなるということになります。ただ、1000円と1万円で比較すると1万円のほうが10倍悪いという単純なものではありません。
②目的ですが、自分で使用する目的などが通常だと思われますが、転売目的や組織的な窃盗だと重く見られます。
③窃盗罪は財産に関する犯罪です。ですので、財産的な補填が被害者になされているかどうかも重要です。
④最後に、万引きのような事件の場合これが大きな問題となってくるのですが、何回目の検挙であるかも重要です。いくら被害額が少なく、被害回復がなされていたとしても、何度も何度も
検挙されているような状況では、処分を軽減することにも限度が生じます。一般的な感覚の通りですが、通常は1回目より2回目が、2回目より3回目が、3回目より4回目が重い処分となります。
また、前回と今回の間隔(何年程度空いているか)も重要です。これがあまりに近いということになると、常習性が疑われて、より重い処分となります。
そこでAさんの刑事罰ですが、1回目の検挙であれば被害回復を行っていれば起訴猶予となる可能性も十分あります。ただ、2回目であれば罰金、3回目であれば執行猶予付きの判決という形でどんどん重くなってきます。
また、たとえ100円の万引きであっても、執行猶予付き判決中や猶予期間満了後すぐにやってしまうと、刑務所に行く実刑判決となる可能性が相当高いと言えます。
帰化申請への影響
他の在留資格と異なり、帰化については国籍法に定めがあります。
国籍法第4条2項により、帰化をするためには法務大臣の許可が必要とされていますが、その許可をするための条件は国籍法5条から9条に定めがあります。
①一般帰化:
国籍法5条に定めている帰化のための条件は
一 引き続き五年以上日本に住所を有すること。
二 十八歳以上で本国法によつて行為能力を有すること。
三 素行が善良であること。
四 自己又は生計を一にする配偶者その他の親族の資産又は技能によつて生計を営むことができること。
五 国籍を有せず、又は日本の国籍の取得によつてその国籍を失うべきこと。
六 日本国憲法施行の日以後において、日本国憲法又はその下に成立した政府を暴力で破壊することを企て、若しくは主張し、又はこれを企て、若しくは主張する政党その他の団体を結成し、若しくはこれに加入したことがないこと。
です。ただ、この条文は「次の条件を備える外国人でなければ、その帰化を許可することができない。」とされていますので、これら6項の条件をすべて満たせば帰化ができるというものではなく、
反対にこれら6項の中に該当するものがあれば帰化をすることができないと考えることになります。
②簡易帰化:
国籍法5条には、より日本との結びつきが強い関係の者について、5条より簡易な条件での帰化を認めています。
③日本人の配偶者の帰化:
日本人の配偶者の場合にも、一部条件が緩和されています(国籍法7条)
Aさんは、②③が使えるよう状況ではありませんので、①の一般帰化を検討することになります。
窃盗前科と帰化の関係
今回の場合、Aさんには交通前科がありますから、「素行が善良であること」ということの条件を満たすかどうかが問題となります。
ところで、永住許可を含めた在留資格についての手続きは、出入国在留管理庁へ申請を行います。
しかし、帰化の申請は、法務局へ申請することとなっています。
いずれも法務省に属する組織ではあるのですが、形式上は別の役所ということになります。
そのため、出入国在留管理庁の指針をそのまま法務局が採用するとは限りませんが、同庁のガイドラインは帰化申請においても参考になると思われます。
在留期間の更新の際に問題となる「素行が善良であること」についての考え方としては「日本国又は日本国以外の国の法令に違反して、懲役、禁錮若しくは罰金又はこれらに相当する刑(道路交通法違反による罰金又はこれに相当する刑を除く。以下同じ。)に処せられたことがある者(以下略)」との審査要領が定められています。
これを参考にすれば、窃盗については、たとえ罰金でもあっても、素行善良の要件を考慮する際に問題になると思われます。反対に、形式的には不起訴処分となったような場合には、この審査要領を満たすものになります。
ただし、帰化申請は「全条件を満たすと帰化ができる」というものではなく「全条件を満たさなければ帰化できない→全条件を満たすときに帰化を許可するかは法務大臣の裁量である」
という考え方を採用しています。
ですので、帰化申請の際には、前科・前歴についての顛末の説明や、反省の態度や再発防止策を記載した文書を提出したほうがよいかもしれません。
外国籍少年と退去強制の手続き
Aさんの息子は、家族滞在の資格で日本に滞在し、現在中学3年生です。そのお子さんは、ある日スーパーで買い物をしている際、魔が差してしまい、スーパーの商品を数点万引きしてしまいました。
この行為はスーパーの店員により確認され、店員に腕を掴まれましたがその店員を突き飛ばして逃げようと試みました。
しかし店を出たところですぐに警備員に捕まってしまいました。
以上を前提として
①息子さんが受ける手続きはどのようなものになるか
②①によって退去強制となることがあるか
以上の点について解説していきたいと思います。
少年事件手続き
日本の刑事手続きにおいては、まずは20歳以上と20歳未満でその手続きが区別されます。
20歳以上は大人の手続き、つまり裁判を経て刑罰を受けるのに対し、20歳未満の場合にはいったん少年手続きに進みます。
20歳未満の人が刑事事件を起こした場合には、全ての事件が家庭裁判所に送られることになっています。
この家庭裁判所の手続きでは、18歳、19歳の「特定少年」と、18歳未満の少年で再び区別されることになっています
特定少年でも、それ以外の少年でも、家庭裁判所で「検察官送致決定」というものを受けると、大人と同じ手続きに戻り、刑事罰を受けることになります。
これに対し、少年院送致、保護観察、児童自立支援施設送致、不処分等の決定は、いずれも刑事罰ではなく少年特有の保護処分という扱いとなります。
今回の息子さんの場合、中学3年生の年齢であれば、通常通り家庭裁判所に事件が送致されます。また、特定少年ではないため、おそらく保護処分となることが予想されますが、
その程度は、これまでの前歴や、家庭環境、補導歴といった、事件以外の要素も考慮して決定されることとなっています。
少年事件の解説についてはこちらもご覧ください。
退去強制となるか
それでは、家庭裁判所の処分により退去強制となるかについて検討します。
入管法で、少年の退去強制事由を定めているのは、24条4号のトです。
同号は「少年法(昭和二十三年法律第百六十八号)に規定する少年で昭和二十六年十一月一日以後に長期3年を超える懲役又は禁錮に処せられたもの」と定められています。
長期3年を超える場合、執行猶予付きの判決とすることができませんので、3年を超える実刑判決を受けた場合ということになります。
大人の場合には、1年以上の実刑(同号リ)で退去強制となるとされていることから比べると少年の方が退去強制とする要件が厳しいと言えます。
いずれにしても、保護処分の場合、刑事罰ではありませんから、仮に3年以上少年院送致をされるようなことがあったとしても、これは退去強制事由には当たらないということになります。
ですので、この方の事件の場合には、退去強制となることは通常考えられないと判断してよいように思われます。
しかし、18歳や19歳で同じような事件を起こし、捕まえに来た店員を突き飛ばしてけがをさせてしまったような場合には、強盗致傷となり、しかも特定少年となりますので、原則検察官送致となり、刑事罰を受けることになります。
強盗致傷の法定刑は無期又は6年以上の懲役ですので、極めて重い罪です。万引きに近い犯罪ではあるものの、このようなことになると退去強制の可能性があります。
弁護活動
万引きだからと言って軽い犯罪だと考えてはいけません。実刑判決を受けることもある重大な犯罪です。
また、最初は出来心でやっていたとしても、いつしかやめられなくなり、何度検挙されても繰り返すという方も多数おられます。
ですから、万引きで検挙されたり、ご家族が万引きで検挙されたような場合には速やかに弁護士にご相談ください。
被害店舗への被害弁償はもちろん必要ですが、それだけではなく将来の在留資格更新を行ったり、お子さんの更生のためにも、専門の弁護士にご依頼ください。
お問い合わせはこちらからどうぞ。
日本人の配偶者等の外国人が薬物事件で逮捕されたら?
日本人の配偶者資格で日本いるAさんは、日本で生まれ、日本の高校まで卒業し、現在大学に通う22歳です。
そんなAさんは、大学生のころから友人と大麻を使用しており、なかなかやめることができませんでした。
ある日車に乗っていたAさんは、不審な動きをしているということで職務質問を受け、持っていたカバンの中から大麻草1gが発見され、鑑定の後逮捕されてしまいました。
以上を前提として
①Aさんが受ける刑事罰はどのようなものになるか
②①の刑事罰によってAさんは退去強制となることがあるか
③在留特別許可は得られるのか
以上の点について解説していきたいと思います。
大麻所持の刑事罰
Aさんは大麻を所持していました。日本では大麻所持は違法とされていますので、Aさんの行為は大麻取締法違反の大麻所持となります。
大麻所持の罰則は、大麻取締法24条の2に記載があり、「大麻を、みだりに、所持し、譲り受け、又は譲り渡した者は、五年以下の懲役に処する。」
とされています。
Aさん自身大麻を所持していた認識はありますので、犯罪が成立することに争いはありませんが、そのような場合、Aさんにどのような処分となるのかが問題となります。
大麻所持の場合、初犯であっても裁判となる可能性が高い類型の犯罪です。ただ、いきなり刑務所に行くのではなく、執行猶予付き判決となることが予想されます。
⑵はこれを前提として検討していくことにします。
退去強制となるか
それでは、Aさんの刑事処分により退去強制となるかについて検討します。
退去強制事由については入管法24条に定めがあります。Aさんの永住者ですので、在留資格としては別表第2の資格となります。
同条4項チには「昭和二十六年十一月一日以後に麻薬及び向精神薬取締法、大麻取締法、あへん法、覚醒剤取締法、国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律(平成三年法律第九十四号)又は刑法第二編第十四章の規定に違反して有罪の判決を受けた者」という定めがあります。
要するに、薬物に関連する法律で有罪の判決を受けたものについては退去強制事由とするというものです。
まず、有罪の判決ですので、執行猶予付きであるかどうかは問われません。実刑判決でなくても退去強制事由となります。
また、今回は関係ありませんが、たとえ罰金刑であっても有罪の判決に変わりはありませんので退去強制事由となることと、別表第二の資格であっても退去強制事由となることにも注意が必要です。
ですので、このままではAさんは退去強制となりますので、在留特別許可を狙う必要性があります。
在留特別許可は得られるのか
Aさんの場合、生まれてから22年間日本にいて、日本との結びつきは相当強いものです。おそらく、日本語が十分話せるでしょうし、反対に国籍国の言葉の方がおぼつかない状況になるだろうと思われます。
確かに薬物に関する法令違反というのは軽いものではありません。犯罪の中でも、初犯で執行猶予判決を受けるというのは、比較的重い罪に入ります。
しかし、上記のような日本との関係性や、本国に送還しても生活が成り立たないというような状況からすれば、在留特別許可を得られる可能性は比較的ある事案であるということができます。
ですので、AさんやAさんの家族としては、在留特別許可を得るため、入管用の資料を提出するなど、早期から手続きに備えて準備する必要があります。
退去強制(強制送還)の手続は段階的に進んで行くもので,令和6年6月10日以降は新しい法律に則った手続きによって在留特別許可に関する手続きが進むことになります。
手続きについてはこちらもご参考下さい。
強制送還されるかもしれない,刑事事件についてご不安なことがある方はこちらからお問い合わせください。
「留学生」が器物損壊罪で逮捕された,強制送還される?
「留学」の在留資格で日本に滞在しているAさんは,大学の学園祭の打ち上げでサークルの仲間と集まり,飲酒し,気分が高揚していたことから,帰り道の駐車場に止められていた高級車のボンネットに乗り,フロントワイパー1本を手でつかみ,折ってしまいました。
近所の人がその様子を見ていたことから,通報され,Aさんは警察官に現行犯逮捕されてしまいます。
駐車場に止められていた高級車の中古車販売価格としては1000万円でしたが,ワイパーは取り替えることができるため,警察官は,被害金額を10万円と見積もって「10万円のワイパーを壊した器物損壊事件」として立件しました。
このとき
①Aさんが受ける刑事罰はどのようなものになるのか
②①の刑事罰は,Aさんの在留期間の更新時に影響があるか,若しくは退去強制処分となるか
以上の点について解説していきたいと思います。
器物損壊罪の刑事罰
Aさんは,他人の自動車のワイパーを折ってしまいました。
このように,他人の物を損壊した場合には,刑法261条の器物損壊罪が成立します。
他人の自動車のワイパーを折ってしまったAさんにはどのような刑罰が与えられるのでしょうか。
法律上定められている法定刑は,「3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料」とされています。
一般的に,器物損壊罪の場合には①被害金額,②修理の難易,③被害弁償の有無,④告訴状の取下げなどを考慮して処分が決められます。
①については,被害金額が大きいほど罪が重くなります。
②については,修理が難しい態様での物の損壊であると,罪が重くなります。
③については,被害弁償が済んでいる場合については,罪が軽くなる傾向にあります。
④については,告訴状が起訴前に取り下げられた場合,そもそも起訴が出来なくなります。
Aさんの事件について考えると,被害金額は,10万円と被害金額としては大きいということはありますが,ワイパーは取り換え可能であることから修理が困難で罪が重く見られるということはなさそうです。
そのため,Aさんの刑事罰は被害弁償が済んだかということや,告訴状が取り下げられたかによって判断されます。
仮に早期に示談が成立し,被害者が被害届を取り下げたという場合や,告訴まではしないという意思を示してもらえれば,起訴猶予の処分を獲得できる場合もあります。
早期の刑事事件での対応が今後の明暗を分けることになりますから,ご不安な方・ご心配な方は早めに弁護士にご相談ください。
「留学」の在留資格について
在留期間の更新に関しては,出入国在留管理庁によるガイドラインがあります。
このガイドラインによると、在留期間の更新が許可されるのは
1 行おうとする活動が申請に係る入管法別表に掲げる在留資格に該当すること
2 法務省令で定める上陸許可基準等に適合していること(別表第1の2の表又は第4の表に掲げる在留資格の下欄に掲げる活動を行おうとする者)
3 現に有する在留資格に応じた活動を行っていたこと
4 素行が不良でないこと
5 独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること
6 雇用。動労条件が適正であること
7 納税義務を履行していること
8 入管法に定める届出等の義務を履行していること
とされています。
このうち,刑事事件で逮捕されてしまった人の場合,特に4「素行の善良性」が問題になります。
この4素行善良性について,「素行については,善良であることが前提となり,良好でない場合には消極的な要素として評価され,具体的には,退去強制事由に準ずるような刑事処分を受けた行為,不法就労をあっせんするなど出入国在留管理行政上看過することのできない行為を行った場合は,素行が不良であると判断されることとなります。」との記載がなされています。
まず、「留学」の在留資格は、入管法上別表第1の4の表に記載がある在留資格です。
そのため、法務省令に定める上陸許可基準等に適合する必要があります。
今回の場合、ガイドラインに記載されている「素行が不良でないこと」が問題となります。そして、「退去強制事由に準ずるような刑事処分を受けた」場合には素行不良であると判断されることになるため、退去強制事由に準ずるような刑事処分であるかどうかを検討していくことになります。
それでは刑罰法令違反が退去強制事由となるかどうかを考えていきます。
別表第1の在留資格の場合、入管法等在留関係の法律以外の刑罰法令が問題となる退去強制事由には、入管法24条4号リと同法24条4号の2があります。
まず24条4号の2ですが、こちらは一定の犯罪で懲役又は禁錮に処せられた場合に退去強制事由となるものです。24条4号リとの違いは、罪名の違いがあるものの、執行猶予付きの判決であっても退去強制事由となる点にあります。ただ、Aさんが問題視されている器物損壊罪は、この列挙された犯罪に含まれていませんから、これには該当しません。
次に,入管法24条4号リは、「無期又は一年を超える懲役若しくは禁錮に処せられた者。ただし、刑の全部の執行猶予の言渡しを受けた者及び刑の一部の執行猶予の言渡しを受けた者であつてその刑のうち執行が猶予されなかつた部分の期間が一年以下のものを除く。」とするものです。この4号リで問題とされるのは、仮に禁錮であっても実刑となった者、つまり執行猶予付きの判決を受けた場合は除かれています。今回の事例のように,器物損壊罪の事件である場合,実刑になる可能性は低いです。ただし,被害弁償が済み,罰金や不起訴処分となった場合などには,退去強制とはならない可能性が高いです。
最後に、次に、Aさんの処分が退去強制事由に「準ずる」刑事処分とまで評価されることがあるかどうかが問題となります。この点について、定住者告示3号等に該当する者の素行要件についての審査要領では「日本国又は日本国以外の国の法令に違反して、懲役、禁錮若しくは罰金又はこれらに相当する刑(道路交通法違反による罰金又はこれに相当する刑を除く。以下同じ。)に処せられたことがある者(以下略)」とされています。
そのため,器物損壊罪についても,執行猶予となったとしても有罪判決を受けて刑罰を科せられたとなれば,この定住者告示第3号に該当することを理由として,ビザの更新が拒絶される可能性があります。
起訴猶予処分であれば問題にならない可能性が高い一方、有罪判決となった場合には素行善良要件を満たさないと判断されるケースもあります。
だからといってこの事件のことを秘して在留期間更新申請を行うことはできませんので、入管当局に正直に説明し、在留期間更新を申請しなければなりません。
Aさんのような事案の場合,「すぐに退去強制事由になる可能性は低い,在留期間の更新が認められない可能性がある」,ということになります。
示談交渉の重要性
先述の通り,器物損壊罪で罰金刑でも有罪判決になってしまうと,在留期間の更新が得られなくなる可能性を指摘しました。
しかし,この罪の場合,示談交渉が進み示談が成立した場合,起訴猶予処分で不起訴となる可能性があります。
また,示談交渉の際に告訴状の取下げをしてもらえると,不起訴の可能性が大きく上がります。
ただし,物を壊された被害者の被害感情が強い場合には,Aさんと被害者の直接の交渉というのは難しいので,弁護士をつける方が望ましいです。
そのため,器物損壊罪で逮捕されてしまった,検挙されてしまったという方は,在留期間更新のためにいち早く弁護士にご相談ください。
お問い合わせはこちらから。
経営管理の人が交通事故で退去強制となるか
「経営、管理」の在留資格で日本に滞在しているAさんの夫は、適法な運転免許証を所持し、自家用車を保有していました。
ある日、Aさんのご主人は、自動車で帰宅中、周りの景色に気を取られてしまったことが原因で、信号待ちをしている前の車にぶつかってしまいました。
前方の車には運転手が1名乗車しており、運転手が怪我をしてしまいました。Aさんはすぐに110番と119番をし、駆け付けた警察官により捜査が行われました。
このとき
①Aさんの夫が受ける刑事罰はどのようなものになるか
②①の刑事罰により退去強制になることはあるのか
③Aさんとしてできることはあるのか
以上の点について解説していきたいと思います。
過失運転致傷の刑事罰
Aさんの夫は、わき見をしてしまったことにより前方不注視となり、交通事故を起こしてしまいました。
車で交通事故を起こしたことにより、乗員(これはぶつかられた車の乗員だけではなく、ぶつかった、つまり自分が運転している車の乗員も含みます)や歩行者等に怪我をさせてしまったような場合には、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律5条の過失運転致傷罪が成立します。
なお、今回のAさんの夫はすぐに110番等をしていますので問題ありませんが、事故を起こしてしまったのに現場から逃走したような場合にはより重いひき逃げの罪が成立しますし、お酒を飲んで事故を起こしたような場合には危険運転致傷罪というより重い罪が成立する場合もあります。
Aさんの夫の話に戻すと、不注意という過失により交通事故を起こし、怪我をさせてしまったAさんにはどのような刑罰が与えられるのでしょうか。
法律上定められている法定刑は「七年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する(以下略)」とされています。
一般的に交通事故の場合には①相手の方の怪我の程度②事故を起こした側の過失の程度③被害者の側の過失の程度④運転者の属性などを考慮して処分が決められています。
①については、怪我の程度が重ければ重いほど、後遺症が残ればその影響が大きいほど罪が重くなります。
②については、飲酒や赤信号無視、スピード違反等、それ自体が犯罪になるようなで行為がきっかけで事故を起こしたような場合には罪が重くなります
③については、被害者が赤信号を無視している場合や、道路上で寝ている場合、横断禁止道路を横断している場合などに、運転者の罪が軽くなります。
④については、タクシーやバスの運転手、トラックドライバーなど職業として運転をしている方は、罪が重くなる傾向にあります。
Aさんの事故について考えると、Aさんは特に仕事などで運転していませんし、わき見というそれ自体が犯罪になるようなものではないことが原因で事故を起こしていますから、特に刑を重くすべき事情はありません。
反対に、被害者の方も、信号待ちをしていただけですから、被害者には過失がなく、Aさんの夫の罪を軽くする理由もありません。
そのため、Aさんの夫の処分は①の怪我の程度によっておおよその処分が決まってくると考えられます。
これについて明確に決まりがあるわけではありませんが、全治3日や1週間程度の怪我であれば起訴猶予処分(刑事罰を受けない)、全治3週間~1ヶ月以内程度であれば罰金、1ヶ月を越えるような重い怪我等であれば裁判を受け禁錮刑(ただし執行猶予付き)となることが予想されます。
退去強制事由となるか
刑事事件と退去強制が関わる条項は、いくつかありますが、代表的なものは入管法24条の
4号チ 薬物事件で有罪判決を受けた者
4号リ 1年以上の実刑判決を受けた者
4号の2 窃盗などの事件で有罪判決を受けた者(別表第1の資格に限る)
となっています。
今回の事件であれば、交通事故は薬物事件でもありませんし、怪我の程度が軽ければ執行猶予付き判決になりますので4号リにも該当しません。
また、4号の2に該当するようなこともありません。
そのため、交通事故で有罪判決を受けたとしても、直ちに退去強制となることはなさそうです。
しかし、仮に退去強制とならなくても、在留資格の更新を受けられるかどうかは別問題です。
在留資格の更新時には素行が善良であることが求められていますが、有罪判決を受けた場合には素行善良の要件に問題が生じ、在留資格の更新がされない場合があります。
このような場合、在留資格が更新できず、期限が到来してしまうと、オーバーステイ状態となり、退去強制事由に該当してしまいます。
強制送還の手続きについてはこちら。
Aさんはどうすればよいか
自分の家族が交通事故を起こしてしまった場合、逮捕されたような場合には最初は面会することができません。
逮捕されてから2日程度は、弁護士以外が面会できない状況になりますので、家族としても状況の把握などが困難です。
また、仮に釈放されたとしても、捜査が継続して、場合によっては刑事罰を受けてしまうことは上述の通りです。
逮捕された場合には警察からの連絡を受けてすぐに、在宅事件の場合でもできる限り早く、弁護士に相談し、被害者の方への謝罪や入管への対応などを検討する必要があります。
在留資格の不更新の決定が出てしまってからとなると、在留特別許可を得る方法以外が困難となり、取りうる手段が減ってしまいます。
まだ処分が出る前、色々な対策を講じることができる時期に、弁護士にご相談ください。
通訳人が日本で不法就労助長行為をしてしまった場合
日本で通訳の仕事をしているAさん(在留資格は 技術・人文知識・国際業務)は、自身の通訳業務が増えてきたことから、外国人留学生をアルバイトとして雇うことを計画した。
留学生のビザで日本に入国している場合、そもそも就労は資格外の活動となり、資格外活動許可を受けなければ行うことができないものとされている。
また、仮に許可を受けたとしても、許可された時間の範囲内で行う必要もある。
このように、留学生は自由にアルバイトをすることはできないのだが、Aさんはこのようなルールがあることを知りつつ、特に手続きをしたり、学生に尋ねることなく留学生をアルバイトとして雇っていた。
以上を前提として
①Aさんの行為にはどのような問題があるか
②Aさんは退去強制となることがあるか
以上の点について解説していきたいと思います。
参考報道:茨城県内 おととし不法就労と認定された外国人 全国最多
不法就労助長に対する罪
入管法24条の3号の4ロで「外国人に不法就労活動をさせるためにこれを自己の支配下に置くこと」が退去強制事由とされているほか、同様73条の2第2号で「外国人に不法就労活動をさせるためにこれを自己の支配下に置いた者」は3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金又はこれらの併科と定められています。
一般的に「不法就労助長」と呼ばれている類型です。「不法就労活動」の定義は、24条3号の4イにあり、資格外活動許可を得ないで行う就労活動などがこれに該当しています。今回のようなアルバイトは、当然就労活動に当たりますので、資格外活動許可を得なければ留学生は行うことはできません。
次に資格外活動を「させた」と言いうるのは、外国人との間で対人関係上優位な立場にある者が、その立場を利用して、その外国人に対して不法就労活動を行うべく指示等の働きかけを行い、その外国人が不法就労活動に従事していることを意味します。
雇用主であるAさんは、留学生よりも優位な立場にあると言えますし、仕事の指示も行っていることが通常ですから、この部分も認められます。
最後に「自己の支配下に置く」ですが、外国人に対して心理的ないし経済的に影響を及ぼし、その意思を左右しうる状態に置くこと等を指しています。雇用主であるAさんの場合、留学生の経済状態を左右していますから、このような要件も認められる可能性が高いです。
そのため、資格外活動となることを知りながら、外国人をアルバイトとして雇っていた場合、不法就労助長と指摘される可能性はそれなりに高いと言えます。
退去強制となるか
それでは、Aさんの行為により退去強制となるかについて検討します。
不法就労助長については、上記の通り退去強制事由となっています。
そして、不法就労助長自体は刑事罰もあるものであり、実際刑事事件として摘発されている例があるものの、条文上有罪となることが要件となっていません。
つまり、24条の3号の4ロは「次のイからハまでに掲げるいずれかの行為を行い、唆し、又はこれを助けた者」が退去強制になると定めているのであって、たとえば4号のチのように「麻薬及び向精神薬取締法・・・・の規程に違反して有罪の判決を受けた者」のような、刑事裁判での有罪判決は必要ありません。
そのため、警察が介入しなかったとしても、入管当局が不法就労助長を認定したような場合には、それだけで退去強制事由が認められるということになります。ただ、実際には刑事事件の対象となるような行為であるため、入管だけではなく警察による捜査も行われるケースが多いと思われます。
Aさんには退去強制事由が認められることとなりますが、その場合在留特別許可を得ることは可能でしょうか。
たとえば、出入国在留管理庁が公表している事例によれば、令和4年分の⑴許可事例5番などは、不法就労助長で罰金20万円となっていますが、在留特別許可を得ています。
令和3年⑴許可事例5番なども同様です。
これに対し、令和4年分の⑴不許可事例2番や⑷不許可事例2番などは、同じ不法就労助長でも、懲役の刑の宣告を受けており、こちらは在留特別許可を得られていません。
その他の事情が明らかではないので必ずしも明確なことは判断し難いですが、罰金刑であれば在留特別許可を得られる可能性がある一方、懲役刑が選択されると、仮に執行猶予付き判決であったとしても許可されないように思われます。
弁護活動
以上のような事由からすると、不法就労助長が成立する場合、仮に事実関係が間違いなかったとしても、略式罰金を目指していかなければ、在留できなくなる可能性が高いと言えます。
そのためには、刑事事件の弁護活動の段階から、不法就労助長の認識や、その期間、収入額など、できる限り有利な情状を検察官に伝え、略式起訴するよう交渉することが必要です。
また、不法就労助長について、故意がない場合、たとえば資格を有していたと考えていた場合や在留カード等を確認していた場合等には、犯罪の成立を争うことも必要です。
このときは、早期に黙秘権を行使し、不利な供述調書を作成されないようにするなどの対策が必要です。
いずれにせよ、不法就労助長を犯している疑いがある場合には、直ぐに弁護士に相談していただき、今後の在留のためにとれる策を検討することが必要です。