Archive for the ‘外国人と刑事事件’ Category

永住者の不同意わいせつ事件と退去強制の可能性

2024-11-18

(事例)
両親が外国籍であるものの、日本で生まれ育ったAさんは、永住権を保有した状態で日本国内で生活していました。
ある日おAさんは、通行中の女性の背後から忍び寄り、押し倒して胸を触るなどのわいせつ行為をしました。この件で、後日Aさんが逮捕されてしまいました。

このとき,
①Aさんが受ける刑事罰はどのようなものになるか
②①の刑事罰により、Aさんは退去強制処分となるか
以上の点について解説していきたいと思います。

⑴不同意わいせつの刑事罰

Aさんは、通行中の女性に対してわいせつな行為をしています。
このような場合には怪我などが無ければ不同意わいせつ罪が成立します。

参考;不同意わいせつ罪が成立する場合

不同意わいせつ罪の法定刑は、6月以上10年以下の懲役と極めて重い罪となっています。
これほど重い罪の不同意わいせつ罪ですが、具体的な刑期は、行為態様、被害の程度や被害者の処罰感情などを元に決定します。
Aさんの場合、一般的な不同意わいせつではありますが、そもそもが重い罪ですから、少なくとも公判請求をされ、何らかの刑罰を受けることが予想されます。

⑵退去強制となるか

永住者の資格は、入管法の別表第2に記載されている資格です。そのため、入管法24条4号の2の適用はありませんから、執行猶予でも直ちに退去強制となるわけではありません。
しかし、別表第2に記載された資格であっても、入管法24条4号リの適用はありますから、無期又は1年以上の懲役(実刑判決)に処せられた場合には退去強制となります。

退去強制(強制送還)について

先程述べた通り、不同意わいせつは極めて重い罪ですから、1年以上の懲役の判決を受ける可能性はあります。
ですので、このままいけばAさんは退去強制となる可能性もあります。

⑶弁護活動

さて、先述の通り、不同意わいせつ罪で刑事罰を受けてしまうと、退去強制となり、日本国内に留まれない可能性高いことを指摘しました。
このような場合、何とか日本国内に留まりたいというようなときは、被害者の方と示談を行うことが考えられます。
検察庁は、全ての刑事事件について起訴をし、刑事処分を求めるのではなく、被害者の意向等の事情を踏まえ、一定の事件を起訴猶予(不起訴)としています。
最終的な処分を決定する際、被害者の方がどの程度処罰意向を持っておられるか、被害回復がなされたかどうかは大きな考慮要素となります。
出来る限り刑事処分を軽減するためにも、被害者の方との示談交渉は不可欠です。

いずれにしても、不同意わいせつ事件が発生した場合、警察はほぼ確実に犯人を逮捕します。
逮捕されると、引き続いて勾留となりますが、逮捕・勾留期間を併せても最大23日間しか捜査期間はありません。
そして、勾留期限の最終日に検察官は起訴不起訴を決定しますから、どのような弁護活動を行うとしてもそれほど時間はありません。

在留資格をお持ちの方が強盗致傷で逮捕された場合には、速やかに弁護士に依頼をし、適切な弁護活動を受ける必要があります。

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日本人の配偶者が傷害事件を起こしてしまったらどうなる

2024-11-11

日本人の配偶者という在留資格で日本に滞在しているAさんは、ある日通行人とトラブルになり、ついカッとなって手を出してしまいました。
これにより被害者は全治2週間程度のけがをしてしまい、Aさんは駆け付けた警察官に逮捕されてしまいました。
以上を前提として
①Aさんが受ける刑事罰はどのようなものになるか
②①の刑事罰によってAさんは退去強制となることがあるか
以上の点について解説していきたいと思います。

⑴ 傷害罪の刑事罰

傷害罪は刑法204条に定めがある罪で、その法定刑は15年以下の懲役又は50万円以下の罰金となっています。
15年以下と極めて重い罪になっていますが、これはけがの程度によって法定刑の区分がないからです。全治2週間のけがであれば、懲役15年というような判決を受けることは
通常考えられません。

傷害罪の具体的な刑罰を決める際には、①けがの程度はどのくらいであるか②けがをさせるに至った経緯はどのようなものか③被害回復がなされているか④何回目の検挙であるかが大きな考慮要素となります。
①まずけがの程度ですが、これは単純に重いけがをさせればさせるほど刑が重くなるということになります。ただ、全治1週間とと4週間で比較すると4週間のほうが4倍悪いという単純なものではありません。
②事件を起こした経緯ですが、通常は何らかのトラブルがあったことが原因だと思われますが、被害者側に落ち度があった場合には、刑を軽くする事情となります。
③傷害罪は、人にけがをさせた罪ですので、治療費が発生します。この治療費の支払いや、慰謝料が支払われているかなどは重要です。
④最後に、傷害のような事件の場合これが大きな問題となってくるのですが、何回目の検挙であるかも重要です。いくらけがの程度が軽く、被害回復がなされていたとしても、何度も何度も
検挙されているような状況では、処分を軽減することにも限度が生じます。一般的な感覚の通りですが、通常は1回目より2回目が、2回目より3回目が、3回目より4回目が重い処分となります。
また、前回と今回の間隔(何年程度空いているか)も重要です。これがあまりに近いということになると、常習性が疑われて、より重い処分となります。
そこでAさんの刑事罰ですが、1回目の検挙であれば被害回復を行っていれば起訴猶予となる可能性も十分あります。ただ、2回目であれば罰金、3回目であれば執行猶予付きの判決という形でどんどん重くなってきます。また、たとえ全治3日のような借る怪我であっても、執行猶予付き判決中や猶予期間満了後すぐにやってしまうと、刑務所に行く実刑判決となる可能性が相当高いと言えます。

⑵ 退去強制となるか

それでは、Aさんの刑事処分により退去強制となるかについて検討します。
退去強制事由については入管法24条に定めがあります。ただ、Aさんは日本人の配偶者資格ですので、在留資格としては別表第2の資格となります。

同条4の2には「別表第一の上欄の在留資格をもつて在留する者で、刑法第二編第十二章、第十六章から第十九章まで、第二十三章、第二十六章、第二十七章、第三十一章、第三十三章、第三十六章、第三十七章若しくは第三十九章の罪、暴力行為等処罰に関する法律第一条、第一条ノ二若しくは第一条ノ三(刑法第二百二十二条又は第二百六十一条に係る部分を除く。)の罪、盗犯等の防止及び処分に関する法律の罪、特殊開錠用具の所持の禁止等に関する法律第十五条若しくは第十六条の罪又は自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第二条若しくは第六条第一項の罪により懲役又は禁錮に処せられたもの」という定めがあり、この条文に該当する場合には仮に執行猶予判決であったとしても退去強制となるように思われます。

しかし、先ほど述べた通り、Aさんは別表第2の資格ですから、この条文には該当しません。ですので、執行猶予判決の場合にまで退去強制となるというものではありません。
ただ、4号リにある「リ ニからチまでに掲げる者のほか、昭和二十六年十一月一日以後に無期又は一年を超える懲役若しくは禁錮に処せられた者。ただし、刑の全部の執行猶予の言渡しを受けた者及び刑の一部の執行猶予の言渡しを受けた者であつてその刑のうち執行が猶予されなかつた部分の期間が一年以下のものを除く。」については適用がありますから、1年以上の実刑判決を受けた場合には退去強制事由に該当します。
先ほども述べたところですが、傷害だからといって実刑判決とならないというものではありません。何度も繰り返していた場合にはいずれ実刑判決となってしまいます。このようになれば退去強制事由に該当してしまっていますし、何度も繰り返し刑事罰を受けていますから在留特別許可を得ることもできないと思われます。

⑶ 弁護活動

傷害だからと言って軽い犯罪だと考えてはいけません。実刑判決を受けることもある重大な犯罪です。
また、一瞬の苛立ちからついでやっていたとしても、何度検挙されても繰り返すという方も多数おられます。
ですから、傷害で検挙されたり、ご家族が傷害で検挙されたような場合には速やかに弁護士にご相談ください。
被害者への被害弁償はもちろん必要ですが、それだけではなく将来の在留資格更新を行ったり退去強制とならないようにするためにも、専門の弁護士にご依頼ください。

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永住者が不法就労助長をしてしまったらどうなる?

2024-11-04

【事例】
Aさんは永住権をもって日本に在留している外国人です。日本では,飲食店を経営しています。
飲食店では,外国人のBさんを雇っているのですが,Bさんを雇う際,B さんの在留資格や,在留期間について確認せず採用し,飲食店で働かせていました。
そうやって働かせていたところ,警察がBさんを入管法違反で逮捕しました。その際に,実は,Bさんは留学の資格で在留しており,採用した時点ですでにオーバーステイとなっていることも発覚しました。そのため,Aさんも警察に逮捕されてしまいました。

このような場合に,①どのような刑事罰を受けるのか,②退去強制になるのかについて解説していきます。

(1)不法就労助長罪の刑事罰

不法就労助長については,入管法の73条の2に規定があります。
入管法73条の2第1号は,「事業活動に関し,外国人に不法就労をさせた者」,2号は,「外国人に不法就労活動をさせるためにこれを自己の支配下に置いた者」,3号は「業として,外国人に不法就労活動をさせる行為又は全豪の行為に関しあっせんした者」に,不法就労助長罪が成立すると規定しています。

この,「不法就労」には,在留資格で認められた活動以外の就労活動をした場合のほかに,オーバーステイ中に就労活動をしたことも含まれます。
不法就労助長罪についての刑の重さですが,3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金又は,これらの併科が予定されています。
この不法就労助長罪については,①不法就労させた人数は何人か,②どのくらいの期間不法就労させたのか等の事情が考慮されます。
①については,不法就労させた人数が多ければ多いほど,重く見られます。
②については,不法就労させた期間が長ければ長いほど,重く見られます。
また,量刑傾向については,初犯であれば,執行猶予付きの懲役刑と,罰金が併科されている事例が多いようです。

なお,入管法は「不法就労であったことを過失により知らなかったとしても,刑罰を免れない」という規定を置いています。
いわゆる,過失犯処罰規定と呼ばれるものです。
日本における犯罪は「故意」つまり,「ある程度わかってやった/だめだろう(だめかもしれない)と思いつつわざとやった」時にのみ犯罪としているため,「うっかり」や「不注意」で犯罪に該当する行為をした場合には,原則として処罰されてないのです。
しかし,外国人を雇う時には「就労可能な在留資格かどうか」の確認が義務付けられているため,確認義務を怠って不法就労をさせた場合も故意があった場合と同様に処罰の対象にするとされているのです。

政府の注意喚起HP 厚生労働省:不法就労にあたる外国人を雇い入れないようにお願いします

そのため,「知らなかった」だけでは弁解になっておらず,「十分な注意で在留資格を確認したけれども不法就労であることを見抜けなかった」という場合でなければ,罪に問われてしまうのです。

(2)退去強制になるのか

不法就労助長を行った場合に退去強制になるかについては,入管法24条3号の4に規定があります。
入管法24条3号の4イによれば,「事業に関し,外国人に不法就労活動をさせること」,同号ロによれば,「外国人に不法就労活動をさせるためにこれを自己の支配下に置くこと」,同号ハによれば,「業として,外国人に不法就労活動をさせる行為又はロに規定する行為に関しあっせんすること」が不法就労助長に当たると規定されています。
不法就労助長を行った場合,たとえ刑事罰に問われていなくても,その事実が認められれば退去強制の対象になります。

(3)弁護士として何ができるか

このような処分が考えられることから,弁護士としては,①有利な事情があるから,不起訴や軽い刑事処分を求めること,②不法就労助長を行ったとしても退去強制にすべきではないことを主張することが考えられます。
例えば,雇い入れる際にナイフを使って脅されたため,雇い入れざるを得なかったなどの事情がある場合,刑事処分を与えるのは不適切であるため,不起訴にすべきであるなどと主張することが考えられます。
退去強制についても,Aさんは永住者であること,不注意で在留資格外の活動をさせてしまったことなどを主張して,Aさんに対する退去強制処分は違法であることなどを主張することになります。
このように,不法就労助長を理由とする退去強制であっても,特殊事情を理由に刑事処分や退去強制処分が認められない場合がありますので,弁護士に依頼して刑事処分や退去強制処分を回避するようにすることが重要です。

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定住者が交通事故で退去強制となるか,ビザへの影響は

2024-10-29

【事例】

日本に定住者として在留しているAさんは、日本で有効な運転免許証を所持し、自家用車を保有していました。
ある日、Aさんは、自動車で帰宅中、周りの景色に気を取られてしまったことが原因で、信号待ちをしている前の車にぶつかってしまいました。
前方の車には運転手が1名乗車しており、運転手が怪我をしてしまいました。Aさんはすぐに110番と119番をし、駆け付けた警察官により捜査が行われました。

このとき
①Aさんが受ける刑事罰はどのようなものになるか
②①の刑事罰により退去強制になることはあるのか
③Aさんとしてできることはあるのか
以上の点について解説していきたいと思います。

⑴過失運転致傷の刑事罰

Aさんは、わき見をしてしまったことにより前方不注視となり、交通事故を起こしてしまいました。
車で交通事故を起こしたことにより、乗員(これはぶつかられた車の乗員だけではなく、ぶつかった、つまり自分が運転している車の乗員も含みます)や歩行者等に怪我をさせてしまったような場合には、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律5条の過失運転致傷罪が成立します。

なお、今回のAさんはすぐに110番等をしていますので問題ありませんが、事故を起こしてしまったのに現場から逃走したような場合にはより重いひき逃げの罪が成立しますし、お酒を飲んで事故を起こしたような場合には危険運転致傷罪というより重い罪が成立する場合もあります。

Aさんの話に戻すと、不注意という過失により交通事故を起こし、怪我をさせてしまったAさんにはどのような刑罰が与えられるのでしょうか。

法律上定められている法定刑は「七年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する(以下略)」とされています。
一般的に交通事故の場合には①相手の方の怪我の程度②事故を起こした側の過失の程度③被害者の側の過失の程度④運転者の属性などを考慮して処分が決められています。

①については、怪我の程度が重ければ重いほど、後遺症が残ればその影響が大きいほど罪が重くなります。
②については、飲酒や赤信号無視、スピード違反等、それ自体が犯罪になるようなで行為がきっかけで事故を起こしたような場合には罪が重くなります
③については、被害者が赤信号を無視している場合や、道路上で寝ている場合、横断禁止道路を横断している場合などに、運転者の罪が軽くなります。
④については、タクシーやバスの運転手、トラックドライバーなど職業として運転をしている方は、罪が重くなる傾向にあります。

Aさんの事故について考えると、Aさんは特に仕事などで運転していませんし、わき見というそれ自体が犯罪になるようなものではないことが原因で事故を起こしていますから、特に刑を重くすべき事情はありません。反対に、被害者の方も、信号待ちをしていただけですから、被害者には過失がなく、Aさんの罪を軽くする理由もありません。

そのため、Aさんの処分は①の怪我の程度によっておおよその処分が決まってくると考えられます。
これについて明確に決まりがあるわけではありませんが、全治3日や1週間程度の怪我であれば起訴猶予処分(刑事罰を受けない)、全治3週間~1ヶ月以内程度であれば罰金、1ヶ月を越えるような重い怪我等であれば裁判を受け禁錮刑(ただし執行猶予付き)となることが予想されます。

⑵退去強制事由となるか

刑事事件と退去強制が関わる条項は、いくつかありますが、代表的なものは入管法24条の
4号チ 薬物事件で有罪判決を受けた者
4号リ 1年以上の実刑判決を受けた者
4号の2 窃盗などの事件で有罪判決を受けた者(別表第1の資格に限る)
となっています。

何罪だと強制送還になる?強制送還になる罪名まとめ

今回の事件であれば、交通事故は薬物事件でもありませんし、怪我の程度が軽ければ執行猶予付き判決になりますので4号リにも該当しません。
また、4号の2に該当するようなこともありません。
そのため、交通事故で有罪判決を受けたとしても、直ちに退去強制となることはなさそうです。
しかし、仮に退去強制とならなくても、在留資格の更新を受けられるかどうかは別問題です。
在留資格の更新時には素行が善良であることが求められていますが、有罪判決を受けた場合には素行善良の要件に問題が生じ、在留資格の更新がされない場合があります。
このような場合、在留資格が更新できず、期限が到来してしまうと、オーバーステイ状態となり、退去強制事由に該当してしまいます。
このことは、たとえ定住者であったとしても変わりません。ただし、日本との結びつきが強かったり、過失犯という誰にでも生じるような事件であることを理由に、在留資格の更新が
出来ないということはそれほど多くなさそうです。

同様に,日本で交通事故を起こしてしまった方のビザに関してはこちらの解説もご覧ください。

「日本人の配偶者等」の人が交通事故をした場合,在留資格はどうなる?在留期間の更新は大丈夫?

交通事故を起こした後の在留期間の延長は認められるのか,「技術・人文知識・国際業務」ビザについて解説

⑶Aさんはどうすればよいか

自分が交通事故を起こしてしまった場合、逮捕されたような場合には最初は家族や友人と面会することができません。
逮捕されてから2日程度は、弁護士以外が面会できない状況になりますので、家族としても状況の把握などが困難です。
また、仮に釈放されたとしても、捜査が継続して、場合によっては刑事罰を受けてしまうことは上述の通りです。
逮捕された場合には警察からの連絡を受けてすぐに、在宅事件の場合でもできる限り早く、弁護士に相談し、被害者の方への謝罪や入管への対応などを検討する必要があります。
在留資格の不更新の決定が出てしまってからとなると、在留特別許可を得る方法以外が困難となり、取りうる手段が減ってしまいます。
まだ処分が出る前、色々な対策を講じることができる時期に、弁護士にご相談ください。

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「留学」ビザで不法就労をしてしまった場合,どのような処罰を受けるのか

2024-10-22

【事例】
留学の資格で日本に在留しているAさんは,1年ほど前から,とあるキャバクラ店で勤務していました。
ところがある時,このキャバクラ店に対して警察署の摘発があり,Aさんの不法就労の事実が発覚し,その場で警察官から逮捕されてしまいました。

このような事件の場合に
①Aさんは,どのような刑事処分を受けるのか,
②退去強制を受けるのか,
以上の点について解説していきたいと思います。

(1)不法就労に対する刑事罰

Aさんは,「留学」の在留資格で日本に在留しているにもかかわらず,在留資格で許されている活動ではないキャバクラでの勤務を行っていることから,入管法70条1項4号か,入管法73条のいずれかに該当する可能性があります。
入管法70条1項4号は,「在留資格外で収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動を専ら行っていると明らかに認められる場合」に成立するものです。
一方,入管法73条は,在留資格外の就労を行っているものの,不法就労活動を「専ら行っていると明らかに認められる」とまでは言えない場合を指します。

刑事罰の重さですが,入管法70条1項4号の罪が成立すると,「3年以下の懲役若しくは禁錮若しくは300万円以下の罰金」又はその併科が予定されています。
73条の罪が成立すると,「1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは200万円以下の罰金」又はその併科が予定されています。

不法就労罪の罪の重さは,①勤務形態,②勤務していた期間などを考慮して処分が決められます。
①については,フルタイムで働いているなど,元々の在留資格の活動から大きく外れていたり,就労活動を専ら行っている様子が見られる場合に重く見られます。
②については,就労していた期間が長いほど,不法就労の悪質性が強いと見られ,重く見られます。
今回のAさんについて考えると,Aさんの勤務形態にもよりますが,1年間不法就労を続けているという関係から,執行猶予付きの有罪判決となることが予想されます。

(2)出入国管理上はでどのような処分がされるのか

退去強制になるかどうかについては,入管法24条に規定があります。
入管法24条4号イによれば,「第19条1項の規定に違反して収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動を専らおこなっていると明らかに認められる者」について退去強制処分を受けることが規定されています。また,入管法24条4号へによれば,「第73条の罪(不法就労罪)により禁錮以上の刑に処せられた者」については退去強制処分を受けることが規定されています。

何罪だと強制送還になる?強制送還になる罪名まとめ

そのため,不法就労を行ってしまったAさんの場合,①起訴されて禁固刑,懲役刑(執行猶予が付いた場合も含む)を受けた場合,②①の場合でなかったとしても資格外活動を「専ら」行っていたと見られた場合には退去強制処分を受ける可能性が高まるでしょう。

(3)弁護士として出来ること

このような刑罰や,退去強制処分が予想されることから,弁護士としては,①有利な情状があることから,不起訴処分を求めること,②退去強制処分を避けるよう主張することが考えられます。
①については,Aさんの就労期間が短かったり,Aさんの勤務時間が短いなどの事情があり,起訴するのが相当ではないと主張して不起訴を求めることが考えられます。
②の場合,退去強制処分の理由そのものを争う他,不法就労をしていたことを認めつつ在留特別許可を求めるという方針も考えられます。

解決事例 在留特別許可(留学)が認められた事例

令和6年(2024年)からは出入国管理法が改正されて,在留特別許可に関する手続きも大きく変化しました。

不法就労に関する入管法の規定は,非常に複雑になっています。
警察に検挙されてしまったという場合であっても,どのような方針・手続を目指すのか,弁護士とよく相談して進めていくのが重要です。

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定住者が大麻所持で逮捕された場合,強制送還されるのか

2024-10-15

両親が日本に来日し、日本で生まれたAさんは、国籍こそ外国籍であるものの、その国には一度も住んだことはなく、日本の学校を卒業し、日本で会社員
として勤務しています。在留資格は定住者となっています。

そんなAさんは、大学生のころから友人と大麻を使用しており、なかなかやめることができませんでした。
ある日車に乗っていたAさんは、不審な動きをしているということで職務質問を受け、持っていたカバンの中から大麻草1gが発見され、鑑定の後逮捕されてしまいました。

以上を前提として
①Aさんが受ける刑事罰はどのようなものになるか
②①の刑事罰によってAさんは退去強制となることがあるか
以上の点について解説していきたいと思います。

⑴大麻所持の刑事罰

Aさんは大麻を所持していました。日本では大麻所持は違法とされていますので、Aさんの行為は大麻取締法違反の大麻所持となります。
大麻所持の罰則は、大麻取締法24条の2に記載があり、「大麻を、みだりに、所持し、譲り受け、又は譲り渡した者は、五年以下の懲役に処する。」
とされています。
Aさん自身,大麻を所持していた認識はありますので、犯罪が成立することに争いはありませんが、そのような場合、Aさんにどのような処分となるのかが問題となります。
大麻所持の場合、初犯であっても裁判となる可能性が高い類型の犯罪です。ただ、いきなり刑務所に行くのではなく、執行猶予付き判決となることが予想されます。
⑵はこれを前提として検討していくことにします。

⑵退去強制となるか

それでは、Aさんの刑事処分により退去強制となるかについて検討します。
退去強制事由については入管法24条に定めがあります。Aさんのビザは定住者ですので、在留資格としては別表第2の資格となります。

同条4項チには「昭和二十六年十一月一日以後に麻薬及び向精神薬取締法、大麻取締法、あへん法、覚醒剤取締法、国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律(平成三年法律第九十四号)又は刑法第二編第十四章の規定に違反して有罪の判決を受けた者」という定めがあります。
要するに、薬物に関連する法律で有罪の判決を受けたものについては退去強制事由とするというものです。

何罪だと強制送還になる?強制送還になる罪名まとめ

強制送還手続きについては法務省HP解説や,弊所でも解説をしています。

まず、有罪の判決ですので、執行猶予付きであるかどうかは問われません。実刑判決でなくても退去強制事由となります。
また、今回は関係ありませんが、たとえ罰金刑であっても有罪の判決に変わりはありませんので退去強制事由となること、「定住者」であっても退去強制事由となることにも注意が必要です。ですので、このままではAさんは退去強制となりますので、在留特別許可を求める申請を行う必要性があります。

定住者であり日本との結びつきが強いことや、初犯であるなどの理由から、在留特別許可が得られる可能性もある事案だと考えられます。

仮に強制送還されてしまった場合はこちらも参照ください。

大麻取締法違反で強制送還,再入国できるのか

⑶弁護活動

既に述べた通り、本件では有罪の判決を受けてしまうと退去強制となってしまう可能性が極めて高いという事案です。
何とか退去強制を回避するためには2通りの方向性での弁護活動が考えられます。

①起訴猶予を目指す方向
大麻所持を認め、反省の意を示し、再犯防止の具体的な取り組みを行うなどして、何とか起訴猶予処分を得る方法が考えられます。
覚醒剤事件であればこの方向は相当困難ですが、大麻所持の場合には起訴猶予となることもないわけではないようです。ですので、検察官に働きかけを行い、何とか処分を回避するということが考えられます。

②故意を否認する方向性
有罪となるためには、犯罪が成立しなければならないところですが、犯罪の成立のためには客観的に犯罪が成立しているだけではなく、犯人に「故意」が必要となります。
故意の内容については様々な見解があるところですが、今回のようなケースでいえば「自分が持っているものが何らかの違法薬物である」という認識があるかどうかというところになります。
所持に至る経緯や携帯電話の内容などを踏まえて検討されるところですが、故意を否認するためには何よりも黙秘を行うことが大切です。黙秘権を行使しせず何らかの供述をしてしまえば、
否認は困難になっていきます。

①②のいずれの活動を行うにも、初動が大切です。

①の場合、再犯防止計画の策定には通常時間を要しますから、いち早く家族などの方に連絡を取れるように働きかけを行い、取り組みの準備をしていくことが必要となります。
②の場合、一番最初に作成される弁解録取書の内容がどのようなものになるかが大切です。最初に罪を認めてしまった場合、後からこれを覆すためには相当大変です。ですので、最初からきっちりと取調べへ対応し、不用意に供述したり調書を作成することの内容にする必要があります。

退去強制手続きを回避するためには、少なくとも不起訴になることが最低条件です(なお、不起訴になったとしても在留資格の更新に影響が生じる場合があります)。ですので、ご家族や知人が逮捕されてしまった場合には、
速やかに経験のある弁護士に依頼をすることが必要です。

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交通事故を起こした後,留学の在留期間を更新できるか

2024-10-08

日本の大学に「留学」の在留資格で留学しているAさんは、適法な運転免許証を所持し、自家用車を保有していました。
ある日、Aさんは、自動車で帰宅中、周りの景色に気を取られてしまったことが原因で、信号待ちをしている前の車にぶつかってしまいました。
前方の車には運転手が1名乗車しており、運転手が怪我をしてしまいました。Aさんはすぐに110番と119番をし、駆け付けた警察官により捜査が行われました。

このとき
①Aさんが受ける刑事罰はどのようなものになるか
②①の刑事罰により期間の更新ができるのか
③Aさんとしてできることはあるのか
以上の点について解説していきたいと思います。

⑴過失運転致傷の刑事罰

Aさんは、わき見をしてしまったことにより前方不注視となり、交通事故を起こしてしまいました。
車で交通事故を起こしたことにより、乗員(これはぶつかられた車の乗員だけではなく、ぶつかった、つまり自分が運転している車の乗員も含みます)や歩行者等に怪我をさせてしまったような場合には、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律5条の過失運転致傷罪が成立します。
なお、今回のAさんはすぐに110番等をしていますので問題ありませんが、事故を起こしてしまったのに現場から逃走したような場合にはより重いひき逃げの罪が成立しますし、お酒を飲んで事故を起こしたような場合には
危険運転致傷罪というより重い罪が成立する場合もあります。
Aさんの話に戻すと、不注意という過失により交通事故を起こし、怪我をさせてしまったAさんにはどのような刑罰が与えられるのでしょうか。
法律上定められている法定刑は「七年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する(以下略)」とされています。
一般的に交通事故の場合には①相手の方の怪我の程度,②事故を起こした側の過失の程度,③被害者の側の過失の程度,④運転者の属性などを考慮して処分が決められています。
①については、怪我の程度が重ければ重いほど、後遺症が残ればその影響が大きいほど罪が重くなります。
②については、飲酒や赤信号無視、スピード違反等、それ自体が犯罪になるようなで行為がきっかけで事故を起こしたような場合には罪が重くなります
③については、被害者が赤信号を無視している場合や、道路上で寝ている場合、横断禁止道路を横断している場合などに、運転者の罪が軽くなります。
④については、タクシーやバスの運転手、トラックドライバーなど職業として運転をしている方は、罪が重くなる傾向にあります。
Aさんの事故について考えると、Aさんは特に仕事などで運転していませんし、わき見というそれ自体が犯罪になるようなものではないことが原因で事故を起こしていますから、特に刑を重くすべき事情はありません。
反対に、被害者の方も、信号待ちをしていただけですから、被害者には過失がなく、Aさんの罪を軽くする理由もありません。
そのため、Aさんの処分は①の怪我の程度によっておおよその処分が決まってくると考えられます。
これについて明確に決まりがあるわけではありませんが、全治3日や1週間程度の怪我であれば起訴猶予処分(刑事罰を受けない)、全治3週間~1ヶ月以内程度であれば罰金、1ヶ月を越えるような重い怪我等であれば裁判を受け禁錮刑(ただし執行猶予付き)となることが予想されます。

⑵在留期間の更新はできるのか

在留期間の更新は「更新を適当と認めるに足りる相当の理由があるとき」(出入国管理及び難民認定法21条2項)に認められますが、この認定にあたっては、出入国在留管理庁によるガイドラインがあります。

参考:「留学」の場合の在留期間更新申請

このガイドラインによると、在留期間の更新が許可されるのは
1 行おうとする活動が申請に係る入管法別表に掲げる在留資格に該当すること
2 法務省令で定める上陸許可基準等に適合していること(別表第1の2の表又は第4の表に掲げる在留資格の下欄に掲げる活動を行おうとする者)
3 現に有する在留資格に応じた活動を行っていたこと
4 素行が不良でないこと
5 独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること
6 雇用。動労条件が適正であること
7 納税義務を履行していること
8 入管法に定める届出等の義務を履行していること
とされています。
このうち4の部分には「素行については,善良であることが前提となり,良好でない場合には消極的な要素として評価され,具体的には,退去強制事由に準ずるような刑事処分を受けた行為,不法就労をあっせんするなど出入国在留管理行政上看過することのできない行為を行った場合は,素行が不良であると判断されることとなります。」との記載がなされています。
まず、「留学」の在留資格は、入管法上別表第1の表に記載がある在留資格です。
そのため、法務省令に定める上陸許可基準等の問題がありますが、今回の場合には問題となりませんので割愛します。
今回の場合、ガイドラインに記載されている「素行が不良でないこと」が問題となります。そして、「退去強制事由に準ずるような刑事処分を受けた」場合には素行不良であると判断されることになるため、退去強制事由に準ずるような刑事処分であるかどうかを検討していくことになります。
それでは刑罰法令違反が退去強制事由となるかどうかを考えていきます。別表第1の在留資格の場合、入管法等在留関係の法律以外の刑罰法令が問題となる退去強制事由の1つとして、入管法24条4号リがあります。
入管法24条4号リは、「無期又は一年を超える懲役若しくは禁錮に処せられた者。ただし、刑の全部の執行猶予の言渡しを受けた者及び刑の一部の執行猶予の言渡しを受けた者であつてその刑のうち執行が猶予されなかつた部分の期間が一年以下のものを除く。」とするものです。この4号リで問題とされるのは、仮に禁錮であっても実刑となった者、つまり執行猶予付きの判決を受けた場合は除かれています。傷害罪で実刑の判決となるのは余程被害が大きい(被害者が植物人間となるなど)場合がほとんどですので、今回はこれには該当しません。
次に、Aさんの処分が退去強制事由に「準ずる」刑事処分とまで評価されることがあるかどうかが問題となります。この点について、定住者告示3号等に該当する者の素行要件についての審査要領では「日本国又は日本国以外の国の法令に違反して、懲役、禁錮若しくは罰金又はこれらに相当する刑(道路交通法違反による罰金又はこれに相当する刑を除く。以下同じ。)に処せられたことがある者(以下略)」とされています。
かっこ書きで除外されているのは「道路交通法違反による罰金又はこれに相当する刑」となっており、窓外は明示的に挙げられていません。ただ、交通事故のような過失により人にけがをさせた事案であれば、故意に人を傷つけた事案よりは軽く考えられると思われますが、単なる道路交通法違反事件よりは重い刑罰となる場合もありますので、一概に比較できません。
そのため、過失運転致傷罪で素行善良要件を満たすかどうかについては明確に決まりません。起訴猶予処分であれば問題にならない可能性が高まる一方、罰金や禁錮刑となった場合には素行善良要件を満たさないと判断されるケースもあります。
だからといってこの事件のことを秘して在留期間更新申請を行うことはできませんので、入管当局に正直に説明し、二度と運転をしない等の誓約を行い在留期間の更新を求める方がよいと思われます。

⑶Aさんはどうすればよいか

自分が交通事故を起こしてしまった場合、逮捕されたような場合には最初は家族や友人と面会することができません。
逮捕されてから2日程度は、弁護士以外が面会できない状況になりますので、家族としても状況の把握などが困難です。
また、仮に釈放されたとしても、捜査が継続して、場合によっては刑事罰を受けてしまうことは上述の通りです。
逮捕された場合には警察からの連絡を受けてすぐに、在宅事件の場合でもできる限り早く、弁護士に相談し、被害者の方への謝罪や入管への対応などを検討する必要があります。
在留資格の不更新の決定が出てしまってからとなると、在留特別許可を得る方法以外が困難となり、取りうる手段が減ってしまいます。
まだ処分が出る前、色々な対策を講じることができる時期に、弁護士にご相談ください。

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定住者の外国人がオーバーステイになってしまった場合

2024-10-01

【事例】
定住者として太陽光パネルの設置の仕事をしているAさんは親方から,「C県の仕事がまだ終わらないから,C県で働いてくれる?」と言われたことから,自身の住んでいるB県から離れて生活していたところ,その間にオーバーステイとなってしまいました。
その後も,Aさんは在留期間の更新を忘れて,1年ほどC県で働いていたところ,深夜にコンビニに行く際に警察官に呼び止められ,オーバーステイが発覚し,その場で逮捕されました。

この事例の場合に,①どのような刑罰を受けるのか,②退去強制となってしまうのかについて解説していきます。

(1)オーバーステイの刑事罰

オーバーステイが刑事罰になる根拠は,入管法70条1項5号に根拠があります。
この規定によると,「在留期間の更新又は変更を受けないで在留期間(第二十条第六項(第二十一条第四項において準用する場合を含む。)の規定により本邦に在留することができる期間を含む。)を経過して本邦に残留する者」について刑罰を科することができると規定されています。
この刑の重さですが,「三年以下の懲役若しくは禁錮若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はその懲役若しくは禁錮及び罰金とその併科」が予定されています。
量刑傾向としては,単にオーバーステイのみですと,執行猶予付きの有罪判決になる例が多いです。
量刑を左右する事情としては,オーバーステイとなった期間が重要な量刑事情になります。
大まかに,1年程度であれば,懲役1年,執行猶予3年程度,オーバーステイ(不法残留)の期間が5年を超えると,懲役2年6カ月執行猶予5年程度となるケースが散見されます。
そのため,今回のAさんの件であれば,懲役1年,執行猶予3年程度となるケースであると考えられます。

(2)退去強制になるのか

入管法24条4号ロによれば,「在留期間の更新又は変更を受けないで在留期間を経過して本邦に在留する者」に該当することから,オーバーステイになってしまうと退去強制の対象となります。
そのため,警察官にオーバーステイで検挙されてしまうと,その後の証拠収集によってオーバーステイの事実が確認されてしまうため,退去強制に向けた手続きが進められることになります。

(3)弁護士として出来ること

このような刑罰が予想されるため,弁護士としては,①有利な情状があることから,不起訴とすべきであること,②やむを得ない理由によってオーバーステイとなってしまったため,退去強制は違法であると主張することが考えられます。
例えば,Aさんが仕事の関係で強制的な労働がされており,職場を離れることができなかったというような事情がある場合には,Aさんに対して刑罰を科すのが不適当と判断され,刑罰を受けずに済む可能性があります。
他にも,在留期間の更新や在留資格の変更の申請を行ったが,まだ入国管理局からの判断がされていないため,オーバーステイとなる在留カードを持っていたという場合もあり,そのような場合であればそもそもオーバーステイにはならないという場合もあります。
オーバーステイの事案であったとしても,特別な事情がある場合には迅速に弁護士に依頼し,不起訴あるいは退去強制の阻止に向けて動いてもらう必要があると考えられます。

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永住者が関税法違反で検挙されてしまった場合

2024-09-24

事例

日本とシンガポールを行き来している投資家として生活しているAさんは,日本の永住資格を持っています。ある日,金塊にかかる消費税を免れるため,ノートパソコンの中に金塊1キロ(約1000万円)を隠して,金塊の輸入について申告せずに,空港から日本に入国しました。
しかし,税関職員にノートパソコンを分解され,金塊1キロが発見されてしまいました。
なお,Aさんに前科はありません。

このとき,
①Aさんが受ける刑罰はどのようになるか,
②①の刑罰によって,Aさんは退去強制となるのか
③Aさんに対して,弁護士として出来ることはあるのかについて解説していきます。

(1)金塊の密輸の刑事罰

金塊の密輸というのは,普通に日本に申告して輸入した場合,地方税や,消費税などがかかるため,その税金を免れるために行われています。
また,金塊というのは,税関において申告が必要な物品であるため,申告しなかった場合,関税法違反の刑事罰を受けることになります。
そのため,金塊を密輸すると,①関税法違反,②消費税法違反,③地方税法違反の犯罪が成立します。

金塊の密輸が犯罪になる法律上の根拠は,以下の条文です。

関税法111条1項1号
「1 次の各号のいずれかに該当する者は、五年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。ただし、当該犯罪に係る貨物の価格の五倍が千万円を超えるときは、罰金は、当該価格の五倍以下とする。
一第六十七条(輸出又は輸入の許可)(第七十五条(外国貨物の積戻し)において準用する場合を含む。次号及び次項において同じ。)の許可を受けるべき貨物について当該許可を受けないで当該貨物を輸出(本邦から外国に向けて行う外国貨物(仮に陸揚げされた貨物を除く。)の積戻しを含む。次号及び次項において同じ。)し、又は輸入した者」

消費税法64条1項1号
「1 次の各号のいずれかに該当する場合には、その違反行為をした者は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一偽りその他不正の行為により、消費税を免れ、又は保税地域から引き取られる課税貨物に対する消費税を免れようとしたとき。」

地方税法79条の109第1項
「偽りその他不正の行為により貨物割の全部又は一部を免れ、又は免れようとしたときは、その違反行為をした者は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。」

このような犯罪が成立することから,金塊の密輸の量刑は,①密輸した金塊の量,②密輸した金塊の金額,③隠匿の方法によって主に決まります。
①について,密輸した金塊の量が多ければ多いほど量刑は重く見られます。
②について,密輸した金塊の金額が多ければ多いほど量刑は重くなります。
③について,密輸の仕方が巧妙であれば巧妙であるほど量刑は重くなります。
今回のAさんの事件について検討しますと,Aさんは,1キロの金塊を密輸しており,その金額も1000万円相当の金塊を輸入しています。また,隠匿の方法も,通常は中身を見ないと考えられるノートパソコンに隠していることから,巧妙な手段を用いて金塊を密輸しているということが言えます。

なお,事実関係を認めていない事件(無罪を主張する事件)の場合,Aさんのような密輸に関する事件だと,金塊が隠されているという認識の有無が問題となります。
Aさんの事件のように1キロの金塊の密輸である場合,執行猶予付きの有罪判決と併せて,罰金刑が付くことが予想されます。
具体的な量刑としては,懲役としては,2年以下の懲役で5年程度の執行猶予,罰金額としては,100万円以下となることが予想されます。

(2)退去強制となるのか

退去強制事由については,入管法24条に規定があります。
今回のような関税法違反が問題になる事件では,入管法24条4号リに該当する事由があるかどうかが問題となります。
この規定によると,1年を超える実刑判決を受けた場合に退去強制となることが規定されています。
今回のAさんのように前科も無く,執行猶予判決が予想される場合,退去強制となると考えるのは難しいです。
しかし,Aさんの事例とは異なり,金塊の密輸の量が100キロを超えるような悪質で重大な事件になると,実刑判決となる可能性も出てきます。そのため,量次第とは言え,金塊の密輸で退去強制となることがあります。

(3)弁護活動として出来ること

今回のAさんの事件については,このような事件であることから,方針としては①執行猶予付きの有罪判決を目指すこと,②故意が無いとして無罪を目指すことが考えられます。

①のように,執行猶予付きの有罪判決を目指す場合,密輸した金塊の量や密輸した金塊の金額が比較的大量でないことを主張することによって執行猶予付きの有罪判決を目指していくことになります。
②のように,無罪を目指す場合,金塊がノートパソコンに隠匿されることになった経緯や,隠匿をAさんが行ったのか,組織的な背景が無いかなどについて弁護士から主張し,Aさんの知らない間に金塊がノートパソコンに隠匿されるようになったと主張することになります。

このように主張していくことから,迅速に弁護士に依頼して,事件を起こした人にとって不利にならないよう活動していくことになります。

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定住者が傷害事件を起こして在留資格の更新ができるか

2024-09-17

Aさんは、20年前、B国から日本に来ました。
Aさんの祖父が日本国籍を持っていたため、Aさんは日本で仕事をしようと考えました。
Aさんは、日系三世に当たるため、「定住者」の在留資格で入国し、仕事をしていました。

ある日、Aさんは仕事上のトラブルから、同僚を殴り、けがをさせ、逮捕されてしまいました。

このとき
①Aさんが受ける刑事罰はどのようなものになるか
②①の刑事罰によりAさんは在留期間の更新ができるか
以上の点について解説していきたいと思います。

⑴傷害罪の刑事罰

Aさんは、暴行を加え、人に対してけがをさせてしまいました。
このような場合には刑法第204条の傷害罪が成立します。なお、暴行を加えたものの、被害者がけがをしなかったような場合が暴行罪となります。
傷害罪の法定刑は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金です。
ただ、「けが」といってもその程度は様々です。
暴行を加え、結果として人を死亡させてしまったような場合には傷害致死罪というより重い罪が成立しますが、死亡するに至らない場合は傷害罪となります。
そのため、意識が戻らず、植物人間のような状態であったとしても傷害の罪に問われます。
反対にかすり傷くらいの極めて軽微なけがであったとしても、けがはけがですので傷害罪となります。
そのため、傷害事件を起こしてどのような刑事罰を受けるかは、被害者に生じたけがの重さが大きな考慮要素となります。
おおよその目安ですが、被害者が骨折以上のけがをしたような場合には、正式な裁判となり、懲役刑となる可能性が出てきます。
診断書上1ヶ月以内のけがであれば、罰金刑で済むということも十分考えられます。
今回のAさんの場合は、全治3週間のけがということですので、Aさんが初犯であれば罰金刑となるものと思われます。

⑵在留期間の更新

在留期間の更新は「更新を適当と認めるに足りる相当の理由があるとき」(出入国管理及び難民認定法21条2項)に認められますが、この認定にあたっては、出入国在留管理庁によるガイドラインがあります。
 このガイドラインによると、在留期間の更新が許可されるのは
1 行おうとする活動が申請に係る入管法別表に掲げる在留資格に該当すること
2 法務省令で定める上陸許可基準等に適合していること(別表第1の2の表又は第4の表に掲げる在留資格の下欄に掲げる活動を行おうとする者)
3 現に有する在留資格に応じた活動を行っていたこと
4 素行が不良でないこと
5 独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること
6 雇用。動労条件が適正であること
7 納税義務を履行していること
8 入管法に定める届出等の義務を履行していること
とされています。
 このうち4の部分には「素行については,善良であることが前提となり,良好でない場合には消極的な要素として評価され,具体的には,退去強制事由に準ずるような刑事処分を受けた行為,不法就労をあっせんするなど出入国在留管理行政上看過することのできない行為を行った場合は,素行が不良であると判断されることとなります。」との記載がなされています。
まず、「定住者」の在留資格は、入管法上別表第2の表に記載がある在留資格です。
そのため、法務省令に定める上陸許可基準等の問題は生じません。
今回の場合、ガイドラインに記載されている「素行が不良でないこと」が問題となります。そして、「退去強制事由に準ずるような刑事処分を受けた」場合には素行不良であると判断されることになるため、退去強制事由に準ずるような刑事処分であるかどうかを検討していくことになります。
それでは刑罰法令違反が退去強制事由となるかどうかを考えていきます。別表第2の在留資格の場合、入管法等在留関係の法律以外の刑罰法令が問題となる退去強制事由には、入管法24条4号リがあります。

入管法24条4号リは、「無期又は一年を超える懲役若しくは禁錮に処せられた者。ただし、刑の全部の執行猶予の言渡しを受けた者及び刑の一部の執行猶予の言渡しを受けた者であつてその刑のうち執行が猶予されなかつた部分の期間が一年以下のものを除く。」とするものです。この4号リで問題とされるのは、仮に禁錮であっても実刑となった者、つまり執行猶予付きの判決を受けた場合は除かれています。傷害罪で実刑の判決となるのは余程被害が大きい(被害者が植物人間となるなど)場合がほとんどですので、今回はこれには該当しません。
次に、Aさんの処分が退去強制事由に「準ずる」刑事処分とまで評価されることがあるかどうかが問題となります。この点について、定住者告示3号等に該当する者の素行要件についての審査要領では「日本国又は日本国以外の国の法令に違反して、懲役、禁錮若しくは罰金又はこれらに相当する刑(道路交通法違反による罰金又はこれに相当する刑を除く。以下同じ。)に処せられたことがある者(以下略)」とされています。
かっこ書きで除外されているのは「道路交通法違反による罰金又はこれに相当する刑」となっており、窓外は明示的に挙げられていません。ただ、交通事故のような過失により人にけがをさせた事案と比べて、傷害罪は故意にけがをさせる罪ですから、より慎重な判断がなされると思われます。

そのため、傷害罪で素行善良要件を満たすかどうかについては明確に決まりません。起訴猶予処分であれば問題にならない可能性が高まる一方、罰金や禁錮刑となった場合には素行善良要件を満たさないと判断されるケースもあります。
だからといってこの事件のことを秘して在留期間更新申請を行うことはできませんので、入管当局に正直に説明し、再犯をしないこと等の誓約を行い在留許可の更新を求める方がよいと思われます。
なお,定住者の方の在留期間更新について,法務省HPにも手続き等が記載されています。

さて、先述の通り、傷害罪で刑事罰を受けてしまうと、退去強制とならなくても、在留資格の更新ができず、日本国内に留まれない可能性があることを指摘しました。
このような場合、何とか日本国内に留まりたいというようなときは、被害者との示談が重要です。
検察庁は、全ての刑事事件について起訴をし、刑事処分を求めるのではなく、被害者の意向等の事情を踏まえ、一定の事件を起訴猶予(不起訴)としています。
最終的な処分を決定する際、被害者の方がどの程度処罰意向を持っておられるか、被害回復がなされたかどうかは大きな考慮要素となります。
出来る限り刑事処分を軽減するためにも、被害者の方との示談交渉は不可欠です。

傷害事件を起こしてしまった外国人の方やそのご家族で,期間の更新についてお困りの方・ご不安な方は是非専門家にご相談ください。
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