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交通事故による前科が永住許可申請に影響を与えるか

2025-04-08

事例

日本人の配偶者という在留資格で日本に滞在しているAさんは、買い物の途中、交通事故を起こしてしまいました。
幸い、被害者の方のけがはそれほど重くないようです。

以上を前提として
①Aさんが受ける刑事罰はどのようなものになるか
②①の刑事罰によってAさんが永住権の申請をした際に問題にならないか
以上の点について解説していきたいと思います。

⑴過失運転致傷罪の刑事罰

車で交通事故を起こしたことにより、乗員(これはぶつかられた車の乗員だけではなく、ぶつかった、つまり自分が運転している車の乗員も含みます)や歩行者等に怪我をさせてしまったような場合には、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律5条の過失運転致傷罪が成立します。
なお、事故を起こしてしまったのに現場から逃走したような場合にはより重いひき逃げの罪が成立しますし、お酒を飲んで事故を起こしたような場合には
危険運転致傷罪というより重い罪が成立する場合もあります。
Aさんの話に戻すと、不注意という過失により交通事故を起こし、怪我をさせてしまったAさんにはどのような刑罰が与えられるのでしょうか。
法律上定められている法定刑は「七年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する(以下略)」とされています。

一般的に交通事故の場合には①相手の方の怪我の程度②事故を起こした側の過失の程度③被害者の側の過失の程度④運転者の属性などを考慮して処分が決められています。
①については、、怪我の程度が重ければ重いほど、後遺症が残ればその影響が大きいほど罪が重くなります。
②については、飲酒や赤信号無視、スピード違反等、それ自体が犯罪になるようなで行為がきっかけで事故を起こしたような場合には罪が重くなります
③については、被害者が赤信号を無視している場合や、道路上で寝ている場合、横断禁止道路を横断している場合などに、運転者の罪が軽くなります。
④については、タクシーやバスの運転手、トラックドライバーなど職業として運転をしている方は、罪が重くなる傾向にあります。

Aさんの事故について考えると、Aさんは特に仕事などで運転していませんし、わき見というそれ自体が犯罪になるようなものではないことが原因で事故を起こしていますから、特に刑を重くすべき事情はありません。

反対に、被害者の方も、信号待ちをしていただけですから、被害者には過失がなく、Aさんの罪を軽くする理由もありません。
そのため、Aさんの処分は①の怪我の程度によっておおよその処分が決まってくると考えられます。

これについて明確に決まりがあるわけではありませんが、全治3日や1週間程度の怪我であれば起訴猶予処分(刑事罰を受けない)、全治3週間~1ヶ月以内程度であれば罰金、1ヶ月を越えるような重い怪我等であれば裁判を受け禁錮刑(ただし執行猶予付き)となることが予想されます。

事件別-交通違反・交通事故

参考 交通事故に対する弁護活動

⑵永住権を取得する際に影響が出るか

現在Aさんは「日本人の配偶者」という資格で在留しています。
この後、Aさんが「永住者」資格へ資格の変更を考えるとした場合、今回の罰金前科は何らかの影響が出るのでしょうか。
永住者については、入管法22条に定めがあり、要件は
①各号のいずれにも適合すること
 1号 素行が善良であること
 2号 独立の生計を営むに足りる技能を有すること
②その者の永住が日本国の利益に合すること
とされています。

永住者ビザ(永住許可)

しかし、「その者が日本人、永住許可を受けている者又は特別永住者の配偶者又は子である場合においては、次の各号に適合することを要しない」(入管法22条2項但書)とされています。このような場合には、上記の要件のうち①の要件は不要ということになります。
今回のケースでAさんは「日本人の配偶者」ということですから、この但書が適用されることになります。よってAさんが永住者の在留資格を得られるかどうかは、この②の要件を満たすことができるかどうかということにかかっています。

では、この「日本国の利益に合すること」(国益適合要件)を満たすといえるのはどのような場合でしょうか。
この点について、入管の審査要領においては

a 原則として引き続き10年以上日本に在留し、この期間のうち技能実習等を除く就労資格又は別表第2の資格を以て直近において引き続き5年以上っ在留していること
b 公的義務(納税、入管法上の手続きなど)を適正に履行していることを含め、法令を遵守していること
c 現に有している在留資格について、規定されている最長の在留期間をもって在留していること(例外有)
d 公衆衛生上の観点から有害となるおそれがないこと
e 著しく公益を害するおそれがないと認められること
f 在留特別許可又は上陸特別許可を受けた者の場合には一定の条件を満たすこと
g 原則として公共の負担となっていないこと

をポイントに審査されてることとなっています。
今回、刑罰を受けている場合には、eの要素が問題となります。
「日本国の法令に違反して、懲役・禁錮若しくは罰金に処せられたことがあること」は、eの要件を満たさない可能性が高いと言えます。但し、罰金については「その執行を終わり(中略)5年を経過し(中略)たときは、これに該当しない者」と考えられます(刑法34条の2)。
Aさんは日本人の配偶者であるため、「素行善良」の要件は問題となりません。しかし、国益適合要件は問題となりますので、前科の有無はこの場面で問題となります。
ただ、このeの要素を考慮する際には、罰金刑があるからといって一律に永住権を付与しないわけではなく、罰金刑を受けた原因やその金額などによって判断をされる傾向にあるようです。

今回のような交通事故の場合には、これがあるだけで直ちに永住権が付与されないと言われるまでのものとは考えられませんが、他の要素の兼ね合いで不許可となることも想定されます。
仮に永住申請が不許可となってしまった場合には、刑法34条の2に従い、罰金を納付した日から5年を経過したタイミングで、再び永住申請をしていただく必要があります。

以上,交通事故が永住申請に与える影響について解説をしました。

具体的な申請についてお困りの方は,こちらからご相談ください。

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技能実習生が死体遺棄事件を起こしてしまった場合

2025-04-01

【事例】
Aさんは技能実習生として,日本に在留する外国人です。
Aさんは。Bさんと知り合い,恋愛関係になったことから,Bさんとの間の子Cを妊娠しました。
しかし,Aさんは,技能実習生の友人から妊娠したり,出産すると解雇され,日本にいられなくなると聞かされたため,適切な産婦人科などへの通院をせず,結果的に死産をしてしまいました。
Aさんは死産しても,雇用先に報告せず,家の床下に3か月隠し続けました。
しかし,床下から,異臭がしていたことから,知り合いにCの死体を発見され,警察に通報され,Aさんは逮捕されました。
このような場合に,①どのような刑事処分を受けるか,②退去強制処分になるかについて解説していきます。

(1)どのような刑事処分を受けるのかについて

死産した後,胎児の遺体を放置し続けると,刑法190条の死体遺棄罪が成立します。
確かに,最高裁令和5年3月24日判決のように,約1日と9時間死産した遺体を段ボールに入れ,ガムテープで封をした事件について死体遺棄罪の成立を認めなかった事例はありますが,この事件は,①適切に葬らなかった時間が1日と9時間と短時間であること,②死体の梱包及び設置の状況に照らすと,死体の埋葬と相いれない行為を行っているということができないとして,無罪となっています。そのため,長時間埋葬しないことや死体を土に埋めるなどの死体の埋葬と相いれない行為については,死体遺棄罪が成立することになります。

報道:死体遺棄罪に問われた技能実習生に対して最高裁判所が無罪判決を言い渡した事案

死体遺棄罪で逮捕 執行猶予を目指す弁護活動

参考 死体遺棄罪で逮捕された場合の弁護活動について

今回のAさんの事件については,床下に3か月隠し続けており,適切に埋葬する意思が無いと推認されてしまうことから,死体遺棄罪が成立することになります。

このような,死体遺棄罪の量刑傾向については,多くの事件が殺人後の死体遺棄であったりする関係から,死体遺棄罪単独の量刑傾向を調べることは難しいのですが,①遺棄した死体の人数,②死体遺棄を続けていた期間,③バラバラ死体にするなど,死者に対する社会の宗教感情を害する程度が大きくないかなどによって判断されます。
①については,遺棄した死体の数が多ければ多いほど重く見られます。
②については,息を続けていた期間が長ければ長いほど重く見られます。
③については,バラバラ死体にするなどの事情があれば,重く見られます。
量刑傾向としては,死体遺棄罪単独であれば,執行猶予付きの有罪判決となる例が多いです。
しかし,殺人を行っているなどの事情がある場合や,バラバラ死体にして長期間死体を発見させないようにしていたなどの事情がある場合,実刑になる可能性があります。
今回のようなAさんのような事件の場合,遺棄した死体も1人分で,床下に遺棄し続けていた期間も3か月であり,バラバラ死体にするなどもしていないことから,概ね執行猶予付きの有罪判決となることが予想されます。

(2)退去強制になるかについて

技能実習生が妊娠,出産したという理由で退去強制になったり,職場から解雇されることはありません。
このことについては,出入国在留管理庁がホームページで公開しています。また,技能実習生が妊娠,出産したという事情で解雇した場合には職場が行政処分の対象になり得ることがかかれています。
そのため,入管法上の退去強制処分になるのかということが重要になります。
入管法24条4号の2には,永住等以外の在留資格について,一定の犯罪の場合で執行猶予付きであれ懲役刑を受けた場合には,退去強制処分になることが規定されていますが,入管法24条4号の2には,死体遺棄罪が含まれていません。
次に,入管法24条4号リの規定によれば,懲役1年以上の実刑判決を受けた場合に退去強制となる規定が問題となります。
そのため,死体遺棄罪によって,1年以上の実刑判決になった場合に入管法24条4号リの規定に基づいて退去強制処分となり得るということが言えます。
今回のAさんの事件ですと,執行猶予付きの有罪判決が予想されることから,この入管法24条4号リの規定に基づいて退去強制処分になることは考えにくいです。

(3)弁護士として出来ること

このような処分が予想されることから,弁護士としては,①死体遺棄罪のみであり,他の犯罪は成立しないことを主張して,殺人罪などの他の犯罪について不起訴とするように活動すること,②殺人罪が成立しないことなどから,死体遺棄罪の事件であり,執行猶予付きの有罪判決を求める活動をしていくことになります。
特に,死体遺棄罪に該当する事件を起こした場合,同時に殺人罪や保護責任者遺棄致死罪などの重い罪を疑われ,裁判員裁判などの重大な手続を経て判決が出る関係から,弁護士をつけることが大事になります。
そのため,死体遺棄罪に該当する事件に関わることになった場合には,迅速に弁護士に依頼することをお勧めします。

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外国籍少年が交通事故を起こしてしまった場合

2025-03-25

Aさんの息子は、家族滞在の資格で日本に滞在し、現在高校2年生です。お子さんは、バイク通学中、歩行者との間で交通事故を起こしてしまいました。
すぐに119番をし、救急搬送されたのですが、幸い被害者の方は全治1週間程度の軽いけがとのことでした。
このことで息子さんは何度か取り調べを受けています。

以上を前提として,

①息子さんが受ける手続きはどのようなものになるか
②①によって退去強制となることがあるか

以上の点について解説していきたいと思います。

⑴少年事件手続き

日本の刑事手続きにおいては、まずは20歳以上と20歳未満でその手続きが区別されます。
20歳以上は大人の手続きとなり罰を受けるのに対し、20歳未満の場合にはいったん少年手続きに進みます。
20歳未満の人が刑事事件を起こした場合には、全ての事件が家庭裁判所に送られることになっています。
この家庭裁判所の手続きでは、18歳、19歳の「特定少年」と、18歳未満の少年で再び区別されることになっています
特定少年でも、それ以外の少年でも、家庭裁判所で「検察官送致決定」というものを受けると、大人と同じ手続きに戻り、刑事罰を受けることになります。
これに対し、少年院送致、保護観察、児童自立支援施設送致、不処分等の決定は、いずれも刑事罰ではなく少年特有の保護処分という扱いとなります。

未成年者と交通違反・交通事故

参考 少年事件と交通事故について

今回の息子さんの場合、高校2年生の年齢であれば、通常通り家庭裁判所に事件が送致されます。また、特定少年ではないと予想されるため、おそらく保護処分となることが予想されますが、
その程度は、これまでの前歴や、家庭環境、補導歴といった、事件以外の要素も考慮して決定されることとなっています。
交通事故の場合、18,19歳等であれば検察官送致されることも珍しくありません。
それは、「過失」という態様が、少年特有の問題を有していないケースが多いからです。
ただ、それ以下の年齢の場合や、過失の態様の中で要保護性をうかがわせるような事情がある場合には、通常通り,保護処分となると思われます。

⑵退去強制となるか

それでは、家庭裁判所の処分により退去強制となるかについて検討します。
入管法で、少年の退去強制事由を定めているのは、24条4号のトです。
同号は「少年法(昭和二十三年法律第百六十八号)に規定する少年で昭和二十六年十一月一日以後に長期三年を超える懲役又は禁錮に処せられたもの」と定められています。
長期3年を超える場合、執行猶予付きの判決とすることができませんので、3年を超える実刑判決を受けた場合ということになります。大人の場合には、1年以上の実刑(同号リ)で退去強制となるとされていることから比べると少年の方が退去強制とするための要件が厳しいと言えます。
いずれにしても、保護処分の場合、刑事罰ではありませんから、仮に3年以上少年院送致をされるようなことがあったとしても、これは退去強制事由には当たらないということになります。
ですので、この方の事件の場合には、退去強制となることは通常考えられないと判断してよいように思われます。
しかし、18歳や19歳でより悪質な態様で事故を起こし、被害者を死亡させてしまった場合には、危険運転致死罪が適用され、3年を超える実刑判決となる可能性があります。
ですので、交通事故だからといってすべての場合で退去強制とならないというわけではありません。

⑶弁護活動

交通事故は、大人であってもなんらかの刑罰が科される可能性のある犯罪です。また、事故に付随して他の違反(無免許や飲酒)があればより重い処分となります。
被害者への被害弁償はもちろん必要ですが、それだけではなく将来の在留資格更新を行ったり、お子さんの更生のためにも、専門の弁護士にご依頼ください。

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技人国の在留資格の外国人が偽装結婚をしてしまった場合

2025-03-18

【事例】
Aさんは「技術・人文知識・国際業務」の在留資格で日本に在留している外国人です。
Aさんは日本で働いていたところ,日本での仕事を続けたいと思うようになり,何とかして在留資格を延長できないかと思うようになりました。そこで,在留資格を伸ばしたい外国人と独身の日本人とを在留期間延長のために一時的に結婚させるサービスを提供する会社甲を通じて,偽装結婚をすることを思いつくようになりました。
甲社に登録したところ,日本人のBさんを紹介され,Bさんと結婚する気が無いにもかかわらず,交際期間0日で,Bさんと会うことも無く,Bさんとの婚姻届けを役所に提出しました。Bさんと結婚した後は特に,Bさんと同居しているなどはしていませんでしたが,Bさんと結婚していることを理由として,在留資格を日本人配偶者とするよう変更を申請しました。しかし,AさんはBさんとの関係などについてうまく答えられなかったことから,偽装結婚が疑われ,調べたところ,偽装結婚であることが判明したため,Aさんは逮捕されてしまいました。

このような事件の場合,①どのような刑事処分を受けるのか,②退去強制処分となるのかについて解説していきます。

(1)偽装結婚を行った場合の刑事罰

偽装結婚を行い,婚姻届けを役所に提出し,受理された場合には,刑法157条1項の公正証書原本不実記載罪が問題となります。
公正証書原本不実記載罪は,「公務員に対し虚偽の申し立てをして,登記簿,戸籍簿その他の権利若しくは義務に関する公正証書の原本に不実の記載をさせ,又は権利若しくは義務に関する公正証書の原本として用いられる電磁的記録に不実の記載をさせた」場合に成立するとされます。偽装結婚というのは,役所の職員に対して,婚姻届を提出し,戸籍簿に結婚の事実を記載させるため,この公正証書原本不実記載罪に当たる罪になるとされます。
また,この偽装結婚の結果できた戸籍を示して在留資格の変更の申し立てをした場合,内容虚偽の公文書を誰かに見せることになるので,虚偽の公文書を「行使」したといえ,刑法158条1項の虚偽公文書行使罪も問題になります。
この公正証書原本不実記載罪と虚偽公文書行使罪の法定刑については,どちらも5年以下の懲役又は50万円以下の罰金が予定されています。
これら罪で有罪になった場合,量刑相場はだいたい決まっており,前科のない外国人であったとしても執行猶予付きの懲役刑の有罪判決となることが予想されます。そのため,今回のAさんについても執行猶予付きの懲役刑の有罪判決を受けることが予想されます。

偽装結婚の事案に対する解決事例

【解決事例】偽装結婚の幇助で逮捕 不起訴処分を獲得した事例

 

(2)退去強制事由となるか

技人国の在留資格の外国人が偽装結婚を行い,公正証書原本不実記載罪と虚偽公文書行使罪に当たる行為を行った場合には,退去強制事由になります。
このことは,入管法24条4号の2に根拠規定があります。入管法24条4号の2によれば,技人国などの在留資格で日本に在留する外国人が刑法第17章の公文書偽造関係の罪で有罪となり,懲役刑の判決を受けた場合(執行猶予付きの有罪判決を含む)には退去強制事由となることが規定されています。
そのため,今回のAさんのように偽装結婚を行い,執行猶予付きの懲役刑となった場合には,退去強制処分を受ける可能性があります。

また,刑事罰を受けなかったとして偽装結婚を利用して日本人配偶者のビザを取得した場合,「偽りの方法」によって査証(ビザ)等を受けたことになり,それ自体が退去強制事由となってしまいます。

(3)弁護士として何ができるのか

このような処分が予想されることから,弁護士としては,①(本当は結婚する気が合った等の事情がある場合,)結婚する気があったため,虚偽の申し立てではないということを主張して,不起訴や無罪を目指すことや,②特別在留許可の申し立てを行うなどして,日本に在留できるよう働きかけることが考えられます。
特に①のように,刑事事件で争っていくというような事情がある場合,どのように否認するのか,どのように取調べに対応するのかが重要になってきますので,迅速に弁護士に相談することをお勧めします。

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興行資格の外国人が薬物密輸で逮捕されてしまった場合

2025-03-11

【事例】
Aさんは,マラソンの国際大会のために,興行の資格を持つ外国人です。

「興行」ビザの解説はこちらをご覧ください。

興行

Aさんは,日本に入国する前,「安価で航空券」というサイトで航空券が販売されていたことから,そのサイトで航空券を買いました。日本行の飛行機の出る空港についたところ,「このスーツケースを使って日本に行くように」と言われ,渡されたスーツケースに荷物を入れ替え,日本に向けて出発しました。日本に到着したところ,空港職員に呼び止められ,日本に入国すること無く逮捕されてしまいました。
実は,渡されたスーツケースの底には,1キロの覚醒剤が隠されており,Aさんは覚醒剤の密輸をしたと疑われていました。
このような場合に,①どのような刑事処分を受けるのか,②退去強制処分を受けるのかについて解説していきます。

(1)覚せい剤取締法違反の刑事処分について

覚醒剤を国外から輸入した場合,覚醒剤取締法違反と,関税法違反が問題となります。
覚醒剤取締法違反については,覚醒剤取締法41条1項又は2項の覚醒剤の輸入罪が問題になります。覚せい剤の輸入罪については,営利目的輸入罪と単純輸入罪とがあります。
覚醒剤取締法41条1項によれば,覚醒剤の単純輸入については,1年以上の懲役刑が予定されており,同条2項によれば,覚醒剤の営利目的輸入については,無期若しくは3年以上の懲役刑が予定されています。そのため,覚醒剤の営利目的輸入罪が問題になるということであれば,裁判員裁判の手続によって審理が行われます(裁判員法2条1項1号)。営利目的輸入罪であるか単純輸入罪であるかどうかは,販売する目的があるのか,輸入された覚せい剤の量はどのくらいかなどの事情を考慮して判断されます。
関税法違反については,関税法109条の罪が問題になります。この規定によれば,69条の11第1項1号から6号までに掲げる貨物を輸入した場合に犯罪が成立するとされ,関税法69条の11第1項1号によれば,覚醒剤が輸入が禁止される物品として規定されています。関税法違反については,10年以下の懲役若しくは3000万円以下の罰金が予定されています。

これらの犯罪が成立することが問題となりますが,これらの犯罪の量刑は,①密輸した覚せい剤の量,②隠匿の方法,③密輸に関する役割などによって決まります。

①については,密輸した覚せい剤の量が多ければ多いほど,重く見られます。特に,量が多いと営利目的であると考えられ,より重い類型の罪の問題にもなります。
②については,隠匿の方法が巧妙だと考えられると,重く見られます。
③については,密輸に関して首謀者的立場にあると考えられる場合には,重く見られます。

今回のAさんの事例については,1キロの覚醒剤を持ち込んでいることから,営利目的輸入罪という重い類型の犯罪の問題になります。また,隠匿の方法も,スーツケースの底に隠すことによって行われているため,巧妙な方法であると判断される可能性があります。一方,首謀者的立場にあるような人ではないと考えられるため,従属的立場にあるとして重くは見られない事情もあります。
そのため,Aさんのような事件については,裁判員裁判で審理され,有罪となった場合,ほとんどの場合,6年から10年の実刑になってしまうと考えられます。
なお,仮に輸入された覚せい剤の量がさらに多く100キロ以上になってくると,10年から20年程度の実刑,場合によっては無期懲役刑となるということもあります。

(2)退去強制事由となるのか

退去強制事由となるかについては,入管法24条4号チに規定があります。この規定によれば,覚醒剤取締法違反によって有罪判決を受けた場合には退去強制事由となることが規定されています。
そのため,覚醒剤を輸入し,有罪となってしまった場合,退去強制となることが予想されます。

(3)弁護士として出来ること

このような処分になることが予想されることから,弁護士としては,①覚醒剤の輸入の故意を争い,無罪を目指すこと,②退去強制とならないように在留特別許可の申請などを行うことができます。
今回の【事例】のような事件の場合,特に,①の場面で覚せい剤入りのスーツケースを日本に持ち込むことになった経緯,覚せい剤入りのスーツケースについて怪しいと思うようになった事情,どのように覚せい剤入りのスーツケースが他人にわたるのかということを認識していたか否かなどの事情からAさんはスーツケースに覚せい剤が入っていたことを知らなかったため,無罪であると主張することになります。
このように,無罪か実刑かを争う事件になるうえ,裁判員裁判で争うことになるため,迅速に弁護士をつけて,無罪となるよう活動していくことが求められます。
そのため,このような事件に巻き込まれた場合には,迅速に弁護士に相談することをお勧めします。

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永住者が性的姿態等撮影罪(盗撮)をしてしまった場合

2025-03-04

【事例】

Aさんは,永住者の資格で日本に在留している外国人です。
Aさんは,数年前から週に一回くらいの頻度で女子高校生のスカートの中をスマートフォンで盗撮し,撮影した画像を自宅のパソコンの「昆虫図鑑」という名前のフォルダに保管,保存していました。
ある日,これまでと同様に無音カメラアプリを使ってスカートの中にスマートフォンを差し入れ,撮影したところ,自分の背後にいた男性に見つかり,逮捕されてしまいました。
なお,Aさんに前科はありません。

このような場合に,①どのような刑事処分になるのか,②退去強制処分になってしまうのかについて解説していきます。

(1)性的姿態等撮影罪の刑事罰

性的姿態等撮影罪というのは,性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の映像に係る電磁的記録の消去等に関する法律2条1項各号に規定される罪で,簡単に言えば盗撮行為を取り締まる法律です。

これまで盗撮に対しては各都道府県の条例が適用されるのみでしたが,法改正によって「盗撮罪」が法律として規定されました。

この規定によれば,盗撮行為を行った場合には3年以下の懲役又は300万円以下の罰金が予定されています。
このような犯罪が成立した場合の量刑については,①何回同様の行為を行ったのか,②どのような手段で盗撮を行ったのか,③前科があるか,④示談はしたのかなどによって判断されます。
①については,同様の行為を行った回数が多いほど,重く見られます。
②については,靴の中に小型カメラを隠し,盗撮するなど巧妙な手段であれば,重く見られます。
③については,同種の前科があれば,重く見られます。
④については,示談が成立する場合,被疑者に有利に見られます。
今回のAさんの事例の場合,同様の行為を行っていることが不利な事情になります。しかし,前科が無いこと,巧妙な手段によるものではないという不利にはならない事情があります。
そのため,今回のAさんの事件については,罰金刑を受ける可能性が高い事件であるということが言えます。
また,示談をするということも考えられますが,起訴前に示談が成立した場合,不起訴処分となる可能性があります。

(2)退去強制になるのか

Aさんは永住者であることから,入管法24条4号リに基づき,懲役1年を超える実刑判決を受けた場合でなければ退去強制処分になることはありません。
そのため,今回の前科のないAさんが退去強制処分を受けることは考えにくいです。
しかし,刑事処分を受けた後も繰り返し盗撮を行うと,実刑判決を受けることが考えられます。

盗撮と前科①

(3)弁護士として出来ること

このような刑事処分を受けることから,弁護士としては,①取調べの際には他の画像について詳しいことを話さないことをアドバイスすること,②示談交渉を行い,不起訴処分を求めることが考えられます。
①というのは,取調べの際には覚えていないことを覚えていたというような形で話してしまい,より被疑者にとって不利益な判断をされる可能性があります。そのため,取調べのアドバイスとして,他の画像について詳しい子をと話さないようにすることが重要になります。

②というのは,起訴前に示談を成立させた場合,被害回復が済んでいることを理由として,不起訴処分となる可能性があります。この際の示談交渉を弁護士が行うということができます。示談交渉というのは,弁護士が介入した方がスムーズに進みますので,示談交渉をしたいということであれば,弁護士に依頼する方が良いと考えられます。
このように対応できることから,取調べに当たってのアドバイスを求めたい,示談をしてほしいということであれば,迅速に弁護士に依頼することをお勧めします。

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留学生が危険運転致傷事故を起こしてしまったら

2025-02-25

【事例】

Aさんは,「留学」の在留資格で,日本の大学に通っています。また,日本の大学の自動車サークルに加入しています。
Aさんは,自動車サークルのサークル説明会の際に,新入生Bさんを連れて,山道を自動車で走行していました。その際,山道の急カーブを高速でドリフトすることになっていたことから,左方向に曲がるきついカーブ(制限速度30キロ)に時速80キロで侵入し,ドリフト走行しようとしたところ,上手く曲がることができずに,自動車を木にぶつけてしまい,同乗していた新入生Bさんに全治6カ月の骨折をさせてしまいました。
このような事件を起こしたことから,Aさんは警察に逮捕されてしまいました。

以上を前提として,
①Aさんが受ける刑事罰はどのようなものか
②①の刑事罰によって,Aさんは退去強制処分を受けるか
以上の点について解説していきます。

(1)危険運転致傷罪の刑事罰

Aさんの事件については,自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律2条2号の危険運転致傷罪が成立するかどうかが問題となります。
その規定によれば,①その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させたこと,②それによって,人を負傷させたということが言えなければなりません。
一般に,「その進行を制御することが困難な高速度」と認められるかが問題になりますが,これは,制限速度や道路の状況(直進かカーブか乾いているか湿っているかなど),運転者の技能,ブレーキを踏んでいたかなどから判断されます。
そのため,制限速度を超えていたからといって簡単に危険運転と認められるわけではありません。
今回のAさんの事例の場合制限速度が30キロで,カーブもきついカーブであること,カーブに侵入した際の速度も50キロオーバーの時速80キロであることなどから,「その進行を制御することが困難な高速度」と認められる可能性があります。
これによって,Bさんを怪我させていることから,危険運転致傷罪が成立する可能性があります。

参考記事 危険運転致傷罪で逮捕された場合

危険運転致傷罪で逮捕

この場合の刑事罰ですが,自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律2条2号によれば,危険運転致傷罪については,15年以下の懲役刑が予定されています。
このような危険運転致傷罪の具体的な刑罰を決める際には,①被害者はどのようなけがをしたのか,②被害者の人数は何人か,③運転態様が悪質ではないか,④保険に加入していたかや,被害弁償を行ったかが量刑を決めるうえでの考慮要素になります。

①については,ケガが重ければ重いほど,重く見られます。
②については,被害者となる人数が多ければ多いほど,重く見られます。
③については,赤信号無視や制限速度違反の程度,はみだし運転など交通ルールに反していると考えられれば考えられるほど,重く見られます。
④については,被害弁償を行って居たり,保険に入っていれば有利な事情になります。

今回のAさんは,Bさんに全治6カ月のけがを与えていること,制限速度を50キロもオーバーしてカーブに入っていることが不利な事情として存在し,被害者が一人であることが有利な事情として存在します。また,Aさんが自動車保険に入っているかは不明ですが,入っていたり,被害弁償が済んでいれば有利な事情として見られます。
このような危険運転致傷罪の量刑傾向としては,執行猶予付きの有罪判決となるケースが多いです。よほど運転態様が悪質であったり,被害者が多数である場合に実刑が選択される可能性があります。
今回のAさんのようなケースでは,どちらかといえば執行猶予付きの有罪判決が選択されるような事件であると考えられます。

(2)退去強制となるのか

それでは,Aさんが,刑事処分を受けた場合に退去強制になるか解説します。
退去強制事由については入管法24条に定めがあります。ただ、Aさんは留学ですので、在留資格としては別表第1の資格となります。

同条4号の2には「別表第一の上欄の在留資格をもつて在留する者で、刑法第二編第十二章、第十六章から第十九章まで、第二十三章、第二十六章、第二十七章、第三十一章、第三十三章、第三十六章、第三十七章若しくは第三十九章の罪、暴力行為等処罰に関する法律第一条、第一条ノ二若しくは第一条ノ三(刑法第二百二十二条又は第二百六十一条に係る部分を除く。)の罪、盗犯等の防止及び処分に関する法律の罪、特殊開錠用具の所持の禁止等に関する法律第十五条若しくは第十六条の罪又は自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第二条若しくは第六条第一項の罪により懲役又は禁錮に処せられたもの」という定めがあり、この条文に該当する場合には仮に執行猶予判決であったとしても退去強制となります。

この中に,危険運転致傷罪が挙げられていることから,執行猶予付きの有罪判決となった場合でも退去強制処分を受ける可能性があります。
なお,自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律5条は掲げられていないことから,自動車運転過失致傷罪で執行猶予付きの有罪判決となったとしても,退去強制処分を受けることはありません。

(3)弁護活動

このような処分が予想されることから,弁護士としては,①危険運転致傷罪の成立を争い,過失運転致傷罪としてより軽い罪として認めてもらうか,②被害弁償等を行い,不起訴などにしてもらうよう活動することが考えられます。
①については,例えば,時速80キロでも自動車を制御することができたこと,運転に慣れていたため,事故を起こさずに進行できると考えたことを主張することが考えられます。このような主張をした場合,罪を軽くすることと,退去強制事由に該当しないということを主張することにもつながります。
また,②については,確かに,被害弁償を行って不起訴にするというのは可能性は低いかもしれませんが,不起訴になる可能性があり,不起訴になると,前科が付かず,退去強制事由になることもなく終わるかもしれないというメリットがあります。

どちらの手段を取るとしても,弁護士による迅速な対応が求められますので,このような危険運転致傷罪を疑われている場合には迅速に弁護士に相談されることをお勧めします。

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日本人の配偶者が傷害事件を起こしてしまった場合

2025-02-18

Aさんは、20年前、B国から日本に来ました。
そして日本国内で、日本国籍保有者と結婚し、それ以降日本人の配偶者資格で在留していました。

ある日、Aさんは仕事上のトラブルから、同僚を殴り、けがをさせ、逮捕されてしまいました。

このとき
①Aさんが受ける刑事罰はどのようなものになるか
②①の刑事罰により退去強制処分となるか

以上の点について解説していきたいと思います。

⑴傷害罪の刑事罰

Aさんは、暴行を加え、人に対してけがをさせてしまいました。
このような場合には刑法第204条の傷害罪が成立します。なお、暴行を加えたものの、被害者がけがをしなかったような場合が暴行罪となります。
傷害罪の法定刑は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金です。
ただ、「けが」といってもその程度は様々です。
暴行を加え、結果として人を死亡させてしまったような場合には傷害致死罪というより重い罪が成立しますが、死亡するに至らない場合は傷害罪となります。
そのため、意識が戻らず、植物人間のような状態であったとしても傷害の罪に問われます。
反対にかすり傷くらいの極めて軽微なけがであったとしても、けがはけがですので傷害罪となります。
そのため、傷害事件を起こしてどのような刑事罰を受けるかは、被害者に生じたけがの重さが大きな考慮要素となります。
おおよその目安ですが、被害者が骨折以上のけがをしたような場合には、正式な裁判となり、懲役刑となる可能性が出てきます。
診断書上1ヶ月以内のけがであれば、罰金刑で済むということも十分考えられます。
今回のAさんの場合は、全治3週間のけがということですので、Aさんが初犯であれば罰金刑となるものと思われます。

⑵退去強制となるのか

Aさんの在留資格は「日本人の配偶者等」となります。
「日本人の配偶者等」は、入管法で「別表第二」に定められた在留資格となっています。
定そのため、入管法24条4号の2の適用はありませんから、執行猶予により退去強制となるわけではありません。
しかし、別表第2に記載された資格であっても、入管法24条4号リの適用はありますから、無期又は1年以上の懲役(実刑判決)に処せられた場合には退去強制となります。
今回の場合には、余程重いけがをさせない限り、刑事事件の判決を理由として退去強制となる可能性は高くないと言えます。

⑶在留資格の更新

ただ、在留資格の更新時には、素行が善良であるかどうかを問われます。傷害の前科がある場合には、在留資格の更新が認められず、帰国することになる可能性があります。
在留資格の更新ができないまま日本に滞留し続けるとオーバーステイとなってしまい,強制送還の対象になります。

⑷弁護活動

さて、先述の通り、傷害罪で刑事罰を受けてしまうと、退去強制とならなくても、在留資格の更新ができず、日本国内に留まれない可能性があることを指摘しました。
このような場合、何とか日本国内に留まりたいというようなときは、被害者との示談が重要です。
検察庁は、全ての刑事事件について起訴をし、刑事処分を求めるのではなく、被害者の意向等の事情を踏まえ、一定の事件を起訴猶予(不起訴)としています。
最終的な処分を決定する際、被害者の方がどの程度処罰意向を持っておられるか、被害回復がなされたかどうかは大きな考慮要素となります。
出来る限り刑事処分を軽減するためにも、被害者の方との示談交渉は不可欠です。

ご不安なことがある方や刑事事件でお困りのことがある方,ビザや在留資格について心配な方は早期にご相談ください

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留学生が薬物事件で逮捕されてしまった場合

2025-02-11

事例

留学生のAさんは、同じ大学の留学生である友人から、ある日気分が良くなる薬を勧められました。
確かにその薬を使用すると、気分が落ち着くのですが、不安になったAさんが内容を尋ねると、いわゆる大麻であることが分かりました。
しかしその心地よさが忘れられなくなったAさんは、何度も大麻を使用し、ある日大麻を持って街を歩いているところを警察官に職務質問され、大麻取締法違反の罪で逮捕されてしまいました。

以上を前提として
①Aさんが受ける刑事罰はどのようなものになるか
②①の刑事罰によってAさんは退去強制となることがあるか
以上の点について解説していきたいと思います。

⑴大麻所持の刑事罰

Aさんは大麻を所持していました。日本では大麻所持は違法とされていますので、Aさんの行為は大麻取締法違反の大麻所持となります。
大麻所持の罰則は、麻薬及び向精神薬取締法66条に記載があり、「ジアセチルモルヒネ等以外の麻薬を、みだりに、製剤し、小分けし、譲り渡し、譲り受け、又は所持した者(第六十九条第四号若しくは第五号又は第七十条第五号に規定する違反行為をした者を除く。)は、七年以下の懲役に処する。」
とされています。
Aさん自身大麻を所持していた認識はありますので、犯罪が成立することに争いはありませんが、そのような場合、Aさんにどのような処分となるのかが問題となります。
大麻所持の場合、初犯であっても裁判となる可能性が高い類型の犯罪です。ただ、いきなり刑務所に行くのではなく、執行猶予付き判決となることが予想されます。
⑵はこれを前提として検討していくことにします。

⑵退去強制となるか

それでは、Aさんの刑事処分により退去強制となるかについて検討します。
退去強制事由については入管法24条に定めがあります。Aさんの在留資格は技術・人文知識・国際業務ですので、在留資格としては別表第1の資格となります。
同条4項チには「昭和二十六年十一月一日以後に麻薬及び向精神薬取締法、大麻取締法、あへん法、覚醒剤取締法、国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律(平成三年法律第九十四号)又は刑法第二編第十四章の規定に違反して有罪の判決を受けた者」という定めがあります。
要するに、薬物に関連する法律で有罪の判決を受けたものについては退去強制事由とするというものです。
まず、有罪の判決ですので、執行猶予付きであるかどうかは問われません。実刑判決でなくても退去強制事由となります。
また、今回は関係ありませんが、たとえ罰金刑であっても有罪の判決に変わりはありませんので退去強制事由となることと、別表第二の資格であっても退去強制事由となることにも注意が必要です。
ですので、このままではAさんは退去強制となりますので、在留特別許可を狙う必要性があります。

⑶弁護活動

既に述べた通り、本件では有罪の判決を受けてしまうと退去強制となってしまう可能性が極めて高いという事案です。
何とか退去強制を回避するためには2通りの方向性での弁護活動が考えられます。

①起訴猶予を目指す方向

大麻所持を認め、反省の意を示し、再犯防止の具体的な取り組みを行うなどして、何とか起訴猶予処分を得る方法が考えられます。
覚醒剤事件であればこの方向は相当困難ですが、大麻所持の場合には起訴猶予となることもないわけではないようです。ですので、検察官に働きかけを行い、
何とか処分を回避するということが考えられます。

②故意を否認する方向性

有罪となるためには、犯罪が成立しなければならないところですが、犯罪の成立のためには客観的に犯罪が成立しているだけではなく、犯人に「故意」が必要となります。
故意の内容については様々な見解があるところですが、今回のようなケースでいえば「自分が持っているものが何らかの違法薬物である」という認識が
あるかどうかというところになります。
所持に至る経緯や携帯電話の内容などを踏まえて検討されるところですが、故意を否認するためには何よりも黙秘を行うことが大切です。黙秘権を行使しせず何らかの供述をしてしまえば、
否認は困難になっていきます。

①②のいずれの活動を行うにも、初動が大切です。①の場合、再犯防止計画の策定には通常時間を要しますから、いち早く家族などの方に連絡を取れるように働きかけを行い、取り組みの準備をしていくことが必要となります。
②の場合、一番最初に作成される弁解録取書の内容がどのようなものになるかが大切です。最初に罪を認めてしまった場合、後からこれを覆すためには相当大変です。ですので、最初からきっちりと取調べへ対応し、不用意に供述したり調書を作成することの内容にする必要があります。

参考記事 薬物事件の弁護活動について

逮捕されてしまったら

退去強制を回避するためには、不起訴になることをまず考えなければいけません(なお、不起訴になったとしても在留資格の更新に影響が生じる場合があります)。

ですので、ご家族や知人が逮捕されてしまった場合には、速やかに経験のある弁護士に依頼をすることが必要です。

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偽造在留カードを所持・行使したらどうなるのか

2025-02-04

【事例】

Aさんは日本で働くために特定技能の在留資格で日本に滞在している外国人です。
在留期限が近くなり,もう少し日本にいたいと思ったことから,永住の在留カードを持てないかと思いました。そこで,在留カードを偽造できる友人に依頼し,永住の在留カードを作ってもらいました。
そのような在留カードを持っていたところ,次の職場で在留カードを見せることとなり,次の職場の雇用主に見せました。しかし,雇用主が在留カードに違和があることに気付き,雇用主が警察に通報しました。
なお,偽造カードであることを見抜かれたのは在留期間内であったため,オーバーステイとはなっていませんでした。
このような場合に,どのような①刑事処分を受けるのか,②退去強制処分を受けることになるのかについて解説します。

参考報道 偽造在留カード行使の疑い 40歳のインドネシア人を逮捕 NHK佐賀NewsWeb

(1)偽造在留カード所持・行使の刑事罰

偽造在留カードを所持していた場合の刑事罰を受ける根拠は,入管法73条の4に根拠があります。
入管法73条の4によれば,「行使の目的で,偽造又は変造の在留カードを所持した」場合に偽造在留カード所持罪が成立することが規定されており,5年以下の懲役又は50万円以下の罰金が予定されています。
偽造在留カードを誰かに見せた場合,偽造在留カード行使罪の問題になります。
偽造在留カード行使罪は,入管法73条の3第2項に根拠規定があります。
入管法73条の3第2項によれば,「偽造又は変造の在留カードを行使」した場合に成立するとされています。この「行使」というのは,簡単に言えば,誰かに見せることです。
偽造在留カード行使については,1年以上10年以下の懲役刑が予定されています。
偽造在留カード所持・行使については量刑相場がだいたい決まっており,大体懲役1年程度で執行猶予付きの判決が予定されています。

(2)退去強制事由になるか

偽造在留カードの所持・行使については,退去強制事由になります。
偽造在留カードの所持・行使を行った場合については,入管法24条3号の5イ,ハに規定があります。入管法24条3号の5イによれば,「行使の目的で、在留カード若しくは日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法第七条第一項に規定する特別永住者証明書(以下単に「特別永住者証明書」という。)を偽造し、若しくは変造し、又は偽造若しくは変造の在留カード若しくは特別永住者証明書を提供し、収受し、若しくは所持すること。」,入管法24条3号の5ハによれば,「偽造若しくは変造の在留カード若しくは特別永住者証明書又は他人名義の在留カード若しくは特別永住者証明書を行使すること。」が退去強制事由となることが規定されています。

(3)弁護人として何ができるか

このような処分が考えられることから,弁護士としては,①(知らずに偽造在留カードを持っていたという事情があれば)偽造在留カードと知らずに持っていたため,不起訴や無罪を求めること,②在留特別許可などによって日本に在留できるようにすることが考えられます。
特に①については,偽造在留カードを手に入れてしまった経緯,偽造在留カードであると気づかなかった理由などを主張して,偽造在留カード所持・行使の故意が無いと主張することになります。
このように,偽造在留カードを所持していた場合に犯罪が成立しなかったり,日本に残れる可能性がありますので,在留カードに関して事件を起こした場合には,弁護士に相談することをお勧めします。

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