【事例】
Aさんは,マラソンの国際大会のために,興行の資格を持つ外国人です。
「興行」ビザの解説はこちらをご覧ください。
Aさんは,日本に入国する前,「安価で航空券」というサイトで航空券が販売されていたことから,そのサイトで航空券を買いました。日本行の飛行機の出る空港についたところ,「このスーツケースを使って日本に行くように」と言われ,渡されたスーツケースに荷物を入れ替え,日本に向けて出発しました。日本に到着したところ,空港職員に呼び止められ,日本に入国すること無く逮捕されてしまいました。
実は,渡されたスーツケースの底には,1キロの覚醒剤が隠されており,Aさんは覚醒剤の密輸をしたと疑われていました。
このような場合に,①どのような刑事処分を受けるのか,②退去強制処分を受けるのかについて解説していきます。
このページの目次
(1)覚せい剤取締法違反の刑事処分について
覚醒剤を国外から輸入した場合,覚醒剤取締法違反と,関税法違反が問題となります。
覚醒剤取締法違反については,覚醒剤取締法41条1項又は2項の覚醒剤の輸入罪が問題になります。覚せい剤の輸入罪については,営利目的輸入罪と単純輸入罪とがあります。
覚醒剤取締法41条1項によれば,覚醒剤の単純輸入については,1年以上の懲役刑が予定されており,同条2項によれば,覚醒剤の営利目的輸入については,無期若しくは3年以上の懲役刑が予定されています。そのため,覚醒剤の営利目的輸入罪が問題になるということであれば,裁判員裁判の手続によって審理が行われます(裁判員法2条1項1号)。営利目的輸入罪であるか単純輸入罪であるかどうかは,販売する目的があるのか,輸入された覚せい剤の量はどのくらいかなどの事情を考慮して判断されます。
関税法違反については,関税法109条の罪が問題になります。この規定によれば,69条の11第1項1号から6号までに掲げる貨物を輸入した場合に犯罪が成立するとされ,関税法69条の11第1項1号によれば,覚醒剤が輸入が禁止される物品として規定されています。関税法違反については,10年以下の懲役若しくは3000万円以下の罰金が予定されています。
これらの犯罪が成立することが問題となりますが,これらの犯罪の量刑は,①密輸した覚せい剤の量,②隠匿の方法,③密輸に関する役割などによって決まります。
①については,密輸した覚せい剤の量が多ければ多いほど,重く見られます。特に,量が多いと営利目的であると考えられ,より重い類型の罪の問題にもなります。
②については,隠匿の方法が巧妙だと考えられると,重く見られます。
③については,密輸に関して首謀者的立場にあると考えられる場合には,重く見られます。
今回のAさんの事例については,1キロの覚醒剤を持ち込んでいることから,営利目的輸入罪という重い類型の犯罪の問題になります。また,隠匿の方法も,スーツケースの底に隠すことによって行われているため,巧妙な方法であると判断される可能性があります。一方,首謀者的立場にあるような人ではないと考えられるため,従属的立場にあるとして重くは見られない事情もあります。
そのため,Aさんのような事件については,裁判員裁判で審理され,有罪となった場合,ほとんどの場合,6年から10年の実刑になってしまうと考えられます。
なお,仮に輸入された覚せい剤の量がさらに多く100キロ以上になってくると,10年から20年程度の実刑,場合によっては無期懲役刑となるということもあります。
(2)退去強制事由となるのか
退去強制事由となるかについては,入管法24条4号チに規定があります。この規定によれば,覚醒剤取締法違反によって有罪判決を受けた場合には退去強制事由となることが規定されています。
そのため,覚醒剤を輸入し,有罪となってしまった場合,退去強制となることが予想されます。
(3)弁護士として出来ること
このような処分になることが予想されることから,弁護士としては,①覚醒剤の輸入の故意を争い,無罪を目指すこと,②退去強制とならないように在留特別許可の申請などを行うことができます。
今回の【事例】のような事件の場合,特に,①の場面で覚せい剤入りのスーツケースを日本に持ち込むことになった経緯,覚せい剤入りのスーツケースについて怪しいと思うようになった事情,どのように覚せい剤入りのスーツケースが他人にわたるのかということを認識していたか否かなどの事情からAさんはスーツケースに覚せい剤が入っていたことを知らなかったため,無罪であると主張することになります。
このように,無罪か実刑かを争う事件になるうえ,裁判員裁判で争うことになるため,迅速に弁護士をつけて,無罪となるよう活動していくことが求められます。
そのため,このような事件に巻き込まれた場合には,迅速に弁護士に相談することをお勧めします。
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