強盗致傷に至る万引き抵抗事案と永住者の在留への影響

強制送還

【想定事例】

仕事帰りの夜、30代の外国籍男性Aさんは、いつものように自宅近くのコンビニエンスストアに立ち寄りました。
Aさんは日本に長く暮らしており、「永住者」の在留資格を持っています。日本語での会話にも特に不自由はなく、日本での生活が日常になっていました。
その日、Aさんは飲み物や軽食を手に取りましたが、出来心で会計をせずにそのまま店を出てしまいます。金額にすれば千円程度の、いわゆる万引きです。
店の外に出たところで、異変に気付いた店員がAさんを呼び止めました。
「お客様、ちょっとお待ちください」
その瞬間、Aさんの頭をよぎったのは、「警察を呼ばれたらどうなるのだろう」「在留資格は大丈夫だろうか」という不安でした。
パニック状態の、Aさんはとっさに店員の手を振り払い、体を押して逃げようとしました。
すると、押された店員はバランスを崩して転倒し、腕や足を打ってけがをしてしまいました。
Aさんはそのまま現場を離れましたが、後日、防犯カメラの映像などから身元が判明し、警察の捜査を受けることになりました。

このような事件が起きると、本人だけでなく、ご家族も「このまま日本で生活を続けられるのか」という強い不安を抱きやすくなります。
しかし、事件後の初動対応を誤らず、刑事手続と入管手続の双方を見据えた動きを取ることで、処分内容や在留の結論が変わる余地は残されています。

なお、本記事は、あくまで一般的な判断の枠組みを整理したものであり、実際の結論は個別の事実関係や在留歴などによって変わり得ます。

刑事手続と入管手続は別の線路で進みます

外国人が犯罪で検挙された場合、退去強制事由に該当すると、刑事手続とは別に、行政手続として退去強制手続が進む可能性があります。
そのため、刑事事件で「不起訴」や「無罪」となった場合であっても、入管の側では、在留の可否(次回の更新・在留資格の変更・在留特別許可など)が別途問題となることがあります。
また、実務上は、刑事手続では釈放となった場合でも、その後、直ちに入管収容(収容令書・退去強制令書)へ切り替わるケースがあります。
「刑事で外に出られた=自宅に帰れる」とは限らない点には注意が必要です。

【刑事】逮捕 → 勾留 → 起訴/不起訴 → 起訴の場合:裁判 → 判決

【入管】違反調査<収容/監理> → 審査 → 口頭審理 → 違反認定/不認定 →
違反認定の場合:退去強制(送還) または 在留特別許可(在留継続)

退去強制の基本構造と刑罰の見方

万引き(窃盗)の直後に、「逮捕を免れる目的」などで暴行や脅迫を加えた場合、その行為は「事後強盗」(刑法238、236条)として評価され得ます。
さらに、その暴行によって店員が負傷した場合には、「強盗致傷」となり、無期または6年以上の拘禁刑が法定されています(刑法240条)。

一方、退去強制(いわゆる強制送還)は、一定の外国人を法律に基づき国外へ退去させる行政措置です。
退去強制事由は入管法24条に列挙されており、類型ごとに要件が異なります。全体像は、概ね次のように整理できます。

退去強制事由(入管法24条
├ 入管法違反型(不法入国・不法残留など)
├ 刑罰法令違反型(一定の刑に処せられた場合)
└ その他(売春関与、難民認定の取り消しなど)
→ 手続 → 退去強制令書 / 在留特別許可

刑罰法令違反に関する退去強制は、次の二つに分けると分かりやすいです。

第一に、在留資格を問わず適用され得る「無期または1年を超える拘禁刑」に関する類型です。実刑の場合ですので、執行猶予の場合は問題ありません。もっとも、薬物事犯の場合などは、例外的に、在留資格に関わらず「有罪」となった時点で(執行猶予だとしても)退去強制の対象となります。

第二に、一定の在留資格を持つ人(永住者は対象外です)について、窃盗や強盗などの一定の犯罪類型で「拘禁刑に処せられたもの」を退去強制事由とする類型です。これは、執行猶予の場合でも対象となってしまいます。

また、退去強制等で日本から出国した外国人で、「1年以上の拘禁刑に処せられたことのある者」は、原則として日本への上陸を拒否されることになります。
そのため、仮に国外退去となった後の再入国については、別のハードルが生じることになります。

処分別にみる在留への影響

結論としては、「刑事処分が軽いほど在留リスクは下がる傾向にあるものの、ゼロにはならない」というのが実情です。
在留期間更新在留資格変更は、「適当と認めるに足りる相当の理由」があるかどうかを、事案や事情から総合的に判断するとされており、この中で刑事トラブルは消極的要素となりやすいのが実情です。

刑事上の結論 退去強制リスク 更新・変更 永住許可申請 再入国・再上陸
不起訴 不許可要因になり得る 素行要件で不利 可能
略式罰金 低~中 不許可要因になり得る 素行要件で強く不利 可能
執行猶予付き拘禁刑 中~高 厳しい

就労許可は特に

原則かなり厳しい 上陸拒否が問題化
実刑(特に1年超) ほぼ確実 極めて厳しい ほぼ見込みにくい 収監+強制送還

+上陸拒否

在留資格タイプ別の注意点

同じ刑事処分であっても、在留資格のタイプによって、退去強制に結び付く条文が異なります。
大きく分けると、身分・地位に基づく別表第二(永住者、日本人の配偶者等、定住者など)と、活動に基づく別表第一(就労、留学など)で、リスクの現れ方が異なります。

身分・地位型の場合、日本での生活実体(婚姻関係、子の監護、居住の定着性など)が積極的要素として評価されやすい傾向があります。
もっとも、本件想定のように強い暴力や負傷結果を伴う事件では、消極的要素として重く評価され得ます。

一方、活動型の場合は、「拘禁刑に処せられたもの」という文言で退去強制に直結し得る点が特徴です。

なお、「特別永住者」については別の法制度が適用されるため、ここでいう「永住者」とは区別して考える必要があります。

想定事例は実際にどのような流れで進むのか

ここまで読んで、「実際には、事件後に何が起きるのか」「どの時点で在留が問題になるのか」と疑問に思われた方も多いと思います。
そこで、先ほどのAさんの想定事例を前提に、事件発生後の一般的な流れを整理してみます。

① 事件発生直後:警察対応と身柄の扱い

Aさんのケースでは、店員がけがをしているため、単なる万引きではなく、強盗致傷の疑いで捜査が進む可能性があります。
その場合、防犯カメラの映像、被害届、被害者の診断書などをもとに、後日、警察から事情聴取の連絡が来たり、状況次第では逮捕されることもあります。
逮捕された場合、最初の数日は警察署で取り調べを受け、その後、検察官に送致されます。
ここで勾留が決まると、最大で20日程度、身体拘束が続くことになります。

② 刑事手続の判断:不起訴か、起訴か

捜査の結果を踏まえて、検察官が起訴するかを判断します。

この判断においては、
・被害の程度
・被害者との示談の有無
・本人の反省状況
・前科前歴の有無
などが総合的に考慮されます。

仮に不起訴となれば、刑事裁判は開かれず、前科にもなりません。
一方、起訴された場合には、裁判が行われ、有罪か無罪か、どのような刑罰が科されるかが決まります。

③ 刑事とは別に動き出す「入管」の手続

刑事手続とは別に、入管手続が動き出す可能性があります。
実務上は、例えば、保釈など刑事事件で釈放された直後に、入管による収容手続へ切り替わるケースも珍しくありません。
この段階で問題となるのが、「退去強制事由に該当するかどうか」「在留特別許可が認められる余地があるか」といった点です。
ここで重要なのは、Aさんが「永住者」であるという点です。

不起訴となった場合

不起訴の場合、刑罰に処せられていないため、刑罰を理由とする退去強制事由には該当しません。
このため、少なくとも刑事的には、退去強制の対象となる可能性はありません。

起訴されたが無罪となった場合

無罪判決が確定した場合も、刑罰に処せられていない以上、退去強制事由には該当しません。

罰金刑となった場合

罰金刑の場合も、「拘禁刑に処せられた」とはいえないため、永住者については、刑罰を理由とする退去強制事由には該当しません。

執行猶予付きの拘禁刑となった場合

執行猶予付き判決の場合、「拘禁刑に処せられた」とはいえるものの、永住者については、執行猶予であれば直ちに退去強制事由に該当するわけではありません。

実刑となった場合(量刑が1年以下)

実刑判決を受けた場合、在留への影響は一気に大きくなります。
もっとも、拘禁刑が1年以下の場合には、刑罰を理由とする退去強制事由に直ちに該当しないケースもあります。例えば、本件が「強盗致傷」ではなく「窃盗と傷害」として起訴された場合、Aさんは1年以下の拘禁刑となる可能性もあります。
本事案では、Aさんは永住者であるため、1年以下の拘禁刑判決であれば、実刑となっても、退去強制事由には該当しないことになります。
※もっとも、暴力性が高く、被害結果も重大な事件の場合、日本の公安を害する行為であると評価され、別途在留の可否が問題とされる可能性は残ります。

実刑となった場合(量刑が1年を超える)

拘禁刑が1年を超える実刑判決となった場合、永住者であっても、刑罰を理由とする退去強制事由に該当します。
この場合、収監後に退去強制手続が進み、刑期終了後に、日本から強制送還されるリスクが現実化します。
また、送還後の再入国についても、「1年以上の拘禁刑に処せられたこと」が重く影響し、再び日本に戻ることは容易ではありません。

④ 在留の判断に影響するポイント

Aさんが本件で1年以上の拘禁刑の実刑判決を受け、退去強制事由に該当することとなってしまった場合、次に在留特別許可の申請を検討します。在留特別許可とは、強制送還となってしまう人が、今回は特別に強制送還とはせず、日本に在留できるよう特別な許可を国に求めることができる制度です。

在留特別許可の判断では、刑事処分の結果だけでなく、
・日本での居住年数
・家族関係(配偶者や子の有無)
・仕事や生活の安定性
・事件後の対応(被害者への謝罪、再犯防止策)
といった事情も考慮されます。

そのため、事件直後の対応が、その後の在留判断に影響することになります。

退去強制を避ける・軽減するための実務ポイント

在留特別許可のガイドラインでは、積極要素と消極要素を比較衡量し、単一の要素で機械的に結論を出さないこととされています。
もっとも、在留特別許可制度は、退去強制の例外的・恩恵的措置であり、その判断は国の広い裁量に委ねられる枠組みとなっています。

在留特別許可について、評価されやすい事情としては、
①被害者対応(謝罪、治療費等の負担、示談の成立など)
②再犯防止策(就労状況、家族の支援体制など)
③生活実体(日本での居住年数、扶養家族、地域との結び付き)
といった点が挙げられます。

本件のように「盗み+暴力+負傷」が絡む事案では、示談の有無が刑事処分だけでなく、入管における評価にも影響し得ます。
そのため、初動段階で被害者にどう対応するかには、大きな意味があります。

事件後の再取得と再入国の現実

退去強制によって送還された場合、日本に再び戻るには、「上陸拒否期間」と「上陸拒否事由」を区別して理解する必要があります。
一般的には、退去強制(初回)で5年、再度の場合で10年、出国命令の場合で1年と整理されています。

ただし、入管法5条の上陸拒否事由として「1年以上の拘禁刑に処せられたことのある者」に該当すると、上陸拒否の期限は無期限となります。
制度上は上陸特別許可などの例外も用意されていますが、在留特別許可と同様に、あくまで個別事情の総合判断であり、楽観的な見通しはできません。

外国人事件に強い弁護士へ早期相談すべき理由

この類型の事件は、窃盗から事後強盗、さらに強盗致傷へと罪名が一気に重くなり得る点で、刑事上の見立てが在留の見通しを直撃します。
加えて、退去強制手続が刑事手続とは別の線で進むため、刑事の結論だけを見ても、在留の最終的な結論を読み切ることは困難です。

特に、在留特別許可は行政裁量が広く、自分だけでの対応には限界があります。
だからこそ、事件の早い段階で、「刑事で何を目指すのか」と「入管で何を積み上げるのか」を同時に設計することが重要になります。

現実的で合理的な選択肢を広げるためにも、弁護士への早期の相談の価値は大きいといえるでしょう。

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