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事例紹介:介護現場で起きた傷害事件
介護施設で働く外国人技能実習生Aさんは、日々利用者の介護業務に従事していました。ある日、ベッド上で介護中の利用者が突然暴れ出し、Aさんは驚いて利用者の顔を平手打ちしてしまいました。その結果、利用者は口の中を切る軽傷(全治1週間程度の出血を伴う怪我)を負い、同僚の目撃もあって数日後にAさんは傷害の容疑で逮捕されてしまいます。このようなケースでは、どのような刑事処分を受ける可能性があるのでしょうか? そして、技能実習生であるAさんは強制送還(退去強制)の対象となってしまうのでしょうか? 以下で詳しく解説していきます。
傷害罪で問われる可能性のある刑事処分
まずAさんが疑われている傷害罪(刑法204条)についてです。法律上、「傷害」とは人の生理機能に障害を与えることであり、出血を伴う怪我を負わせた場合などはこれに該当します。傷害罪が成立すると15年以下の懲役または50万円以下の罰金という重い刑罰が科され得ます。実際にどのような刑事処分となるかは様々な事情を考慮して判断されます。
傷害事件の量刑(処分の重さ)は、以下のようなポイントによって決まります。
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怪我の程度:被害者の負った怪我が重ければ重いほど、科される刑も重くなります。
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被害者との関係性:加害者が被害者を保護すべき立場(例えば介護職員と利用者)の場合、犯行は悪質と判断され厳しく見られます。
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前科の有無:前科・前歴があると不利な事情となり、刑が重くなる傾向があります。
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被害弁償:被害者への謝罪や示談による賠償が行われていれば、情状酌量され刑事処分が軽減される可能性があります。
今回のAさんの事例に照らすと、怪我の程度は比較的軽微であり、Aさん自身も前科はありません。しかし一方で、本来利用者を守るべき介護職員が利用者に怪我を負わせた点は重く受け止められます。
総合的に考えると、罰金刑では済まず執行猶予付きの懲役刑(拘禁刑)が言い渡される可能性が高いと言えるでしょう。つまり、裁判で有罪判決が下りるものの一定の期間刑務所に行くことは猶予される(執行猶予が付く)ケースが予想されます。
有罪判決による強制送還のリスク
Aさんのような技能実習生が傷害罪で有罪判決を受けると、たとえ執行猶予付きでも母国への強制送還につながるリスクがあります。日本で築いた生活やキャリアが突然断たれてしまう可能性もあるのです。
次に、在留資格への影響(退去強制=強制送還のリスク)について説明します。日本の入国管理法では、一定の犯罪で有罪となり懲役刑・禁錮刑(執行猶予付きも含む)を言い渡された外国人は、その在留資格によっては退去強制(強制送還)の対象になります。特に技能実習生を含む「別表第一」に分類される就労系の在留資格で日本にいる外国人が傷害罪などの罪で有罪判決を受けた場合、執行猶予付きであっても退去強制事由に該当してしまうのです。これは入管法24条4号の2に定められた規定で、傷害罪がその対象犯罪に含まれているためです。
以上の法律の仕組みから、今回のAさんのケースでは執行猶予付きの懲役刑になれば在留資格の取消し・収容を経て強制送還となる可能性が高いです。せっかく日本で働いてきたAさんは、有罪判決が確定すると日本にとどまれなくなり、家族や職場とも離ればなれになってしまう恐れがあります。強制送還となれば、再入国も長期間禁止されることが一般的です。このように刑事処分だけでなく、その後の強制送還という重大な結果が待ち受けている点で、外国人にとって日本で事件を起こすことは日本人以上に大きなリスクを伴います。
刑事処分・強制送還を避けるために専門家に相談を
このように、技能実習生のAさんには懲役刑(執行猶予付き)による前科と強制送還という二重の危機が迫っています。しかし、適切な対応を取ることで刑事処分を軽減し、退去強制処分を回避できる可能性があります。そのためには一刻も早く弁護士などの専門家に相談・依頼することが極めて重要です。
弁護人(弁護士)として考えられる対策・サポートには、主に次のようなものがあります。
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被害者との示談交渉:早期に被害者と示談を成立させることで、不起訴処分(起訴されない)や罰金刑にとどめてもらえる可能性があります。不起訴や罰金刑であれば有罪判決による懲役刑を避けられるため、退去強制の事由に該当しなくなり、日本に残れる可能性が大いに高まります。特に起訴前に示談がまとまれば検察官が起訴猶予とするケースもあり得るため、時間との勝負です。専門家である弁護士は示談交渉の進め方や必要な謝罪・補償の方法について的確なアドバイスと交渉代行を行ってくれます。
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退去強制処分への対抗策準備:万一有罪判決(執行猶予付き懲役刑)が避けられず退去強制事由に該当してしまった場合でも、すぐに諦める必要はありません。弁護士は入管当局の手続において在留特別許可が認められるよう、退去強制処分をすべきでない事情を収集・主張することができます。例えば、日本での雇用実績や社会貢献、本人の反省状況、被害者から許されていること、さらには日本に生活基盤や家族がある場合の情状などを丁寧に示すことで、例外的に在留が許可されるよう働きかけます。また、入国者収容所での仮放免手続や異議申立てなど、退去強制のプロセスにおける対応についても専門的なサポートを受けることができます。
これらの対応は専門的な知識と経験が不可欠であり、自分一人や周囲だけでは適切な判断・交渉を行うのは難しいでしょう。だからこそ、Aさんのような状況に置かれた場合には、できるだけ早く刑事事件・入管案件に強い弁護士に相談することを強くお勧めします。早期に専門家へ依頼することで、将来の日本での生活とキャリアを守れる可能性が大きく高まります。
雇用主や家族ができるサポートも重要
技能実習生など外国人の方が事件に巻き込まれた際には、本人だけでなく雇用主や家族の協力・サポートも非常に重要です。雇用主やご家族ができる具体的な支援として、次のようなものが挙げられます。
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早期の専門家相談を後押しする: 本人が逮捕・勾留されて動けない場合、雇用先の上司や家族が率先して弁護士を探し依頼することが大切です。雇用主にとっても貴重な技能実習生が強制送還されてしまえば人手を失うことになり、事業にも支障が出ます。家族にとっても大切な家族が国外退去となれば生活設計が狂ってしまいます。周囲の迅速な働きかけで、弁護活動のスタートを1日でも早めることができます。
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情状証人・嘆願書の協力: 雇用主は「引き続き雇用したい」「更生を手助けする」といった内容の嘆願書を作成したり、裁判で情状証人として出廷して被告人(本人)の人柄や今後の監督を約束する証言をしたりすることが考えられます。家族も同様に、本人が反省し更生できるよう支える意思を示す嘆願書を提出することで裁判官の心証に良い影響を与えられるでしょう。
このように、周囲の支援体制が整っていること自体も「日本で更生できる環境がある」ことのアピールとなり、在留特別許可を求める上でも有利に働く場合があります。雇用主や家族は単なる傍観者にならず、積極的に専門家と連携して支えていくことが重要です。
まとめ:迅速な専門家への相談で将来を守る
外国人技能実習生による傷害事件のケースについて、刑事処分と強制送還のリスク、および取るべき対応策を解説しました。Aさんの事例からも明らかなように、日本人であれば罰金や執行猶予で済むようなケースでも、在留外国人にとっては本国送還という重大な結果につながりかねません。しかし、適切かつ迅速な対応によって刑事処分を軽減し、退去強制を回避できる可能性があります。
鍵となるのは、事件発生後できるだけ早く専門家である弁護士に相談することです。弁護士の力を借りて示談交渉や入管対応を進めれば、前科をつけずに済んだり、日本に引き続き在留できる道が開けるかもしれません。本人はもちろん、雇用主やご家族も一丸となってサポートし、専門家と協力して事態の打開を図りましょう。早めの相談・依頼が、外国人であるあなたの日本での未来を守る大きな一歩となるのです。

