永住者が関税法違反で検挙されてしまった場合

事例

日本とシンガポールを行き来している投資家として生活しているAさんは,日本の永住資格を持っています。ある日,金塊にかかる消費税を免れるため,ノートパソコンの中に金塊1キロ(約1000万円)を隠して,金塊の輸入について申告せずに,空港から日本に入国しました。
しかし,税関職員にノートパソコンを分解され,金塊1キロが発見されてしまいました。
なお,Aさんに前科はありません。

このとき,
①Aさんが受ける刑罰はどのようになるか,
②①の刑罰によって,Aさんは退去強制となるのか
③Aさんに対して,弁護士として出来ることはあるのかについて解説していきます。

(1)金塊の密輸の刑事罰

金塊の密輸というのは,普通に日本に申告して輸入した場合,地方税や,消費税などがかかるため,その税金を免れるために行われています。
また,金塊というのは,税関において申告が必要な物品であるため,申告しなかった場合,関税法違反の刑事罰を受けることになります。
そのため,金塊を密輸すると,①関税法違反,②消費税法違反,③地方税法違反の犯罪が成立します。

金塊の密輸が犯罪になる法律上の根拠は,以下の条文です。

関税法111条1項1号
「1 次の各号のいずれかに該当する者は、五年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。ただし、当該犯罪に係る貨物の価格の五倍が千万円を超えるときは、罰金は、当該価格の五倍以下とする。
一第六十七条(輸出又は輸入の許可)(第七十五条(外国貨物の積戻し)において準用する場合を含む。次号及び次項において同じ。)の許可を受けるべき貨物について当該許可を受けないで当該貨物を輸出(本邦から外国に向けて行う外国貨物(仮に陸揚げされた貨物を除く。)の積戻しを含む。次号及び次項において同じ。)し、又は輸入した者」

消費税法64条1項1号
「1 次の各号のいずれかに該当する場合には、その違反行為をした者は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一偽りその他不正の行為により、消費税を免れ、又は保税地域から引き取られる課税貨物に対する消費税を免れようとしたとき。」

地方税法79条の109第1項
「偽りその他不正の行為により貨物割の全部又は一部を免れ、又は免れようとしたときは、その違反行為をした者は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。」

このような犯罪が成立することから,金塊の密輸の量刑は,①密輸した金塊の量,②密輸した金塊の金額,③隠匿の方法によって主に決まります。
①について,密輸した金塊の量が多ければ多いほど量刑は重く見られます。
②について,密輸した金塊の金額が多ければ多いほど量刑は重くなります。
③について,密輸の仕方が巧妙であれば巧妙であるほど量刑は重くなります。
今回のAさんの事件について検討しますと,Aさんは,1キロの金塊を密輸しており,その金額も1000万円相当の金塊を輸入しています。また,隠匿の方法も,通常は中身を見ないと考えられるノートパソコンに隠していることから,巧妙な手段を用いて金塊を密輸しているということが言えます。

なお,事実関係を認めていない事件(無罪を主張する事件)の場合,Aさんのような密輸に関する事件だと,金塊が隠されているという認識の有無が問題となります。
Aさんの事件のように1キロの金塊の密輸である場合,執行猶予付きの有罪判決と併せて,罰金刑が付くことが予想されます。
具体的な量刑としては,懲役としては,2年以下の懲役で5年程度の執行猶予,罰金額としては,100万円以下となることが予想されます。

(2)退去強制となるのか

退去強制事由については,入管法24条に規定があります。
今回のような関税法違反が問題になる事件では,入管法24条4号リに該当する事由があるかどうかが問題となります。
この規定によると,1年を超える実刑判決を受けた場合に退去強制となることが規定されています。
今回のAさんのように前科も無く,執行猶予判決が予想される場合,退去強制となると考えるのは難しいです。
しかし,Aさんの事例とは異なり,金塊の密輸の量が100キロを超えるような悪質で重大な事件になると,実刑判決となる可能性も出てきます。そのため,量次第とは言え,金塊の密輸で退去強制となることがあります。

(3)弁護活動として出来ること

今回のAさんの事件については,このような事件であることから,方針としては①執行猶予付きの有罪判決を目指すこと,②故意が無いとして無罪を目指すことが考えられます。

①のように,執行猶予付きの有罪判決を目指す場合,密輸した金塊の量や密輸した金塊の金額が比較的大量でないことを主張することによって執行猶予付きの有罪判決を目指していくことになります。
②のように,無罪を目指す場合,金塊がノートパソコンに隠匿されることになった経緯や,隠匿をAさんが行ったのか,組織的な背景が無いかなどについて弁護士から主張し,Aさんの知らない間に金塊がノートパソコンに隠匿されるようになったと主張することになります。

このように主張していくことから,迅速に弁護士に依頼して,事件を起こした人にとって不利にならないよう活動していくことになります。

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