【事例】
Aさんは,永住資格を有するB国出身者です。
Aさんは,隣のマンションからの騒音が気になったこと,隣のマンションのどの部屋が騒音を上げているのか分からなかったことから,
昼間に,隣のマンションの共有部分に立ち入り,「私は,隣の家に住んでいるAです。そちらのマンションの騒音,妨害電波,盗聴,盗撮に苦しんでおり,睡眠障害にかかっております。(以下略)」との長文がかかれた紙を玄関ドアのポストに投函したところ,住民が呼んでいた警察官によって逮捕されました。
Aさんは,これまで7度ほど同様の理由で同じマンションに立ち入っており,これまで警察に逮捕されたり取調べを受けたりしたことはありませんでした。
このとき,
①Aさんが受ける刑事罰はどのようなものになるのか
②①の刑事罰により退去強制処分になるのか
以上の点について解説していきます。
このページの目次
(1)住居侵入罪の刑事罰
Aさんは少なくとも,隣のマンションの廊下などの共用部分には立ち入っているため,刑法130条の「住居」に「侵入」しているといえます。
刑法130条の住居侵入罪の法定刑は3年以下の懲役又は10万円以下の罰金です。
住居侵入罪の具体的な刑罰の重さを,決める際には,①住居に立ち入った回数,②住居に立ち入っていた時間,③住民に対する示談の有無などによって判断されます。
①については,回数が多ければ多いほど重くなります。
②については,住居に立ち入っていた時間が長ければ,長いほど重くなります。
③については,立ち入り被害に遭った住民に被害弁償がされれば,罪を軽くする事情になります。
今回のAさんの事例ですと,Aさんはこれまで7回ほど同様の理由で同じマンションに立ち入っていること,文書のかかれた紙を玄関ドアのポストに投函するための時間であるため,数時間程度の長時間とまではいえないことが言えます。
被害弁償について行っているかは不明ですが,弁護士が就いて被害者と示談交渉を行い被害弁償を行うことができれば,Aさんにとって有利な事情になります。
そのため,Aさんの事件は,示談ができて被害弁償が済んだ場合は不起訴で終わる可能性がありますが,被害弁償が済まなかった場合は罰金や執行猶予付きの有罪判決になる可能性があります。
なお,Aさんが作成した文書の内容から,Aさんに何か精神的な問題があり,善悪の判断が付かず今回の犯罪を行ってしまったのではないかという事情もあります。
しかし,責任能力が無いとして無罪になるためには,良いことと悪いことが精神的な問題から分からなかったことか,精神的な問題から体の動きを止めることができず犯罪を行ってしまったと言える事情が無ければなりません。
今回の事例ですと,何やらAさんに精神的な問題があることが窺えるのですが,精神的な問題の影響によって隣のマンションに立ち入ったのかどうかは分かりません。
そのため,責任能力が無いとして無罪になることを目指す場合,Aさんを精神病院に通わせて,精神的な問題の影響を観察した上で,責任能力がないとの主張をするのか判断することになります。
(2)退去強制になるか
それでは,Aさんの刑事処分により,Aさんが退去強制になるかについて検討していきます。
退去強制事由については入管法24条に定めがあります。ただ、Aさんは永住者ですので、在留資格としては別表第2の資格となります。
同条4号の2には「別表第一の上欄の在留資格をもつて在留する者で、刑法第二編第十二章、第十六章から第十九章まで、第二十三章、第二十六章、第二十七章、第三十一章、第三十三章、第三十六章、第三十七章若しくは第三十九章の罪、暴力行為等処罰に関する法律第一条、第一条ノ二若しくは第一条ノ三(刑法第二百二十二条又は第二百六十一条に係る部分を除く。)の罪、盗犯等の防止及び処分に関する法律の罪、特殊開錠用具の所持の禁止等に関する法律第十五条若しくは第十六条の罪又は自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第二条若しくは第六条第一項の罪により懲役又は禁錮に処せられたもの」という定めがあり、この条文に該当する場合には仮に執行猶予判決であったとしても退去強制となります。しかし,Aさんは別表第2の資格で在留してますので,この同条4号の2の要件に該当しません。
また,同条4号リには,「昭和26年11月1日以後に無期又は1年を超える懲役若しくは禁錮に処された者。ただし,刑の全部の執行猶予の言渡しを受けた者及び刑の一部の執行猶予の言渡しを受けた者であってそのうち執行が猶予されなかった部分の期間が一年以下のものを除く。」と規定されています。
これに該当する場合には,別表第2の在留資格であったとしても退去強制の対象になります。
しかし,今回の事件は,Aさんにとって,初犯であることから,悪くて執行猶予,罰金になることが予定される事件です。なので,すぐに退去強制になるという可能性は低いです。
このように,退去強制になる可能性は低いですが,在留資格の更新の際に前科があることを不利益にみられる可能性があります。
(3)弁護活動
弁護活動としては,①示談を行うこと,②責任能力が無いとして無罪を主張すること,③これまでのマンションへの立ち入りについて話さず,今回の1件だけの事件として扱って刑を軽くすることが考えられます。
①示談をして不起訴を目指す場合
示談をして不起訴を目指すためには,被害者となったマンションの管理人やマンションの住人に示談を行うことが考えられます。
その際には,示談を弁護士にお任せする方がいい結果になります。
②責任能力が無いとして不起訴や無罪を主張する場合
責任能力が無いとして無罪になるためには,精神病院の診断書などが必要になるうえ,それらの資料をまとめたうえで弁護士が責任能力が無いと主張することになります。
この主張は精神科の専門的な判断だけではなく,弁護士の専門的な判断が伴いますので,このような主張をする際は,弁護士をつけるべきです。
③刑を軽くする主張について
取調べの際に他の事件について話さず,今回の1件だけで事件として重くないということを主張することが考えられます。
この場合は,弁護士に適切なアドバイスをもらう必要がありますので,弁護士をつけて対応する方が良いと思われます。
そのため,①~③のいずれの主張をするにしても,弁護士が必要となります。
このように,退去強制を回避するためには、少なくとも不起訴になることが最低条件です(なお、不起訴になったとしても在留資格の更新に影響が生じる場合があります)。ですので、ご家族や知人が逮捕されてしまった場合には、速やかに経験のある弁護士に依頼をすることが必要です。
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