強制送還の手続きの中では,必ず口頭審理というものが開かれます。
口頭審理は,日本で入管法上の違反があったと疑われる外国人を,強制送還するかどうかを判断する上でとても重要な手続きです。
口頭審理の前に必要な準備について解説をします。
このページの目次
口頭審理が開かれるまでの流れ
強制送還されるまでの手続きの流れは,次のようなものになります。
- 1 違反調査(入国警備官によるインタビュー,調査が始まると収容される場合もある)
- 2 違反審査(入国審査官によるインタビュー)
- 3 口頭審理
- 4 法務大臣の裁決(口頭審理の後,異議申し立てをしていた場合)
強制送還の対象となったとしても,すぐに口頭審理が開かれるのではなくて,まずは,入国警備官,入国審査官による数回のインタビューが行われることになります。
日本での在留を続けたいと思っている場合に,口頭審理の段階で日本に残りたい理由を話すのでは遅すぎます。
日本での在留を続けたいと思っている理由や特別な事情については,違反調査や違反審査の段階で主張しておく必要があります。
また,違反調査,違反審査の後,必ず口頭審理が開かれるというわけでもありません。
日本に残る在留特別許可をうけるために口頭審理,法務大臣の裁決を受けるためには,
①違反審査に対する口頭審理の請求
②口頭審理に対する異議の申し立て
をしなければなりません。
口頭審理の前に準備しておくべきこと
口頭審理は,通常2~3時間程度,各地方の入管のインタビューを行う部屋で行われます。
口頭審理を行う日時や場所については,あらかじめ指定されます。
日本に残りたい,在留特別許可をもらいたいと思うのであれば,事前の準備が非常に重要です。
強制送還の理由に間違いがある場合
入管法上,強制送還の理由となる事実はいくつか考えられます。
刑事事件を起こしてしまった場合に,強制送還となるか/ならないか,については,★こちらのページでもまとめていますので,併せてご覧下さい。
刑事事件の場合でなくても,偽装結婚や偽装離婚,虚偽の申請,不法就労,不法就労助長,不法残留,不法入国など,様々な事実があり得ます。
それらの理由について,入管が考える事実が間違っている場合には,口頭審理で間違っていることを主張しなければなりません。
入管に対して間違っていることを主張するために,事実関係について調査を行って,証拠を提出しましょう。
具体的には,口頭審理の場で書面や物を証拠として提出したり,証人を呼んできて証人尋問をしたりしなければなりません。
そして口頭審理の前に,「入管が考えている事実のどこが間違っているのか,実際には何が起きたのか」と言った点をまとめて,意見書にして提出しておくことも有用です。
事実に間違いがある場合には,事前によく弁護士と相談しておく必要があります。
強制送還の理由に間違いがない場合
強制送還の理由について間違いがない場合でも,「日本に残りたい」と希望する場合には口頭審理の請求をしなければなりません。
在留特別許可をもらうためには,口頭審理や法務大臣の裁決の手続きが必要です。
これらの手続きについては,全て弁護士に依頼することができます。
弁護士に依頼することによって,次のような準備ができます。
・在留の希望を入管に伝える
そもそも,入国警備官や入国審査官は,「強制送還する理由がある」と考える場合には,
早く日本から出国した方が良い
早く出国したら,その分早く再入国できるようになる
と,出国することを強く勧めてきます。
何度もインタビューを受けるうちに,日本に在留することをあきらめて「出国します」と応じてしまうと,口頭審理を受ける権利を放棄したことになってしまう可能性があります。
入管側から「プレッシャー」に対抗するためにも,弁護士に依頼しておくのが良いでしょう。
また,同時に日本に残りたい理由や日本に残らなければならない事情をまとめて,調査や審査の前に意見書として提出しておくことができます。
どんな理由から日本に残りたいのかについて,事前に明らかにしておくことにより,入管の調査の対象を特定できます。
入管側から見た時にも「言ってくれないと分からない」という事情があります。
事前に伝えておくことで,入管も追加で調査を行う場合がありますし,逆に,こちら側での調査を行うための時間を取ってもらえるということもあります。
・在留を希望する理由,事情を集める
口頭審理に向けて,日本に残りたい理由・残らなければならない事情について,主張する内容が決まったら,その証拠を集めなければなりません。
具体的には次のようなものが考えられます。
・外国人本人の陳述書
・身元保証人や日本にいる家族の陳述書
・会社など勤め先の上司,同僚の嘆願書
・日本人や永住者と結婚している場合や,日本で養育している子供がいる場合には戸籍謄本や婚姻届受理証明書,母子手帳のコピー等
・日本人や永住者の婚約者がいる場合には,交際の様子を示すもの
メールやメッセージの履歴,写真等
・日本で病気の治療などを受けている場合には,その診断書,薬の説明書など
このような証拠や資料は,外国人の方やその家族が自分で手に入れられるものもありますが,「陳述書」や「嘆願書」は,
具体的にどんな理由で日本に残り続けたいのか
という事情と併せて考慮しなければならないため,一般の方にとっては作成が難しい場合があります。
入管法の条文や,入管内部の判断基準に沿う形で作成しなければなりません。
在留特別許可に向けた口頭審理については,準備の段階から早めに弁護士に相談しておいて,備えましょう。