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19歳の外国籍息子が無免許運転で死亡事故を起こした場合の刑事手続きと退去強制のリスク

ケース
Aさんの息子(19歳)は「家族滞在」の在留資格で日本に滞在中でしたが、無免許で車を運転し、人身事故を起こして被害者を死亡させてしまいました。今回はこのケースを前提に、以下の2点について解説します。
1. 息子さんが受けることになる 刑事手続き(少年事件手続き)の流れ
2. 上記手続きの結果によって 退去強制(強制送還)となる可能性があるかどうか
特に退去強制のリスクに対処するためには、早期に弁護士へ相談することが重要である点を強調します。それでは順を追って説明していきます。
少年事件手続きの流れ
日本では、20歳以上は成人として通常の刑事手続きにかけられますが、20歳未満の場合はまず捜査が終わった後に家庭裁判所による少年事件の手続きに進みます。証拠不十分等で罪を問えない場合を除いて、すべての20歳未満の刑事事件は家庭裁判所に送致され、少年の更生を図るための措置が検討されます。
• 18歳・19歳(特定少年)
2022年の少年法改正により、18歳と19歳の少年は「特定少年」と位置付けられました。特定少年も家庭裁判所で審理されますが、従来より厳格な対応が取られることになっています。特に重大事件の場合、家庭裁判所から検察官へ逆送(検察官送致)されて成人と同様の刑事裁判を受ける可能性が高くなっています。今回の息子さんは19歳ですので、この「特定少年」に当たります。
• 18歳未満
18歳未満の少年も逆送されることはありますが、18・19歳に比べると保護処分(後述)となるケースが多く、更生を重視した対応がなされます。
家庭裁判所での手続き: 家庭裁判所では調査官による環境等の調査や審判を経て、以下のような処分が決定されます。
• 検察官送致(逆送)
家庭裁判所の判断で事件が検察官に送致される決定です。この場合、手続きは成人と同じ刑事裁判に移行し、刑事罰を科される可能性があります。
• 少年院送致
少年院に収容して矯正教育を受けさせる処分です。刑罰ではなく保護処分と位置付けられます。
• 保護観察
自宅等に戻し、保護観察官や保護司の指導・監督の下で更生を図る処分です。
• 児童自立支援施設等送致
自立支援施設で生活指導を受けさせる処分です。
• 不処分
調査の結果、保護処分等の必要性がないと判断された場合は何も処分をせず終了となります。
今回のケースの手続き
息子さんは19歳(特定少年)ですので、まず捜査の後、事件は家庭裁判所に送られます。しかしその後の流れは、認定される罪名等によって大きく変わる可能性があります。
危険運転致死罪の場合
危険運転致死罪とは、飲酒による酩酊、極度の速度制限超過、著しい技能不足など悪質な運転によって人を死亡させてしまった場合に適用される罪です。その法定刑は「1年以上の有期拘禁刑」と極めて重く、罰金刑の規定はありません。これは通常の過失による人身事故より厳しい刑罰で、裁判員裁判の対象にもなる重大犯罪です。
危険運転致死罪は「故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪」に該当し、犯行時16歳以上の少年の場合、少年法上原則として検察官に送致しなければならない事件となります。すなわち、家庭裁判所での審判を経て原則として成人と同じ刑事裁判に回されることが見込まれます。実際にも、特定少年による危険運転致死事件では家庭裁判所からの逆送率が非常に高く、成人同様の裁判を受ける可能性が高いといえます。
無免許運転による過失運転致死の場合
無免許で車を運転し過失により人を死亡させた場合、適用されるのは「無免許過失運転致死罪」(自動車運転処罰法違反)です。無免許過失運転致死罪の法定刑は「10年以下の拘禁刑」となっており、危険運転致死罪と比べれば刑の重さは軽く設定されています。このように法律上は危険運転致死罪より軽い罪ですが、人が亡くなる重大事故であることに変わりはありません。特に無免許運転という違反が付加されている点も重視されるため、19歳の特定少年が起こした本件では家庭裁判所が厳重に審理するでしょう。
本件は無免許過失運転致死罪となれば特定少年の原則逆送事件にはあたりませんが、家庭裁判所が「その罪質及び情状に照らして刑事処分を相当と認めるとき」と判断すれば、検察官送致となり成人と同様の刑事裁判に移行することになります。一方で、事故の態様や本人の反省状況、環境調整などによっては家庭裁判所が保護処分相当と判断し、刑事裁判にせず少年院送致や保護観察等とする可能性もあります。
要約すると、息子さんのケースでは様々な事情次第で、家庭裁判所からの「逆送」(検察官送致)によって成人と同じ刑事手続きに移行する可能性があります。特に危険運転致死罪が適用される場合は原則逆送となり、無免許過失運転致死罪の場合でも特定少年ゆえに厳格な検討がされるでしょう。
退去強制(強制送還)となる可能性
次に、上記の刑事手続きの結果が入管法上の退去強制(強制送還)事由に該当するかどうかを検討します。日本に在留する外国人が犯罪を犯した場合、その刑事処分の内容によっては退去強制の対象となり得ます。息子さんの場合、外国籍ですので、この点は非常に重要です。
入管法の規定
入管法(出入国管理及び難民認定法)第24条各号には退去強制事由が定められており、少年(20歳未満)の場合は第24条4号のトに規定があります。同号によれば、「少年法に規定する少年で、昭和26年11月1日以降に長期3年を超える拘禁刑に処せられたもの」が退去強制の対象になると定められています。ここでいう「長期3年を超える」とは、長期と短期を定める不定期刑において長期が3年を超える拘禁刑を受けた場合を指します。なお成人の場合は「1年以上の拘禁刑」(ただし執行猶予が付かない実刑の場合)が退去強制事由とされています。
保護処分の場合
少年事件で家庭裁判所が保護処分(少年院・保護観察など)を選択した場合、それは刑罰ではなく教育・矯正を目的とした措置です。したがって仮に少年院送致といった重い処分がされたとしても、それ自体は刑事上の「拘禁刑」ではないため退去強制事由には該当しません。保護処分であれば、その処分結果だけをもって在留資格が剥奪されることはない、ということになります。
刑事裁判で有罪判決を受けた場合
一方で、家庭裁判所から逆送されて通常の刑事裁判を受け、有罪判決により拘禁刑が科されれば入管法上の退去強制事由に該当する可能性が出てきます。具体的には、言い渡された刑期の長期が「3年を超える」場合が問題となります。今回のケースに関連する罪について見てみましょう。
• 危険運転致死罪の場合
法定刑は1年以上の有期拘禁刑と非常に重く設定されています。初犯であっても実刑判決が下されるケースが多く、長期が3年を超える拘禁刑となることも珍しくありません。したがって危険運転致死罪で逆送されて有罪となった場合、退去強制事由に該当するリスクが高いということになります。
• 無免許過失運転致死罪の場合
無免許過失運転致死罪自体の法定刑は10年以下の拘禁刑と危険運転致死罪よりは低いものの、死亡事故である以上やはり重い刑が科されるリスクがあります。逆送されたケースでは執行猶予付き判決の可能性もありますが、仮に不定期刑の長期が3年を超えてしまえば退去強制事由に該当します。過失犯の場合は危険運転致死罪ほど極端な長期刑にならないことが多いですが、被害結果や過失態様の重大性、無免許運転の背景事情などによっては、不定期刑の長期が3年を超えるリスクは否定できません。したがって無免許運転過失致死罪であっても退去強制の対象となり得る点に注意が必要です。
まとめると、息子さんのケースでは、家庭裁判所で保護処分となれば退去強制の心配は基本的にありません。しかし、逆送され刑事裁判により長期が3年を超える拘禁刑の判決が下された場合には、入管法の規定上退去強制(強制送還)の対象となってしまいます。そのため、危険運転致死罪の成否の検討、逆送の回避、刑期の軽減が極めて重要になります。
専門弁護士による弁護活動の重要性
刑事弁護の早期依頼が鍵です。 今回のように死亡事故を伴うケースは、少年であっても非常に重大な刑事事件です。結果として人の命が失われている以上、被害感情も厳しく、仮に成人であれば相当な刑罰が科される犯罪類型に該当します。少年事件とはいえども決して軽くは扱われませんし、危険運転致死罪であれば原則逆送と裁判員裁判の対象となり、複雑な手続と重い心理的負担を伴う法廷審理が行われます。このような重大事案では、刑事事件・少年事件に熟練した弁護士のサポートが不可欠です。
特に退去強制のリスクに直面する可能性がある場合、事前に適切な弁護活動を行うことでそのリスクを最小化できる可能性があります。例えば、家庭裁判所の段階でできるだけ保護処分にもっていけるよう、少年の反省・更生の意欲や環境の改善策を示す弁護活動が考えられます。逆送となり刑事裁判になっても、刑期の軽減を目指すことが重要です。早期に弁護士に相談し、被害者遺族に対する誠意ある対応や再発防止策の準備などを進めることで、裁判官の心証を良くし得るポイントはいくつもあります。
もちろん被害者遺族への謝罪や賠償(被害弁償)は不可欠ですが、それだけでは十分ではありません。将来的に息子さんが在留資格を更新して日本に留まるためにも、また息子さん自身の更生のためにも、できるだけ早い段階で専門の弁護士に依頼し、万全の弁護活動を行うことが肝要です。専門家の適切なサポートを受けることで、結果として退去強制という最悪の事態を避けられる可能性が高まります。
外国籍の少年が刑事事件を起こした場合、その手続きは日本人の少年と同様にまず家庭裁判所で進みますが、18・19歳の特定少年に関しては、成人同様の裁判に移行し厳しい刑事処分が科される可能性が、18歳未満の少年より高いです。そして判決内容次第では退去強制という非常に重大な結果を招きかねません。本件のようなケースでは、早期に刑事弁護に強い弁護士へ相談し、適切な手当てをすることがご家族にとって何より重要な対応策となります。専門家とともに最善を尽くし、息子さんの将来と在留資格を守るための行動をぜひ早めに起こしてください。

