外国人留学生が日本で安心して学び、生活するためには、学校側が法令遵守を徹底する必要があります。
日本語学校を運営する立場として、法的トラブルを未然に防ぐ体制づくりは避けて通れません。
この記事では、日本語学校の経営者や職員の皆様に向けて、「外国人の強制送還を防ぐために守るべき5つのルール」をご紹介します。
どれも基本的な内容ですが、違反すれば厳しい刑事処分や退去強制のリスクが伴います。
制度の背景や実務上の注意点も含めて解説しますので、学校内での教育・指導体制の見直しにぜひお役立てください。
このページの目次
1.入管法に基づく手続きを怠らないこと
外国人留学生は「出入国在留管理法(入管法)」により、さまざまな義務を負っています。
最も基本的なものとして「在留カードの常時携帯義務」があります。
警察官などの職務質問に際して在留カードの提示ができなかった場合、20万円以下の罰金が科されることがあります。提示を拒んだ場合には、1年以下の拘禁刑または20万円以下の罰金となる場合もあります。
また、住所や氏名、国籍などの変更があった場合には、14日以内に届け出が必要です。引っ越したのに届け出を忘れた場合でも、罰金の対象になります。
特に注意すべきは、住所登録を怠ると「在留資格の取消し」になることがある点です。在留カード交付後90日以内に住居登録をしなければ、入管はその外国人を「行方不明」と見なし、在留資格の取消しを検討します。
実務のポイント:
- 入学時に住民登録を早期に行うよう案内する
- 引っ越し後の住所変更届を出すよう定期的に確認
- 氏名・国籍などの変更にも注意喚起
「うっかり忘れていた」では済まされない手続きです。留学生本人への指導と同時に、学校側もサポート体制を整えてください。
2.在留資格の更新を忘れないこと
在留資格の更新は、外国人にとって「日本に合法的に滞在し続けるための命綱」といえます。
とりわけ留学生や就労ビザで滞在している職員は、期限付きの在留資格を有しており、その有効期間内に更新申請を行わなければ、違法滞在(オーバーステイ)と見なされてしまいます。
在留期限を1日でも過ぎてしまうと、その時点で「不法滞在者」となり、3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金が科せられる可能性があります。
さらに不法滞在は退去強制事由にも該当し、強制送還された場合は原則として「再入国禁止措置」が取られ、少なくとも1年は日本に再入国できなくなります。
このような深刻な結果を防ぐには、学校側の管理体制が不可欠です。学生個人の責任に任せていては「うっかり失念」による重大トラブルを防ぎきれません。
実務のポイント:
- 学生・職員の在留カードを一覧管理し、有効期限を把握
- 少なくとも3か月前から更新時期を案内・督促
- 更新手続き中の在留資格(特例期間)に関する情報提供も行う
留学生本人が更新を怠ってしまうと、日本語学校の信頼にも関わります。入国管理局から「適切な管理が行われていない」と判断され、認定校としての地位にも影響を与えかねません。
参考報道 日本語学校、不法残留「3割以上」で認定取り消し 日本経済新聞社
確実な更新管理体制を、学校全体で築いていきましょう。
3.資格外活動をしないこと
多くの留学生がアルバイトを通じて生活費を補助したり、日本の職場環境を体験したりしています。
しかし、留学生のアルバイトには厳格なルールがあり、「資格外活動許可」の取得が必須です。
入管から許可を得たうえで、留学生は週28時間以内の範囲でアルバイトをすることができます。ところが、これを超えてしまうと「資格外活動違反」となり、法的責任が問われます。
さらに、風俗営業関連(パチンコ店、キャバクラ、マッサージ店など)での就労は禁止されており、たとえ1日でも働けば違法となります。
資格外活動違反は、1年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金、悪質な場合には3年以下の拘禁刑や300万円以下の罰金が科されることもあります。
そして何より重要なのは、違反が判明すれば在留資格の取消し、退去強制の対象になるということです。再入国も困難になり、将来の人生に大きな影響を及ぼします。
実務のポイント:
- アルバイトの許可証明書(資格外活動許可)の取得を必ず確認
- 学生と定期的に面談し、労働時間・職種の状況を把握
- 「親に仕送りしたい」「生活が苦しい」等の事情を理解しつつ、法令順守を指導
「ちょっとくらい大丈夫」は絶対に通用しません。日本で学ぶ本来の目的を見失わないよう、学校として強い姿勢で啓発していきましょう。
4.不法就労をさせないこと
「不法就労」とは、外国人が日本で働く資格がないにもかかわらず就労する行為を指します。
これは資格外活動のルール違反よりもさらに広く、重大な法律違反と位置付けられています。本人だけでなく、雇用主にも処罰が及ぶため、日本語学校の経営者や事務職員としても理解・対応が必須です。
不法就労は大きく以下の3つのケースに分類されます。
① 不法滞在者・不法入国者の就労
すでにオーバーステイ(不法残留)状態にある外国人や、そもそも正規のビザを持たずに入国した者が就労しているケースです。
この場合、発覚次第「即時退去強制」となり、再入国は原則として5年間禁止されます。
② 資格のない者による就労
たとえば短期滞在ビザ(観光)で来日した外国人が、そのまま仕事に就いた場合などです。
また、留学生が資格外活動許可を得ずにアルバイトを始めたケースも、ここに該当します。
③ 在留資格の範囲外での就労
たとえば技術・人文知識・国際業務ビザを持つ外国人が、契約にない単純労働(清掃業務など)に従事した場合などです。
これは資格外活動違反として処罰されると同時に、広義の不法就労にも該当します。
不法就労助長罪にも注意
外国人本人の処罰に加え、不法就労させた雇用主も処罰されます。
「不法就労助長罪」によって、以下のような罰則が規定されています。
- 5年以下の拘禁刑 または 500万円以下の罰金(または併科)
この罪は、故意に不法就労者を雇った場合だけでなく、「在留カードの確認を怠った」などの過失でも適用されることがあります。
つまり、「知らなかった」では通用しないのです。
実務のポイント:
- 学生の就労先が適法であるかを定期的に確認
- 観光ビザ・失効ビザなどの者が働いていないか注意喚起
- 学生に「不審な求人(高時給・現金手渡し等)」への警戒を促す
外国人留学生が不法就労に関与してしまえば、彼らの人生だけでなく、日本語学校の信頼にも傷がつきます。
学内での継続的な教育と防止策が不可欠です。
5.犯罪行為・交通違反をしないこと
「犯罪行為や交通違反をしない」ことは、すべての人に共通する基本的なルールです。
しかし、留学生の場合は違反によって「在留資格の取消し」や「退去強制」といった重大な処分につながるリスクがあるため、特に慎重である必要があります。
一般犯罪と退去強制
外国人が一定の犯罪で有罪判決を受けた場合、入管法第24条により退去強制の対象になります。
代表的な例として、次のような場合が該当します。
- 無期または1年を超える拘禁刑の実刑 → 原則として退去強制
- 留学等の在留資格で一定の犯罪(例:窃盗)で執行猶予判決 → 退去強制の対象
- 薬物犯罪 → 執行猶予付きでも退去強制の可能性
- 売春行為への加担→起訴されなくても退去強制の可能性
「一度の過ち」で日本での将来が絶たれるケースは少なくありません。特に薬物や暴力、性犯罪などは厳しく処分されます。学校としても予防啓発が求められます。
交通違反も重大なリスク
交通違反も油断できない領域です。以下のような違反は、刑事罰の対象になります。
- 飲酒運転(酒気帯び)
→ 3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金 - 飲酒運転(酒酔い)
→ 5年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金 - 無免許運転
→ 3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金
さらに、近年では自転車による違反(信号無視・飲酒運転など)も厳しく取り締まられ、刑罰の対象になる場合があります。
実務のポイント:
- 学生に対して法令順守・交通ルールの周知を徹底
- 自転車利用者にはヘルメット着用やライト点灯のルールも指導
- 交通違反歴の累積にも注意(更新時に素行不良と判断される恐れ)
些細な違反でも、「繰り返し違反=素行不良」とされれば、在留資格の更新が許可されないリスクがあります。
「知らなかった」では済まされない厳しい現実を、学生と共有してください。
留学生の将来を守るために、日本語学校が果たすべき役割
ここまで、日本語学校の運営において必ず守るべき「外国人留学生に関する5つの重要ルール」について解説してきました。
もう一度、簡単に振り返ってみましょう。
【日本語学校運営者が絶対に把握しておくべき5つの法的ルール】
- 入管法に基づく手続きを怠らないこと
→ 在留カードの携帯義務、住所・氏名・国籍変更の届け出などは必須。怠ると罰金や資格取消しのリスクあり。 - 在留資格の更新忘れを防ぐこと
→ 有効期限管理を徹底し、更新を失念しない体制を。オーバーステイ=不法滞在となり、強制送還対象に。 - 資格外活動をしないこと
→ 留学生のアルバイトは「資格外活動許可」の範囲内(週28時間以内)でのみ許容。超過や風俗関連就労は禁止。 - 不法就労をさせないこと
→ 資格外活動や無許可就労は本人だけでなく、雇用側も「不法就労助長罪」で罰せられる。在留カードの確認は必須。 - 犯罪・交通違反を防止すること
→ 窃盗・暴力・薬物・飲酒運転・無免許運転などは在留資格取消しや強制送還の原因に。違反の累積もNG。
これらはすべて、「留学生の人生そのもの」に直結する重大なルールです。そして、そのリスクを予防できる最前線に立っているのが、日本語学校の皆さまです。
学校内でできる実践的な対策とは?
- 学内ルールの明文化・配布
入学時オリエンテーションで法令遵守について明確に伝え、文書として配布しましょう。母国語訳資料も有効です。
- 定期的な在留資格の確認・チェック
在留カードのコピーを取得し、有効期限を一覧管理する体制を構築。職員間で共有し、期日が近づいたらリマインドを徹底。
- アルバイト状況のヒアリング
週1回の簡易アンケートや月次面談を導入することで、就労時間・職種・許可の有無を把握しやすくなります。
- 外部支援団体や弁護士との連携
行政書士や弁護士と連携することで、トラブル発生時にも迅速な対応が可能です。法的リスクの相談先を確保しておくことも重要です。
まとめ:守るべきルールを知ることは、未来を守ること
日本語学校の運営においては、語学教育の提供だけでなく、留学生の在留資格をめぐる法的リスクの管理も極めて重要な責務です。
「知らなかった」では済まされないルールばかりですが、正しい知識と体制があれば、多くのトラブルは防ぐことができます。
学生の将来を守ることは、学校の信頼を守ることにつながります。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、日本語学校をはじめとする教育機関の皆様に対して、外国人関連法務・刑事事件対応・予防教育に関する支援を行っております。
在留資格の取消し、強制送還、就労違反など、どんな小さなご相談でも構いません。どうぞこちらからお気軽にご相談ください。