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外国人が罪を犯したら退去強制に?|刑事事件と在留資格への影響・弁護士相談の重要性

2025-10-18

外国人が罪を犯してしまったときに、すぐ弁護士へ相談すべき理由

日本に滞在する外国人が罪を犯してしまった場合、単に刑事罰を受けるだけではなく、在留資格の更新拒否や退去強制(強制送還)といった重大なリスクを抱えることになります。
こうしたリスクは日本人の場合よりも大きく、本人だけでなく家族や勤務先にまで深刻な影響を及ぼします。
だからこそ、トラブルが発生した時点で、できる限り早期に弁護士へ相談することが重要なのです。

外国人が刑事事件を起こしたときに直面するリスク

外国人が日本で刑事事件を起こした場合、日本人と同様に刑事罰を受けることになりますが、それに加えて在留資格への影響が避けられません。刑事事件の結果として有罪判決を受ければ前科が残り、入管当局の在留資格更新審査で「素行不良」と判断される可能性があります。特に、入管法24条に定められた退去強制事由に該当すれば、刑の内容にかかわらず強制送還の対象となります。退去強制の手続きは、入国警備官の調査、入国審査官の審査、口頭審理、法務大臣の裁決を経て進行し、最終的に日本からの退去を命じられることがあります。つまり、外国人が刑事事件を起こすことは、日本人以上に生活基盤を揺るがす重大なリスクを伴うのです。

事例

経営・管理ビザで日本に滞在していたAさんは、ある晩に友人と飲酒した後、自宅まで自転車で帰宅しようとしました。ところが、途中で警察官に呼び止められ、呼気検査を受けたところ基準値を超えるアルコールが検出され、自転車飲酒運転として検挙されてしまいました。自転車であっても飲酒運転が刑事罰の対象となることは、2024年の法改正により明確に定められています。Aさんは初犯で事故もなく、処分は罰金刑にとどまる可能性が高いですが、有罪判決を受けることで前科が付きます。外国人にとってこの前科は、将来の在留資格更新に大きな影響を与え、最悪の場合、退去強制につながるリスクを抱えることになるのです。

刑事罰と退去強制の関係

退去強制とは、日本から外国人を強制送還する手続きのことを指し、入管法24条に根拠があります。主な退去強制事由は、①薬物事件で有罪判決を受けた場合、②1年以上の懲役・禁錮刑を受けた場合、③一定の刑法犯(窃盗、詐欺、傷害など)で懲役刑に処せられた場合です。特に注意すべきは、執行猶予付きの判決であっても退去強制の対象になる点です。退去強制の手続きは、入国警備官による調査から始まり、入国審査官の審査、必要に応じて口頭審理や法務大臣の裁決を経て進みます。

違反認定をされてから実際に退去強制の命令が出されるまでの間に、日本での在留を希望する場合には在留特別許可申請をしなければなりません。たとえ軽微な違反であっても、刑事罰と退去強制の関係を正しく理解し、早期に備えることが重要です。

在留資格更新への影響

外国人が日本に在留し続けるには、在留資格の更新が必要です。この更新にあたっては「素行が善良であること」が要件とされています。有罪判決を受けると、この要件を満たさないと判断され、更新が不許可になる可能性があります。更新が認められないまま在留期限を迎えるとオーバーステイとなり、結果的に退去強制事由に該当してしまいます。特に経営・管理ビザのように事業活動を伴う資格では、社会的信用の低下がビザの継続に直結します。刑事事件自体が直ちに退去強制に当たらなくても、将来的な更新不許可という形で影響が現れるのが外国人特有のリスクです。したがって、軽微な罰金刑であっても安易に考えず、在留資格への影響を意識して行動する必要があります。

早期相談のメリット

刑事事件で検挙された段階で、できる限り早期に弁護士へ相談することには大きなメリットがあります。まず、刑事手続きでの適切な弁護活動により、罰金刑にとどめたり、不起訴処分を獲得したりできる可能性があります。処分が軽減されれば、在留資格への悪影響も最小限で済みます。また、入管手続きへの備えとして、在留特別許可の申請や善良な素行を示す資料の準備を前もって行うことができます。さらに、退去強制手続きは迅速に進むため、弁護士の助言なしでは手遅れとなる危険があります。早期に相談することで、刑事弁護と入管対応を並行して進められる点は大きな利点です。処分確定後では選択肢が限られるため、「まだ処分が出る前」に弁護士に依頼することが将来を守る最大の鍵となるのです。

外国人事件に詳しい弁護士の重要性

外国人が刑事事件を起こした場合、対応する弁護士が外国人事件に精通しているかどうかが結果を大きく左右します。刑事弁護の知識だけではなく、入管法や退去強制手続、在留特別許可の実務に精通していなければ、十分なサポートは困難です。例えば、日本人なら罰金刑で済む場合でも、外国人の場合は在留資格の更新不許可につながりかねません。こうした影響を見据えた弁護活動ができるかどうかが、専門性のある弁護士かどうかの分かれ目です。さらに、入管局に提出する書類の準備や、家族・事業の事情を説明する戦略立案なども、外国人事件に強い弁護士なら適切にサポートできます。刑事事件と入管手続きの双方を理解した弁護士に依頼することが、外国人本人と家族の生活を守るための不可欠な条件といえるでしょう。

事務所紹介

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、刑事事件と入管事件の双方に精通した弁護士が在籍し、外国人の方々が直面する複雑な問題に総合的に対応しています。これまで多数の外国人事件を取り扱い、刑事弁護活動と退去強制手続、在留特別許可申請に関する豊富な実績を有しています。逮捕直後から接見に対応し、証拠収集や反省文の作成支援などを迅速に行う体制を整えています。また、在留資格の更新に不安がある段階でも、専門的視点からアドバイスを行い、必要な準備をサポートします。当事務所では、ご本人やご家族に寄り添い、最善の解決策を提案いたします。外国人事件でお困りの際は、どうぞ早期にご相談ください。

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外国人永住者が不法就労助長罪に疑われたらどうなる!?

2025-10-12

 外国人の人材派遣業に関するリスクはこちらでも解説しています。
フルサイズの解説はこちらから

 

日本で永住資格を持つ外国人が刑事事件に関与してしまうと、刑事罰だけでなく在留資格(永住資格)やこれまで築いてきた生活基盤を失う危険があります。
特に「不法就労助長罪」の疑いをかけられた場合、そのリスクは極めて深刻です。
この記事では、不法就労助長罪とは何か、その成立要件や法定刑、疑われた場合に受ける刑事上のリスクと永住資格への影響について、入管・刑事事件に精通した法律事務所の視点から解説します。
また、取調べへの対応方法や弁護活動のポイント、早期に弁護士へ相談する重要性についても紹介いたします。

不法就労助長罪とは

「不法就労助長罪」とは、外国人に不法就労(在留資格外の違法な就労)をさせたり、その行為を助けたりする行為を処罰する犯罪です(不法就労をした外国人本人を罰する「不法就労罪」とは別個の犯罪です。)

なお、日本人であっても処罰の対象になります。

典型的な例としては、事業主が在留資格を持たない外国人を自分の店で働かせるケースや、業者が不法就労させるために外国人を集めて紹介するブローカー行為を行ったケースなどが挙げられます。
この罪の法定刑は3年以下の拘禁または300万円以下の罰金(またはその併科)と非常に重く、また個人とは別に法人(会社)にも罰金刑が科されます。また、不法就労助長罪は令和6年の法改正により厳罰化することが決定しており、改正法が施行されると法定刑が「5年以下の拘禁または500万円以下の罰金(またはその併科)」に引き上げられる予定です。
そして、外国人自身がこの罪を犯した場合は入管法上の退去強制(強制送還)の対象ともなります。

事例(永住者が不法就労助長罪で疑われたケースを想定)

Aさんは永住権を持って日本に在留している外国人で、国内で飲食店を経営しています。
ある日、Aさんは外国人留学生のBさんを在留資格や在留期限を確認せずに「アルバイトスタッフ」として採用し、違法になるとは知らず店で働かせはじめました。
ところが後日、警察の摘発によりBさんが不法残留(オーバーステイ)の疑いで逮捕されてしまいました。
その事件の捜査の過程で、実はBさんの在留資格が「留学」であり、Aさんが採用した時点ですでに在留期限を超えていたことが明らかになりました。
その結果、Aさんも「外国人に不法就労をさせた」容疑で警察に逮捕される事態となってしまいました。
自分は悪意なく雇っただけと思っていたAさんにとって、まさに青天の霹靂と言える状況です。

刑事罰のリスクと影響

不法就労助長罪が成立した場合、現行法の法定刑は「3年以下の拘禁」または「300万円以下の罰金」、もしくはその両方と定められています(法改正後の厳罰化については既にお話した通りです)。

具体的な刑の重さを決める際には、不法就労させた外国人の人数や就労させた期間といった事情が考慮され、その人数が多いほど、期間が長いほど処罰が重くなる傾向があります。
初犯であれば執行猶予付きの拘禁刑に加えて罰金刑が一緒に科されるケースが多いようです。
特に注意を要する点として、入管法には、在留資格を確認せず外国人を働かせた場合には「知らなかった」「うっかり」では済まされず処罰されるという規定があります。

確認義務を怠った以上、雇った外国人の在留資格について問題ないと認識していたとしても、罪に問われてしまう可能性があるので注意が必要です。
もし逮捕・起訴されて有罪判決を受ければ前科がつき、社会生活や就労にも大きな支障をきたします。

更に、刑事裁判で実刑判決を受け服役する事態になれば、仕事や家庭など生活基盤への大きな打撃は避けられません。

特に、日本に在留している外国人にとっては、このまま日本に在留し続けられるかという重大な問題も生じてきます。これは、永住資格を有している人でも同じです。

永住資格への影響

永住者にとって重大なのは、有罪か否かにかかわらず不法就労助長の事実によって在留資格自体が危うくなることです。
不法就労助長を行った外国人は、入管法24条3号の4に定める退去強制事由に該当し、永住者であっても強制送還の対象となり得ます。
たとえ刑事事件については不起訴となるなど罰を受けなかった場合でも、在留資格の審査は裁判所とは別の機関である入管当局が取り扱うので、入管当局に不法就労助長行為が認められてしまうと、直ちに強制退去の手続きが進められてしまうおそれがあります。
そして、一度でも退去強制となれば永住許可は取り消され、日本からの出国を余儀なくされます。
日本での職場や家庭、暮らしの基盤を一瞬にして失ってしまう可能性があり、その影響は計り知れません。
永住資格を持つ方にとって、「本罪の嫌疑をかけられること」それ自体が、日本に住み続ける権利を失う非常に深刻なリスクを伴うのです。

取調べ対応と弁護活動

捜査段階で警察から取調べを受ける際には、自身の権利を理解し慎重に対応する必要があります。
取調べを受ける人には黙秘権(話したくないことは話さなくてよい権利)が保障されており、警察に言われるがままに供述する義務は全くありません。
不用意な発言が自分に不利な証拠となりかねないため、可能であれば弁護士と相談した上で取調べに臨むことが望ましいでしょう。
弁護士から取調べ対応のアドバイスを受ければ、供述内容に注意しながら適切に対処でき、結果的により重い刑罰を避けることにもつながります。
また、弁護人となった弁護士は、早い段階で検察官と交渉し、有利な事情を示して不起訴処分や減刑を求める弁護活動を行います。
さらに、永住者の場合は悪質な故意がなく過失にとどまることなどを、入管当局に対しても事案に応じて強調し、退去強制処分を避けるよう弁護します。
このように専門家による適切な弁護活動によって、刑事処分や強制送還といった最悪の事態を回避できる可能性があります。

早期の弁護士相談の重要性

不法就労助長罪の疑いをかけられた場合、できるだけ早く弁護士に相談することが肝心です。
刑事事件は時間との勝負であり、初動の対応次第でその後の結果が大きく変わります。
特に逮捕後は警察での取調べと並行して在留資格取消しの調査が進むケースもあります。
しかし、国選弁護士(裁判所が選任する弁護人)は刑事事件のみを担当する弁護士であり、入管当局によるビザ取消し手続きには関与できないため、永住資格を守るためにはビザにも対応できる私選の弁護士を早急に依頼する必要があります。

早期に経験豊富な弁護士に相談すれば、刑事弁護と入管手続の両面にわたる戦略を立てることが可能です。
例えば、証拠が揃う前に適切な弁解を準備したり、必要に応じて入管当局への働きかけ(在留特別許可の申請等)を検討したりと、打てる手は格段に増えます。
事態が深刻化する前に専門家のサポートを受けることで、処分の軽減や在留資格維持の可能性を高められるでしょう。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所までご相談ください

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、日本でも数少ない刑事事件・少年事件を専門的に取り扱う全国規模の法律事務所です。
全国の主要都市に拠点を構え、外国人の入管在留案件を含む様々な刑事事件で豊富な実績を有しています。
特に、入管手続にも精通した弁護士および行政書士チームが在籍しており、刑事手続と在留資格手続の両面でワンストップの法的サポートが可能です。
永住者を含む在日外国人の権利と生活を守るために全力で対応いたします。
当事務所では24時間365日、初回無料法律相談を受け付けております。

永住者の方で刑事事件について不安がある方は、ぜひ弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。

 

永住外国人がフェンタニルで逮捕されたら?―刑事罰と退去強制リスク、早期の弁護士相談が重要

2025-10-04

事例紹介:永住者Aさんのフェンタニル使用事件

永住資格を持つ外国人のAさんは、母国からごく少量のフェンタニルを日本に持ち込み、国内で自己使用しました。しかし病院に搬送され、診察で麻薬使用の疑いが浮上しました。尿検査などの結果、Aさんがフェンタニルを使用していたことが判明し、その場で逮捕されてしまいました。Aさんには前科がなく、今回が初めての違法行為でした。このケースを通じて、逮捕・起訴から在留資格への影響までを見ながら、「早期に弁護士へ相談する重要性」を考えていきます。

フェンタニル使用の刑事罰:初犯でも油断できない

フェンタニルとは医療用鎮痛剤として使われる成分ですが、乱用すると幻覚症状を引き起こし、過剰摂取により死亡事故も起きている非常に危険な薬物です。そのため日本では「麻薬及び向精神薬取締法」(麻向法)により輸入・所持・使用が厳しく禁止されています。フェンタニルは同法の規制対象(別表第一77号が指定する麻薬)に指定されており、正当な医療目的以外で使用しただけでも犯罪となります。

この麻向法66条の2第1項では、麻薬(フェンタニル等)の使用罪の法定刑は「7年以下の拘禁刑」と定められています。つまりAさんの場合、たとえ少量の使用でも最悪7年の拘禁刑(懲役刑)を科される可能性が法律上はあるわけです。ただし実際の量刑は個々の事情で異なり、一般に初犯で自己使用目的のみであれば比較的軽い傾向があります。過去の判例や傾向からすると、前科のない初犯の薬物使用者には執行猶予付きの判決が下されるケースもあります。Aさんも使用量がごく少量・使用回数も1回のみ・前科なしという状況から、執行猶予付きの懲役刑(いわゆる執行猶予判決)になる可能性が高いと予想されます。

しかし油断は禁物です。量刑は以下のような要素で重くも軽くもなります:

  • 薬物の量: 持ち込んだ・使用した量が多いほど刑は重くなります。少量とはいえ油断できません。
  • 使用(犯行)の回数: 常習性が疑われると厳罰化しやすく、回数が増えるほど悪質と見られます。
  • 前科の有無: 前科があると再犯とみなされ刑が重くなります。初犯は情状酌量の余地があります。

Aさんは幸い初犯でしたが、もし営利目的(売買目的)で麻薬を扱っていた場合、初犯でも実刑(執行猶予なしの懲役刑)となる可能性が高くなりますこのようにケースによって結果が大きく変わるため、刑事手続きの早い段階から専門家である弁護士と十分に打ち合わせをして対応策を練ることが極めて重要です。

逮捕から起訴まで:外国人だからこそのリスク

逮捕された後、警察による取り調べや身柄の拘束(勾留)が行われます。薬物事案では証拠隠滅や逃亡の恐れから逮捕・勾留が長引く傾向があり、場合によっては共犯者捜査のために接見禁止(家族などとの面会禁止)が付くこともあります。接見禁止が付されると弁護士だけが面会可能となるため、家族であっても本人と直接会えません。このような状況下でも弁護士であれば接見して本人の状況を確認し助言できます。早めに弁護士に依頼しておけば、孤立しがちな被疑者(本人)を励ますこともできます。

検察官が起訴(正式な裁判にかけること)するかどうかの判断は、事実関係を認めているか否か,証拠の強さによって決まります。Aさんの場合、尿検査で陽性反応が出ている以上起訴され公判にかけられる可能性が高いでしょう。

また,起訴後は保釈が認められない限り裁判が終わるまで勾留が続きます。保釈を勝ち取るには裁判所への請求と保証金の納付が必要で、法律の専門知識が要求されます。ここでも弁護士のサポートが不可欠です。早期に弁護士に相談していれば、勾留に対する不服申立てや保釈請求など迅速な対応が可能となり、場合によっては本人を早く解放させて通常の生活に近い状態で裁判に臨ませることも期待できます。

有罪判決で待ち受ける在留資格への影響:強制送還のリスク

Aさんのような外国人が日本で罪を犯し有罪判決を受けると、刑事罰だけでなく在留資格への重大な影響があります。日本の入管法(出入国管理及び難民認定法)24条4号チという規定では、麻薬及び向精神薬取締法などの薬物に関する法律に違反して有罪判決を受けた外国人は退去強制(強制送還)の対象になると定められています。これは執行猶予付き判決であっても例外ではありません。執行猶予が付いて刑務所に行かずに済むとしても、「有罪判決を受けた」という事実に変わりはないため、入管法上は退去強制事由(国外退去させる理由)に該当してしまうのです。

その結果、原則として日本からの強制退去が待ち受けます。永住者であっても、この退去強制を回避しない限り日本に住み続けることはできません。Aさんも仮に執行猶予判決となった場合でも、この規定に該当するため強制送還のリスクが生じます。

在留特別許可という最後の望み

とはいえ、一度の過ちで即座に生活基盤を奪われてしまうのは本人・家族にとって大変深刻です。そこで法律上、退去強制の対象になった外国人にもわずかながら救済の途があります。それが「在留特別許可」と呼ばれる制度です(出入国在留管理局HP)。退去強制となる事情があっても、法務大臣の裁量で特別に日本への在留を許可してもらえる可能性があります。例えば日本人の配偶者や子どもがいる場合、長年日本で暮らして地域に溶け込んでいる場合などは、積極的に考慮される「在留すべき事情」となり得ます。

Aさんの場合、永住者ということは日本に生活の本拠があり、家族や仕事など日本での生活基盤があると考えられます。それらを根拠に「日本に引き続き在留する必要性(情状)」を主張できれば、在留特別許可が与えられる余地があります。ただし在留特別許可は自動的にもらえるものではなく、あくまで「特別に許可」されるものです。申請や審理の過程で日本に残るべき正当な理由を具体的に示し、入管当局に認めてもらわなければなりません。

弁護士ができること:刑事弁護から在留特別許可のサポートまで

弁護人(弁護士)としてAさんのようなケースでできることは大きく分けて2つあります。一つは刑事手続における弁護活動、もう一つは在留資格に関わる手続(在留特別許可)の支援です。

  1. 刑事弁護活動: まず刑事裁判においてできる限り情状酌量を引き出し、量刑を軽減するよう努めます。具体的には、犯行に至った経緯や本人の反省状況、今後再犯しないための環境(治療計画や家族の監督体制など)を丁寧に主張し、執行猶予付き判決減刑を目指します。初犯であることや使用量の少なさなど有利な事情は最大限強調し、裁判官に「更生可能性が高い」と判断してもらうことが重要です。また、勾留中であれば早期の保釈請求も行い、社会復帰しやすい環境で裁判を受けられるよう手配します。
  2. 在留特別許可のためのサポート: 有罪判決によって退去強制手続きに移行した場合、在留特別許可の申請手続きを全力でサポートします。具体的には、本人および家族の状況を詳しくヒアリングし、日本に残る必要性を示す資料(家族関係を証明する書類、嘆願書、雇用証明、納税記録など)を収集・提出します。

なぜ早期相談が重要なのか:逮捕後すぐ動くことのメリット

以上のように、外国人が罪を犯した場合には「刑事罰」と「在留資格の剥奪」という二重のリスクに直面します。しかし逆にいえば、早めに専門の弁護士に相談することで刑事手続と入管手続の両面に備えることが可能となります。逮捕直後から弁護士が付けば、取り調べ段階での助言や権利擁護(黙秘権の行使や供述調書のチェックなど)を受けられ、不利な証言を避けられるかもしれません。また、家族との連絡調整や必要書類の収集も早期から開始できます。裁判で有利な証拠や嘆願書の準備、さらには在留特別許可のための資料作成も、時間的猶予をもって進められます。

一方、対応が遅れると手遅れになるリスクがあります。例えば有罪判決が確定してから慌てて在留特別許可の準備を始めても、充分な主張を組み立てる時間がないかもしれません。場合によっては拘束中に強制送還の日程が進んでしまい、準備が整わないまま本国送還となりかねません。早期に信頼できる弁護士に相談し、刑事弁護と入管対応を一貫して依頼しておけば、そのような最悪の事態を避けられる可能性が高まります。

おわりに:家族のためにも迅速な相談を

永住外国人やそのご家族にとって、日本で築いた生活基盤を犯罪によって失うことは想像を絶する不安でしょう。しかし、逮捕・起訴されたとしても諦めず、まずは弁護士に相談することが肝心です。専門の弁護士であれば、刑事裁判での戦略立案から在留特別許可の申請まで総合的にサポートしてくれます。Aさんのケースでも述べたように、初犯なら執行猶予の可能性があり刑務所行きを避けられるかもしれません。さらに判決後も適切に対応すれば、在留特別許可を得て日本に住み続ける道が開ける可能性もあります。そのためには時間との勝負です。問題が発覚した時点で一刻も早く弁護士に相談し、今後の見通しや取るべき手段についてアドバイスを受けてください。逮捕・起訴・強制送還という最悪の結果を防ぎ、かけがえのない生活と家族を守るために、早期の弁護士相談が何より重要なのです。

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定住者が盗難車を買ったらどうなる?盗品有償譲受罪の刑事処分と退去強制の可能性

2025-09-27

【事例】
Aさんは、日本に定住者の資格で在留する外国人です。Aさんは、中古車販売を行う会社を経営しています。
ある日、友人から紹介された中古車の販売をするBさんから、この車を売りたいと言われたことから、中古車を購入することになりました。
しかし、その自動車はなぜか、鍵穴が壊され、ナンバープレートが取り外されており、この車を持っていたとされるCさんからBさんに所有者が移ったのか車両番号から明らかでありませんでした。そのため、AさんはBさんに「盗難車じゃないのか」と聞いたところ、「そうじゃない」と言われました。そのため、盗難車でないなら買い取ろうと思って100万円で購入しました。
なお、Aさんはこれまで、盗品の中古車を会社で買うことはありませんでした。また、Aさんには前科等はありませんでした。
そうやってBさんから中古車を購入して数か月たったころ、警察から、盗品有償譲受の疑いで会社に対する捜査が入り、Aさんは逮捕されてしまいました。
このような場合に、①どのような刑事処分を受けるのか、②退去強制処分になるのかについて解説していきます。

(1)盗品有償譲受罪に対する刑事処分

刑法256条2項によれば、「前項に規定する物(盗品その他財産に対する罪に当たる行為によって領得された物)を…(中略)…有償で譲り受け」た場合に盗品有償譲受罪が成立し、10年以下の拘禁刑及び50万円以下の罰金の刑に処されるとされます。注意が必要なのは、盗品関与罪に当たる罪を犯した場合、必ず、懲役刑(執行猶予も含む)と罰金が科されるということです。
盗品有償譲受罪が成立した場合の量刑傾向は、①被害品の価格、②業務として継続的にやっているか否か、③前科があるかなどによって判断されます。

①については、金額が大きければ大きいほど重く見られます。
②については、継続的にやっていれば、やっているほど重く見られます。
③については、前科があれば、重く見られます。

今回のAさんの場合、金額が100万円と高額ですが、これまで盗品の中古車を買い受けていないこと、前科がないことが有利な事情として考慮されて、執行猶予付きの有罪判決に罰金刑が併科される可能性が高いです。

(2)退去強制処分の可能性について

定住者が退去強制処分になるかどうかについては、入管法24条4号リに規定があります。
これによれば、1年以上の実刑判決を受けた場合には、退去強制処分の対象となります。
本件事案におけるAさんは、執行猶予付きの有罪判決と罰金の刑罰を受けることが予想されることから、退去強制処分になるとは考えにくいです。

(3)弁護士にできること

弁護士としてできることとしては、①中古車が盗品だと知らなかったと主張して無罪判決を得ることのできるよう活動すること、②被害者と示談して、不起訴を目指す活動をすることが考えられます。
①のように、中古車が盗品だと知らなかったと主張するためには弁護士を付けて対応することが望ましいこと、②示談をして、不起訴を目指すためには、弁護士を付けることが望ましいことから、盗難車の売買に関わって、お困りの方は迅速に弁護士に相談されることをお勧めします。

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家族滞在の子どもが窃盗事件を起こしたら?少年事件手続きと在留資格への影響

2025-09-20

Aさんの息子は、家族滞在の資格で日本に滞在し、現在高校2年生です。お子さんは、スーパーマーケットでお菓子を万引きしてしまいました。
このことで息子さんは何度か取り調べを受けています。

以上を前提として
①息子さんが受ける手続きはどのようなものになるか
②①によって退去強制となることがあるか
以上の点について解説していきたいと思います。

⑴少年事件手続き

日本の刑事手続きにおいては、まずは20歳以上と20歳未満でその手続きが区別されます。
20歳以上は大人の手続きとなり罰を受けるのに対し、20歳未満の場合にはいったん少年手続きに進みます。
20歳未満の人が刑事事件を起こした場合には、全ての事件が家庭裁判所に送られることになっています。
この家庭裁判所の手続きでは、18歳、19歳の「特定少年」と、18歳未満の少年で再び区別されることになっています
特定少年でも、それ以外の少年でも、家庭裁判所で「検察官送致決定」というものを受けると、大人と同じ手続きに戻り、刑事罰を受けることになります。
これに対し、少年院送致、保護観察、児童自立支援施設送致、不処分等の決定は、いずれも刑事罰ではなく少年特有の保護処分という扱いとなります。

今回の息子さんの場合、高校2年生の年齢であれば、通常通り家庭裁判所に事件が送致されます。また、特定少年ではないと予想されるため、おそらく保護処分となることが予想されますが、
その程度は、これまでの前歴や、家庭環境、補導歴といった、事件以外の要素も考慮して決定されることとなっています。
万引きの場合、初犯であったり、被害額が少なく被害弁償も済んでいるというような事情がある場合には、審判不開始となる可能性も十分あります。

⑵退去強制となるか

それでは、家庭裁判所の処分により退去強制となるかについて検討します。
入管法で、少年の退去強制事由を定めているのは、24条4号のトです。同号は「少年法(昭和二十三年法律第百六十八号)に規定する少年で昭和二十六年十一月一日以後に長期三年を超える拘禁刑に処せられたもの」
と定められています。

長期3年を超える場合、執行猶予付きの判決とすることができませんので、3年を超える実刑判決を受けた場合ということになります。大人の場合には、1年以上の実刑(同号リ)で退去強制となるとされていることから比べると少年の方が退去強制とするための要件が厳しいと言えます。
いずれにしても、保護処分の場合、刑事罰ではありませんから、仮に3年以上少年院送致をされるようなことがあったとしても、これは退去強制事由には当たらないということになります。
ですので、この方の事件の場合には、退去強制となることは通常考えられないと判断してよいように思われます。
窃盗の場合、転売目的であったり、被害額が極めて高額(宝石など)になったような場合には検察官送致とされ刑事処分を受ける可能性もないわけではありません。

⑶弁護活動

窃盗は、大人であってもなんらかの刑罰が科される可能性のある犯罪です。
被害者への被害弁償はもちろん必要ですが、それだけではなく将来の在留資格更新を行ったり、お子さんの更生のためにも、専門の弁護士にご依頼ください。

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経営管理の人が不同意性交等で退去強制となるか

2025-09-13

「経営、管理」の在留資格で日本に滞在しているAさんは、ある日通行中の女性にいきなり抱き付き、背後から胸をもみ、押さえつけ、暗がりの中で性交を行うという不同意性交事件を起こしました。
数ヶ月後、Aさんは警察により逮捕されてしまいました。
このとき
①Aさんが受ける刑事罰はどのようなものになるか
②①の刑事罰により退去強制になることはあるのか
③Aさんとしてできることはあるのか
以上の点について解説していきたいと思います。

⑴不同意性交等の刑事罰

Aさんの起こした事件は「不同意性交等」と呼ばれるものに該当する可能性が高いと言えます。
不同意性交等罪の法定刑は、5年以上の拘禁刑となっていますが、具体的な刑罰は、行為の程度や回数、被害者の処罰感情などにより決められます。
典型的な不同意性交等事件であっても、5年の拘禁刑となることが多く、示談等ができていない限り執行猶予付き判決となることは稀であると言えます。

⑵退去強制事由となるか

刑事事件と退去強制が関わる条項は、いくつかありますが、代表的なものは入管法24条の
4号チ 薬物事件で有罪判決を受けた者
4号リ 1年以上の実刑判決を受けた者
4号の2 窃盗などの事件で有罪判決を受けた者(別表第1の資格に限る)
となっています。

今回の事件であれば、1年以上の実刑判決となる可能性が極めて高いと言えます。そのため、退去強制事由に該当し、強制退去となる可能性が高いと言えます。
しかし、仮に執行猶予付き判決などで退去強制とならなくても、在留資格の更新を受けられるかどうかは別問題です。
在留資格の更新時には素行が善良であることが求められていますが、有罪判決を受けた場合には素行善良の要件に問題が生じ、在留資格の更新がされない場合があります。
このような場合、在留資格が更新できず、期限が到来してしまうと、オーバーステイ状態となり、退去強制事由に該当してしまいます。

⑶Aさんはどうすればよいか

不同意性交等罪で逮捕された場合、最初は家族であっても面会できません。
逮捕されてから2日程度は、弁護士以外が面会できない状況になりますので、家族としても状況の把握などが困難です。
また、仮に釈放されたとしても、捜査が継続して、場合によっては刑事罰を受けてしまうことは上述の通りです。
逮捕された場合には警察からの連絡を受けてすぐに、在宅事件の場合でもできる限り早く、弁護士に相談し、被害者の方への謝罪や
入管への対応などを検討する必要があります。
在留資格の不更新の決定が出てしまってからとなると、在留特別許可を得る方法以外が困難となり、取りうる手段が減ってしまいます。
まだ処分が出る前、色々な対策を講じることができる時期に、弁護士にご相談ください。

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経営管理ビザで大麻事件を起こして退去強制となるか

2025-09-06

Aさんは経営管理のビザで入国し、日本国内で事業を営んでいました。
ある日、Aさんが路上を歩いていたところ、職務質問を受け、持っていた大麻草が発見されてしまいました。

このとき
①Aさんが受ける刑事罰はどのようなものになるか
②①の刑事罰によりAさんは退去強制となるか
以上の点について解説していきたいと思います。

大麻所持の刑事罰

大麻を所持していた場合、従前は大麻取締法違反で処罰されていました。しかし、法改正により麻薬及び向精神薬取締法違反で処罰されることになりました。
なお、注意を要する点として、従来大麻使用が処罰されていなかったところ、改正法では大麻使用(施用)も処罰の対象となりました。
大麻所持の法定刑は、従前は5年以下の懲役でしたが、改正により7年以下の懲役となりました。若干法定刑が重くなったこととの関係で、今後の裁判では今までよりも量刑が重くなる可能性があります。
ただ、初犯の所持の場合は執行猶予付き判決ということで変わりがないのではないかと思います。

大麻事件の刑事弁護についてはこちらからどうぞ。

退去強制となる可能性

それでは刑罰法令違反が退去強制事由となるかどうかを考えていきます。別表第2の在留資格の場合、入管法等在留関係の法律以外の刑罰法令が問題となる退去強制事由には、入管法24条4号チがあります。

入管法24条4号チは、「昭和二十六年十一月一日以後に麻薬及び向精神薬取締法、大麻草の栽培の規制に関する法律(昭和二十三年法律第百二十四号)、あへん法、覚醒剤取締法、国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律(平成三年法律第九十四号)又は刑法第二編第十四章の規定に違反して有罪の判決を受けた者」とするものです。

この4号チで問題とされるのは、いわゆる薬物事件で、罰金、執行猶予、懲役を問わず有罪となった場合には退去強制事由に該当します。大麻所持の場合執行猶予付き判決の可能性が高いと考えられますので、このままであれば退去強制事由に該当します。

先述の通り、大麻所持罪で刑事罰を受けてしまうと、退去強制となる可能性があり、日本国内に留まれない可能性があることを指摘しました。

検察庁は、全ての刑事事件について起訴をし、刑事処分を求めるのではなく、一定の事件を起訴猶予(不起訴)としています。
最終的な処分を決定する際、再犯の可能性や所持していた量は大きな考慮要素となります。
出来る限り刑事処分を軽減するためにも、検察官との交渉は不可欠です。

具体的な事件についてはこちらにご相談ください。

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経営管理の外国人が暴処法違反を起こした場合,強制送還の可能性は

2025-08-30

【事例】
Aさんは、経営管理の資格で日本に在留する外国人です。
ある日、奥さんのBさん(外国籍)とけんかになった際に、「誰が、稼いできていると思っているんだ」と怒鳴りながら、Bさんに包丁(刃体の長さ16センチ)を向け、腕にけが(全治7日程度)をさせてしまいました。この際、Aさんとしては、Bさんに反省してもらいたいという思いから刃を向けており、殺すつもりはなかったとのことでした。
なお、Aさんに前科前歴はありません。
この場合に、Aさんは、どのような刑事処分を受けるのか、退去強制になるのかについて解説していきます。

(1)どのような刑事処分を受けるのか

 人をけがさせた場合、通常は傷害罪が成立するのですが、今回の事件のように、包丁などの刃物を使って人をけがさせた場合は異なります。暴力行為等処罰に関する法律1条の2によれば、「刀剣類を用いて人の身体を傷害した」場合には加重傷害罪が成立することが規定されています。
この加重傷害罪の法定刑は1年以上5年以下の懲役刑であり、通常の傷害罪とは異なり、罰金刑が予定されていません。そのため、軽くとも、執行猶予付きの懲役刑となります。
この暴処法違反の刑の重さは、①どのくらいのけがをさせたのか、②用いられた刃物はどのくらい危険だったのか、③前科前歴はあるのかなどによって判断されます。
①については、けがの程度が重ければ重いほど、重く見られます。
②については、用いられた刃物が大きいなど危険な場合、重く見られます。
③については、前科前歴があれば、重く見られます。
なお、被害者が家族ではない場合には、示談をすれば不起訴で終わったり、刑罰を軽くすることも考えられます。しかし、家族である場合被害者へ被害弁償をしたとしても、実質的には、加害者の金のままであるということが考えられるので、今回の事件のような場合には示談を行ったかどうかについては、決定打にはなりません。
今回の事件の場合、Bさんのけがの程度は、全治7日と重くはないこと、包丁を用いており危険性がかなり高いとまでは言えないこと、Aさんには前科前歴がないことから、執行猶予付きの有罪判決となることが見込まれます。

暴力行為等処罰法違反事件についての解説はこちら。

暴力行為等の処罰に関する法律違反事件

(2)退去強制処分になるのか

「経営管理」の在留資格の人が退去強制になるかについては、入管法24条4号の2に根拠があります。
この規定は、暴力行為等処罰に関する法律1条の2の罪が掲げられていますので、執行猶予付きでも懲役刑になった場合には、退去強制処分の対象となります。
そのため、仮に、日本に残りたいという場合には、在留特別許可を求める必要があります。

(3)弁護士としてできること

このような刑罰や退去強制処分が予想されることから、弁護士としては、①再犯防止のために、別居するなどの再発防止措置をとり不起訴を目指すこと、②在留特別許可を得られるよう活動することができます。
①については、AさんとBさんでいったん別居するなどして、再度暴力をふるうことがないような環境を整え、不起訴を目指していくことが考えられます。
②については、仮に、この件で有罪になったとしても、在留特別許可を得ることができるよう活動することで、日本に在留できるよう目指すことが考えられます。
このような活動ができますので、DV事件や暴力行為等処罰に関する法律違反の事件を起こしてしまった場合には、早めに弁護士に相談することをお勧めします。

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経営管理ビザの外国人経営者が逮捕されたらどうなる?在留期間更新への影響と対応

2025-08-23

事例

(解説のための架空の事例です)

X国籍のAさんは経営・管理ビザで入国し、日本国内で会社を経営していました。ある日、Aさんが東京都内の路上を歩いていたところ、警察官に職務質問を受けます。所持品検査の結果、Aさんのカバンから乾燥大麻(いわゆるマリファナ)が数グラム見つかり、その場で現行犯逮捕されてしまいました。

この事例をもとに、以下の2点について解説します。

  1. Aさんが受ける刑事罰はどのようなものになるか(大麻所持の刑事罰)

  2. その刑事罰によってAさんの在留期間の更新は可能か(ビザ更新への影響と退去強制のリスク)

大麻所持の刑事罰

まず、Aさんが所持していた大麻に関する刑事罰について説明します。日本では大麻を所持した場合、「大麻取締法違反」で処罰されてきましたが、令和5年の法改正によって大麻取締法の規制内容が変更されています。改正後は、大麻は麻薬及び向精神薬取締法上の「麻薬」と位置付けられ、大麻を使用する行為(施用)も新たに処罰対象となりました。

従来は「大麻を吸っただけ」では処罰されませんでしたが、今後は体内から大麻成分が検出されれば麻薬の使用罪として逮捕・起訴される可能性があります。
これは覚醒剤などと同様に大麻の単純使用であっても7年以下の拘禁刑が科され得るという、非常に厳しい内容です。

さらに、この法改正に伴い大麻の所持に対する法定刑も引き上げられました。改正前は大麻取締法違反(営利目的でない単純所持)の法定刑は5年以下の懲役でしたが、改正後は7年以下の拘禁刑(懲役刑)となっています。営利目的で所持していた場合はさらに重く、1年以上10年以下の拘禁刑(情状により300万円以下の罰金併科)という厳しい刑に強化されています。このように大麻所持は以前にも増して重い犯罪と位置づけられ、初犯であっても状況次第では実刑判決もあり得るほど厳罰化が進んでいます。

もっとも、少量の大麻を初めて所持した程度であれば執行猶予付き判決になる可能性が高いと考えられます。実際、Aさんの所持量は数グラムと少なく、営利目的ではなく自己使用目的でした。所持の態様もカバンに入れていただけで、隠匿方法が巧妙だったわけではありません。加えて初犯である点を踏まえれば、裁判では拘禁刑(7年以下)のうち執行猶予付き判決が見込まれるでしょう。

在留期間の更新はできるか?

それでは、上記のような刑事処分を受けた場合にAさんの在留期間更新(ビザ更新)は可能かを考えてみましょう。結論から言えば、大麻所持で有罪判決を受けてしまうと在留期間の更新は極めて難しくなります
なぜなら、日本の入管法やガイドライン上、「素行が不良でないこと」(=日常の行いが善良であること)が在留継続の重要な要件とされているからです。重大な犯罪で有罪となった場合、それは「素行不良」と判断され、在留期間更新の審査で大きなマイナス要素になります。

入管法上の具体的な規定も見てみましょう。Aさんの経営・管理ビザ(外国人経営者としての在留資格)は就労ビザの一種であり、入管法別表第一に定められた在留資格です。
入管法第24条には退去強制(強制送還)となる事由が列挙されていますが、その中で薬物に関する犯罪について定めた規定があります。入管法24条4号チでは、「麻薬及び向精神薬取締法、大麻取締法、あへん法、覚せい剤取締法…の規定に違反して有罪の判決を受けた者」は退去強制の対象になると定められています。大麻所持はまさにこの規定に該当する犯罪です。罰金刑や執行猶予付き判決であっても有罪となれば退去強制事由に該当してしまいます。

以上から、Aさんが大麻所持で有罪判決を受けてしまった場合、在留期間の更新どころか、強制的に退去させられる(強制送還される)可能性が極めて高いと言えます。実際の手続きとしては、判決が確定した後、入国在留管理庁から呼び出しを受けて事情聴取(違反調査)が行われ、退去強制の手続きに入ります。

大麻取締法違反で強制送還,再入国できるのか

退去強制となれば、日本に在留し続けることはできず、本国への送還が命じられることになります。なお、退去強制の具体的な手続きや流れについてはこちらでも解説しています。

例外的な救済策: どうしても日本に残りたい事情がある場合には、「在留特別許可」を求めることも考えられます。在留特別許可とは、本来は退去強制となる外国人であっても、法務大臣の裁量で特別に在留を許可する制度です。しかし、在留特別許可が認められるのは人道上配慮すべき特段の事情がある場合など非常に限られています。したがって、退去強制事由に該当する有罪判決を受けてしまう前に、いかにその事態を回避するか・または後の在留特別許可申請をにらんだ活動が何より重要になります。

弁護活動(逮捕後の対応策)

以上のとおり、大麻所持で有罪判決を受けるとビザの更新ができないばかりか、退去強制によって日本に在留できなくなるリスクがあります。外国人経営者にとって、日本で築いた事業基盤や生活を突然失う事態にもなりかねず、避けるべき深刻な結果です。そのため、逮捕後の対応(弁護活動)が極めて重要となります。

まず検討すべきは、不起訴処分(起訴猶予)を獲得することです。起訴されて有罪判決となれば退去強制は避けられませんので、そもそも起訴されないようにすることが最善の戦略となります。検察官は全ての事件を起訴するわけではなく、情状によっては起訴猶予(不起訴)とすることがあります。特に初犯で所持量がごく少量の場合など、再犯の可能性が低いと判断されれば、不起訴とされる余地があります。実際、処分が決定される際には再犯の可能性や所持していた大麻の量が大きな考慮要素となります。少しでも処分を軽くしてもらうためには、検察官に対して反省の意思や再犯防止策(例えば薬物依存治療に取り組む意思など)を示し、起訴猶予相当であると働きかけることが有効です。

そのためには、早い段階で弁護士を通じて検察官と交渉することが不可欠です。逮捕直後から弁護士が関与し、取調べ対応のアドバイスや有利な情状の収集・提出を行うことで、不起訴や寛大な処分を引き出せる可能性が高まります。例えば、大麻所持の事実関係について情状酌量を求める嘆願書を提出したり、必要に応じて故意(違法だと知っていたか)の有無を争うことも考えられます。

いずれにせよ、退去強制を回避するためには刑事事件における対応が極めて重要です。そのためには逮捕後の初動対応が極めて重要です。
Aさんのように外国人の方が逮捕されてしまった場合、できるだけ早く刑事事件と入管手続双方に精通した弁護士に相談・依頼することを強くお勧めします。専門の弁護士であれば、刑事弁護活動によって起訴や有罪判決を回避するとともに、万一起訴された場合でも入管当局への働きかけ(在留特別許可の申請準備など)について適切なアドバイスを行ってくれるでしょう。逮捕後の対応如何で、その後も日本にとどまり事業を続けられるかどうかが決まると言っても過言ではありません。外国人経営者の方は、万が一刑事事件に巻き込まれてしまった場合、速やかに経験豊富な弁護士にご相談ください。

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経営管理で速度違反を起こすと在留資格の更新ができるか

2025-08-16

事例(フィクションです)

「経営、管理」の在留資格で日本に滞在しているAさんは、適法な運転免許証を所持し、自家用車を保有していました。
ある日、Aさんは、自動車で帰宅中、周りの景色に気を取られてしまったことが原因で、思ったより速度が出てしまいました。
たまたま速度違反の取り調べを受けていた警察官によって速度が計測されてしまい、違反の事実が明らかになってしまいました。

このとき
①Aさんが受ける刑事罰はどのようなものになるか
②①の刑事罰は、Aさんの在留期間の更新時に影響があるか、若しくは退去強制処分となるか

以上の点について解説していきたいと思います。

⑴速度違反の刑事罰

今回は速度違反についての問題です。
速度違反については、「反則金」(青切符)で処理される場合と、「罰金」(赤切符)で処理される場合の2種類があります。
どちらになるのかは、①どのような道路での違反か,②何キロオーバーかの2つの点から決定されることになります。

一般道の場合、30キロオーバー以上が赤切符であり、それ未満は青切符です。
高速道路などの場合には、40キロオーバー以上が赤切符であり、それ未満は青切符です。

青切符の場合、いわゆる行政罰の一種として処理されることになりますので、前科にはなりません。
これに対して赤切符の場合には、「罰金」ですから、前科となります。
ですので、Aさんがどこで、何キロオーバーしたかで処分が異なるということになります。

スピード違反の刑事事件の弁護についてはこちらで解説しています。

スピード違反

⑵「経営、管理」の在留資格について

在留期間の更新は「更新を適当と認めるに足りる相当の理由があるとき」(出入国管理及び難民認定法21条2項)に認められますが、この認定にあたっては、出入国在留管理庁によるガイドラインがあります。
 このガイドラインによると、在留期間の更新が許可されるのは

1 行おうとする活動が申請に係る入管法別表に掲げる在留資格に該当すること
2 法務省令で定める上陸許可基準等に適合していること(別表第1の2の表又は第4の表に掲げる在留資格の下欄に掲げる活動を行おうとする者)
3 現に有する在留資格に応じた活動を行っていたこと
4 素行が不良でないこと
5 独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること
6 雇用。動労条件が適正であること
7 納税義務を履行していること
8 入管法に定める届出等の義務を履行していること

とされています。
このうち4の部分には「素行については,善良であることが前提となり,良好でない場合には消極的な要素として評価され,具体的には,退去強制事由に準ずるような刑事処分を受けた行為,不法就労をあっせんするなど出入国在留管理行政上看過することのできない行為を行った場合は,素行が不良であると判断されることとなります。」との記載がなされています。

それではガイドラインに従って順に確認します。

まず、「経営管理」の在留資格は、入管法上別表第1の2の表に記載がある在留資格です。
そのため、法務省令に定める上陸許可基準等に適合する必要があります。
この上陸許可基準は公表されていますが、概ね業務に関する事項や報酬についての定めが記載されています。ですので、仮にスピード違反によって処罰されたからといって上陸許可基準に該当しないというものではありません。

強制送還の対象?

今回の場合、ガイドラインに記載されている「素行が不良でないこと」が問題となります。そして、「退去強制事由に準ずるような刑事処分を受けた」場合には素行不良であると判断されることになるため、退去強制事由に準ずるような刑事処分であるかどうかを検討していくことになります。

それでは刑罰法令違反が退去強制事由となるかどうかを考えていきます。別表第1の在留資格の場合、入管法等在留関係の法律以外の刑罰法令が問題となる退去強制事由には、入管法24条4号リと同法24条4号の2があります。
まず、入管法24条4号リは、「無期又は一年を超える拘禁刑に処せられた者。ただし、刑の全部の執行猶予の言渡しを受けた者及び刑の一部の執行猶予の言渡しを受けた者であつてその刑のうち執行が猶予されなかつた部分の期間が一年以下のものを除く。」とするものです。

この4号リで問題とされるのは、実刑となった者、つまり執行猶予付きの判決を受けた場合は除かれています。速度違反の罪で実刑の判決となるのは複数回検挙されるとか、想定し難い速度違反等に限られると思われますので、典型的な速度違反ではこれに該当しない可能性の方が高いと思われます。

次に、24条4号の2ですが、こちらは一定の犯罪で拘禁刑に処せられた場合に退去強制事由となるものです。24条4号リとの違いは、罪名の違いがあるものの、執行猶予付きの判決であっても退去強制事由となる点にあります。ただ、Aさんが問題視されている速度違反は、この列挙された犯罪に含まれていませんから、これには該当しません。
最後に、次に、Aさんの処分が退去強制事由に「準ずる」刑事処分とまで評価されることがあるかどうかが問題となります。この点について、定住者告示3号等に該当する者の素行要件についての審査要領では「日本国又は日本国以外の国の法令に違反して、懲役、禁錮若しくは罰金又はこれらに相当する刑(道路交通法違反による罰金又はこれに相当する刑を除く。以下同じ。)に処せられたことがある者(以下略)」とされています。

この審査要領は一般の在留期間の更新にも該当すると考えられます。そのため、Aさんについても同じように考えることになりますが、かっこ書きで除外されているのは「道路交通法違反による罰金又はこれに相当する刑」となっており、速度違反での赤切符はこれに該当します。

だからといってこの赤切符のことを秘して在留期間更新申請を行うことはできませんので、入管当局に正直に説明し、二度と運転しないこと等の誓約を行い在留許可の更新を求める方がよいと思われます。

在留資格を持っている状態で速度違反をしてしまった場合には、期間の更新のためいち早く弁護士にご相談ください。

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